3.《ネタバレ》 まず言いたいのは、私は登山をしません。したいとも思いません。事前に綿密に準備して、ものすごい荷物を持ちながらものすごい危険を冒して、ただ山を登って降りる。・・・いやぁ、無理です。でもこの映画を観ると、少なくともあの景色を肉眼で見てみたいと思わせられました。そう、肉眼で。個人的にはこの映画のポイントはそこにあるのかなと思いました。現実の剱岳はスクリーンのそれよりもっと壮大で荒々しく、清冽で危険な山でしょう。映画のそれは縦横のみの、しかも角度も決められた所詮二次元の映像です。しかしそこで出来うる限りの映像を木村監督は魅せてくれ、「本物はもっと素晴らしいよ、これをきっかけに本物を見に行ってほしい」というメッセージを私に送ってくれました。個人的な勝手な解釈なのであしからず。
昨今の銀幕事情は、CGなどの人が映像に手を入れる技術が当たり前になっています。決してそれらを批判するわけではありません。SFなどの実際にはありえない事象に対してCGなどで表現できるようになったのは、観る側として純粋に映画を楽しむ幅が広くなりました。ただ、求めれば実物があるのにCGに走ってしまうのはもったいないと思ってしまいます。『空撮・CG一切なし』けっこうだと思います。その中でしか味わえない自然の本物もあったと思いますし、それに触れた役者もだからこその演技が出来たのではないでしょうか。
役者といえば、宇治長次郎氏の存在が忘れられません。誠実で素直で、山に対して真摯に正面から向き合う山男を完璧に演じ上げていました。人に対しても自然に対しても礼を欠かさないその姿勢は、自分が見習うべきものをたくさん見せてくれました。
私は登山をしません。したいとも思いません。ですが、山に限らずこの世界にある風景を出来る限りたくさん肉眼で見ていきたいと、そう思わせてくれた作品でした。 【TANTO】さん [映画館(邦画)] 10点(2009-08-04 10:31:55) (良:4票) |