|
タイトル名 |
影武者 |
レビュワー |
ヤークト・パンターさん |
点数 |
6点 |
投稿日時 |
2003-07-08 18:21:35 |
変更日時 |
2003-07-08 18:21:35 |
レビュー内容 |
この作品を歴史劇として眺めたら、ほとんど滅茶苦茶といってよい。確かに武田信玄をはじめ、歴史上の著名人が続々登場し、長篠・設楽が原の合戦がクライマックスになっているが、影武者の話がフィクションというだけでなく、様々なディテールにわたって歴史的実証性はないがしろにされている。まず長篠の戦場はあのような地形ではまったくない。あんなだだっ広い場所ではないのだ。また武田騎馬軍団などという捏造の産物を疑いもせずに使っている。当時の日本にはヨーロッパの騎兵のごとき兵種は存在しなかった。こういったことについては鈴木慎哉氏の著作を薦めたい。もっとすごいのはラストシーンでの風林火山の旗標の川流れだ。このような武田家の精神的象徴物を投げ捨てて敗走するような兵がいたとはとても考えられない。この件に関しては、かつて松本清張も指摘していたらしいが、筆者はそれを読んだことはない。映画「影武者」に対する最も好意的な扱いは、あくまで戦国ファンタジーとして鑑賞することである。「蜘蛛の巣城」「隠し砦の三悪人」「用心棒」「椿三十郎」「乱」などいずれも歴史あるいは時代ファンタジーである。風林火山の川流れもその文脈でとらえるべきで、これはすでに瀕死の重傷を負った影の男の目に映った幻覚であろう。それは誰かの単なる旗さしものにすぎなかったのだが、影の男にはそう見えたということなのだろう。それを掴もうと男は川に入って行くが力つきて倒れてしまう。虚像の信玄を演じた男は幻の風林火山に手を触れることも成らず、潰えたのである。ふさわしい最後と言うべきだろう。やや滑稽味も漂わせた悲劇であった。 |
|
ヤークト・パンター さんの 最近のクチコミ・感想
影武者のレビュー一覧を見る
|