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《ネタバレ》 美食を切り口として宗教や芸術を語り、人生そのものを描いた映画だと思う。蝋燭の灯りを活かした撮影で、陰影に富む映像が見事。
前半は海辺の寒村を舞台に静かな時が流れる。牧師一家に生まれ、信仰を守りながら質素な暮らしを続ける老姉妹。過ぎし日に親交のあった音楽家から亡命女性の保護を依頼され、家政婦として雇う。宝くじが当たった彼女はお返しに晩餐会で料理をふるまう。老姉妹にとっては「鶴の恩返し」「情けは人のためならず」というところ。 後半は流れるような調理シーン・料理芸術の連続で、観る者を圧倒する。バベットが調達した数々の食材・・・新鮮な果物をはじめ生きたウミガメやウズラ、牛の頭部等。人はすべて生物(動物だけでなく植物も)の命を“いただいて”生きていることがよく伝わってくる。瑞々しい断面を見せるイチジクは生命の象徴であり、性の象徴でもある。 見慣れない食材を前に、警戒して好奇の目を向ける村人たち。晩餐会に招待された将軍が料理の価値を解説*し、彼らの心を解きほぐしていく。年老いた村人たちは過去のいざこざを想起するものの、美味なる料理の前で諍いは無用とばかり徐々に食事を楽しんでいく。村人たちにとって“命を維持する”ための食事が“芸術を味わう“喜びに変わる。最適な食材と腕前で料理は芸術となる。「芸術家は貧しくない」「食事を恋愛に変える」・・・バベットが味わうものは芸術家としての満足感だろう。 宗教的な意味づけの部分は難しいが「最後の晩餐」をモチーフにしたものと思う。村人たちは12使徒であり、将軍は“異端者としてのユダ”(*広義の解釈をすれば村人に対する裏切り)、バベットは“聖霊”の比喩というべきか。 コトコト煮込んで作った料理のような味わいのある映画である。わが人生において食欲よ永遠なれ、だ。 【風小僧】さん [CS・衛星(字幕)] 8点(2016-03-20 16:14:37)
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