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《ネタバレ》 公開前から新聞や雑誌など、多方面でPRされていた映画。あまりふさわしくないキャッチコピーと、黒人が大笑いしながら車いすを押している写真はやや鈍感な印象で、これまでなんとなく避けてきたのだが、いざ映画が始まればそんな食わず嫌いもすぐにどこかへ消えた。
やはり主役ふたりのかけあいが絶妙で、同じシーンを何度も繰り返し見たくなるほど面白い。ユーモアのセンスも月並みじゃなくて良かった。男同士でストッキングをはかせるちょっとタブーでくすぐったい感じ。「これは健常者用のチョコレートだ」という危なっかしいジョーク。ベロだしてよだれをたらす障害者のマネ。どれもドキッとさせるきわどいコースをついていて「腹を立てるか抱えるかは自分で決めろ」といわんばかりの挑戦的な態度が清々しい。 うすっぺらくなりがちなドタバタ劇だが、最後までその濃密さやテンションが失われることがなかったのは、やはり入念な計算があってのことだろう。特に主役である富豪は、映画の最初から最後までずっと座っているのにもかかわらず映像が退屈にならないのはよくできていると思った。 印象的だったのは富豪と使用人たちの表情の変化だ。黒人が屋敷にやってくる前はみんな冷徹で無個性な表情だったのが、最後にはすっかり人間らしい柔からな表情に変わっている(イボンヌとの出会いと別れのシーンが好対照でわかりやすい)観客もその例外ではなく、新しい介護士がやってきて喫煙の有害性を説く場面では、私たちは彼の正論にうなずきながらもすっかり「マリファナ」のとりこになってしまっている変わり果てた自分の姿に気づかされるだろう。これにはまったく一本とられた感じだった。 不満をあげるとすれば、必要とされる表現が象徴的に処理されすぎていたように思えた点だろうか。たとえば障害者介護に伴う厳しい現実のような、観客が「あまり見たくないシーン」が「見たいシーン」へとずいぶんと置き換えられていて、いつのまにか製作者の安全な先導に甘えてしまっている自分が嫌だった。また、ふたりの関係が唐突に引き裂かれてしまう理由も作中では十分に示されていなかったように思う。ふたりの再会を必然とするためにも、もうすこし背景にひそむ事情が前面にあらわれてもよかったのではないか。 【月の】さん [地上波(吹替)] 6点(2016-02-19 01:26:00)
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