2.《ネタバレ》 「人間の條件」以降の小林正樹は苦手だが、それ以前の「この広い空のどこかに」や「黒い河」「三つの愛」といった庶民的でコンパクトなドラマはかなり好きだ。
小林正樹が苦手という人も、初期の作品を見てから判断しても遅くはないだろう。
この「あなた買います」もまた、そんな好きな映画の一つだ。
当時のプロ野球界の選手獲得問題を巡って、ドロドロかつシュールな奪い合いを描いていく。
いつもの堅苦しく窮屈な感じはしないし、何より利用する側と利用される側の立場が徐々に入れ替わっていく駆け引きが面白い。無垢な人間を“演じて”いた事が発覚する瞬間が怖い。
まず冒頭のシークエンスからして素晴らしい。
駅に着いた機関車から車、新聞とシーンが繋がっていく。
新聞に掲載された野球選手の写真、運転手と男の会話。これだけでも彼が「野球と何か関わりがある」と想像させてくれる。
男は山から海まで誰かを探しまわり、ビルの事務所らしき場所に“戻り”、またすぐに野球場へと“出掛けて”行く。
車が轢きそうになった女性が、野球場で活躍するある選手に笑みを送る女性として再び姿を現す。
とここまで、短いショットを繋げたスピーディーな演出で一気に引き込まれてしまった。
佐田啓二の演技も良いし、何より伊藤雄之助の存在感!
後期の小林正樹が好きな人は物足りなさを感じるかも知れないが、俺のように後期よりも初期の小林正樹の方が惹かれるという人にこそこの映画を見て貰いたい。