3.《ネタバレ》 戦時中の広島・呉の物語であり、表面的なほのぼの感に騙されていると後で痛い目に遭うと思って警戒しながらも、律儀に1話ずつ笑えるオチをつけていて本当に大笑いしてしまうところがある。また「夕凪の街 桜の国」でもそうだったが、現実というより登場人物のイマジネーションを視覚化している部分があったり、何気ない描写に深い意味があったりもするようで、マンガでも映画でも文章のように読もうとしてしまう自分としては、まずは絵で表現されたものをしっかり受け取らなければと改めて認識させられる作品だった。どこまで読み込めば本当にわかったといえるのか、いつまでも自信の持てない物語でもある。
ところで無粋なことをわざわざ書くと、この物語全体の受け取り方に関して、まず①個人の問題としては、主人公が人生の変動期と戦争の受難をくぐり抜けて、今いるこの場所での自分の存在を肯定するに至った話と取れる。同時に②少し広い社会の問題として、主人公を含む人々の家庭生活や近隣社会が、戦争に圧迫されてひどく傷つけられながらも、なお存続していこうとする柔軟なしたたかさが表現されていたとも取れる。また一方では、①②のいわば反転像として、主人公とその家族や周囲の人々に回復不可能なダメージを残した③戦争の残酷さを表現しているともいえる。基本的姿勢として戦争に否定的なのは当然のことであり、その意味で「反戦」的な作品として受け取られるのも間違いとはいえない。
物語中には個人的な立場として気になる箇所もなくはないが、それも含めて無用の対立を呼び起こさないための配慮がなされていたとも考えられる。少なくとも日本人の範囲であれば、さまざまな立場を超えて共有できる場になりうる作品であり、上記①~③をあわせた形で、昭和の戦中期を新たに描き直したという歴史的意義のある著作といえるかも知れない。
なお個人的には心優しく可愛らしいすずさんは大好きだが、その他の登場人物を含め、作中の愛すべき人々が戦争で傷つけられていくのはやはり痛々しい。自分にとって全体を通じたキーワードのように思われたのは、お姑さんの「みんなが…ええのにねえ」だった。