1.時代を考慮に入れればあんまりキツいことも言えないが、後半の登場人物の物分かりのよさは、ほとんど不気味と言ってもいいくらいで、まったく人間味が感じられなかった。でもかえってそんなところに、史料としてのフィルムと言うか、時代の雰囲気の記録があった気もする。前半での軍国の妻が近所の人にチクリと言われるとこなんか、なるほどと思う。顔のアップが多かったのは、プロパガンダ性の強いフィルムでは常套映像だが、もっとロケをいっぱい時代の記録として撮っておいてほしかった。宮島義勇のカメラがちょっと凝ってて、発狂した池部良をめぐって三人の顔が次々に画面を占めるシーンの照明とか、川岸でヒロインが泣いて動くと向こうに池部が立ってるってのを繰り返したりとか、やってる。ミシンという機械は、人がかがみこんでいる姿に神経症的雰囲気があるなあ。