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《ネタバレ》 冒頭の列車内、携帯をかけていたフォンが、ワンカットでリーに切り替わる。まず、その鮮やかさに唸らされる。そのリーは、車内にシューを見つけて、声をかける。この二人は他人と思いきや、実は知り合いであることに驚かされる。その微妙な距離感を維持したまま、二人は同じアパートへと歩いてゆく。やがて、導かれるようにフォンが合流し、三人のドラマが交差していく・・。 本作は、この三人の、近すぎず、そして離れすぎない関係性が、なぜか不思議な安心感を与えてくれる。 逃げたインコの、捕まりそうで捕まらない、その距離感のもどかしさ。 シューの元に「ジョニーはそこにいますか?」という、他人からの電話が何度も鳴り、片や、彼女には、ほとんど電話をしてこない、実の娘の存在がある。 シューとフォンは、恋人のようでもあるが、その一線は越えない。 このいくつかのエピソードや、「距離が近すぎると、愛し方も忘れる」という忘れ難い台詞に要約されるように、この映画は、人と人との、「距離感」を描いた物語である。心、住まい、人間関係、、ありとあらゆる距離感によって、人は無意識のうちに生かされもするし、時には行き詰まったりもする。 本作は、フォンが動かなくなった車を諦めて、乗り捨てる場面から始まる。しかし、例え故障していても人が力を合わせて押せば、少しずつ前進してゆけることを示唆して終わる。これは、リーの行き詰まった人生を後押しすることを予見させるものである。 やがて、カメラは俯瞰的な視野に変わり、街灯にライトアップされていく「台北」という大都会の夕暮れが美しい。 台北で暮らす若者の現代を的確に描いている、といった評価の本作であるが、私の感覚ではどこか懐かしい空気を感じさせるものだった。その風景が、どことなく東京に似ているからかもしれない。 一見しただけでは、嵐の前の静けさのごとく平穏、しかし長い年月を経て私の中で大きく存在感を増していくならば、この黃熙 (ホアン・シー) という監督は、楊徳昌、侯孝賢といった台湾の巨匠たちに、いずれ肩を並べる予感がするのである。
【タケノコ】さん [インターネット(字幕)] 8点(2024-05-08 23:53:19)(良:1票)
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