1.《ネタバレ》 会社側の要請とはいえ、ドライで硬質なサスペンスの鈴木英夫には、いかにも不得手そうな文芸メロドラマだ。
やはり持ち味は活かし難く、ドラマはメリハリを欠いて映画を長く感じるが、画面の落ち着いた色彩と陰影は十分堪能できる。
『その場所に女ありて』(62)で颯爽とスーツを着こなす司葉子は、鈴木作品5本目の本作では華道の二代目家元役で落ち着いた和服の美を披露している。共に一種のキャリアウーマンの役柄ともいえる。
飯村正撮影によるイーストマンカラーの淡い色彩が、生け花、着物の柄と良い感じにマッチしており、眼に沁みる。夕暮れの淡い光の具合も素晴らしい。
ラストの宝田明との再会シーンでは伊豆の山奥の雄大なロケーションがまた清清しく、山道の勾配とカーブが良いアクセントになって作品を締めている。