10.黒澤監督は当初フランキー堺を主演で、山本周五郎の原作に忠実に脚本も「日日平安」として撮ろうとしたが「ホノボノし過ぎている」という会社からの横槍で、滅法強い三十郎の話になった。本当は満点にしたいけど、妥協を強いられたことにマイナス1。しかし映画自体は、滅茶苦茶に面白いし、黒澤監督の本音が登場人物や、彼らの台詞に出てるのも興味深い。三十郎に助けられた奥方(これがいい!)が「本当に良い刀は、ちゃんと鞘に入ってるものです」とヤンワリと三十郎を諌めて、三十郎が一瞬見せる反省の表情。そして何よりも、要所要所で押入れから出てくる小林桂樹。いかにも人が良さそうで、争いごとが嫌いそうで、どこか惚けた、この人物にこそ黒澤監督の本音が出ている。「俺はこんな男を主人公にして、これを作りたかったし、本当はこういう男の方が好きなんだ」という本音。それを、ほとんど押し入れの中にいる、あのキャラクターにチラチラと、しかしハッキリと託している所に、とかく豪快なイメージを持たれる黒澤明の素顔が出ていると思う。それと9人の若侍のキャスティングも上手い。裃の似合わない俳優ばかり選んでるところがさすが。新卒の新入社員の着るスーツが、どこか貸衣装みたいで似合ってないのと同じで、裃が似わないからこそ初々しさが出る。昔の監督ってキャスティングが上手かったんだなぁと、そのことにも感心。勿論、クライマックスの果し合いの凄さは・・・・まさしく、これは筆では書けない。これが映画です。 【ひろみつ】さん 9点(2004-03-16 21:38:07) (良:3票) |
《改行表示》 9.当時黄金時代の真っ只中だった東映時代劇は、東宝の「用心棒」と本作「椿三十郎」によって衰退の道を辿り始めたという。当時の人々がどれだけこの作品に熱狂したかが見て取れるではないか。 三十郎という豪快な主人公にも負けず劣らず、ユーモラスでどこまでも魅力的な登場人物達。バカで憎めない若侍、のんびりした性格が物語りにゆとりを持たせる奥方と娘さん、そしてピンポイントで冷静に物事を見極める押入れの侍。それは敵役だって同じ、三人の親玉たちのあたふた振りには笑ってしまうし、室戸半兵衛には善悪を超えた一人の侍としてのカッコ良さがある。全員がパーフェクトでコンパクトな物語の中、奇跡のような輝きをこれでもかと放っているのだ。 迫力ある殺陣、そして映画史に輝く伝説の名勝負。娯楽映画に求める全てが詰まっていると言っていい。もしもこの映画を「邦画だから」「白黒だから」「時代劇は苦手」等の理由で敬遠している人がいたとしたら、断言する、それは愚かだ。あぁ、そんな人々に言ってやりたい。そう、ちょっと間をタメて。「・・・、あばよっ!」 【紅蓮天国】さん 9点(2003-10-13 11:42:00) (良:3票) |
《改行表示》 8.《ネタバレ》 「椿…三十郎。もうそろそろ四十郎ですが…」用心棒の続編だったのか。三十郎がどんな人物か解っているから話が早い。神社で若侍が集まった辺りから“面白そうなことが始まった”って思ったんだろうな。一匹狼の三十郎に、ひよっこ侍が九人揃って付いてくる様子が何とも微笑ましい。 この面子に呑気な睦田婦人と娘が加わって、緩い空気が作品全体を覆う。椿を使った合図で盛り上がる母娘と対象的に、苛々して屏風の字をなぞる三十郎と、その苛々を察しておろおろする若侍たちが面白い。 神社で菊井の手下多数を、次々と叩き切る迫力満点の殺陣はあったけど、まるで現代の若者そのままの若侍たちと、陸田母娘のゆるふわな会話が、緊張感を和やかに解きほぐす。終盤も討ち入りの緊張感よりも小川を流れる大量の白い椿の美しさに、お伽話を観ているような気分にさせてくれた。 さぁ、有名なあの場面はどこに出てくるのか?私は序盤で出るものだと予想していたけど、最後でした。和やかな雰囲気の作品の終盤、三十郎と室戸の緊張感溢れる対峙のからの、一閃。抜刀から一瞬の決着。おびただしい量の赤い血が噴き出す過剰とも言える演出が、日本映画の新しいかたちを作る。 最後の最後で凄いものを観せたため、血の場面ばかりが取り上げられるけど、大量の赤い血は、大量の白い椿の対比として入れたんだと思う。本作が娯楽映画の傑作として今でも語られるのは、決して奇抜さだけの作品ではなく、映画全体の緩急の付け方の巧みさにあるんじゃないかな。 【K&K】さん [DVD(邦画)] 9点(2024-09-23 23:07:50) (良:2票) |
《改行表示》 7.三船はセクシーだと思う。この映画で見せる男臭さは今の男優にはないものだ。 肩のゆすり方、堂々とした歩き方、どれもハードボイルド。 この男、本当に強いんだろうと思わせてくれる何かがある。 三船のいた日本。彼亡き後の武士の魂は何処へ。 「ラストサムライ」で間抜けな日本語しゃべるトム・クルーズに武士道を語られたくはない。俺は右翼でもゲイでもないけれど、真の男らしさを持っていた三船という俳優とそれを完璧に銀幕に表現しえた黒澤という監督が大好きである。 【くぼごん】さん 9点(2004-12-11 20:35:29) (良:2票) |
《改行表示》 6.前作「用心棒」を上回る絶妙なアクションとユーモアスな雰囲気が融合した映画の真骨頂とも言うべき作品。 益々野性味を増した三十郎(偽名)が介入して巻き起こる大掃除もパワーアップ! ものの数秒で数十人を斬り捨てる破壊的な爽快感。 もう馬鹿みたいに一人で叩っ斬りまくる。 予告のあの「のほほーん」としたBGMすら「これはギャグ映画だから真面目に見るな」と言いたげだ。 それを迫力ある画質と音響で堪能できるとはいやはや何とも。 何より冒頭から一気に惹き込まれる。 寺で怪しい算段をする男たち、そこに何の前触れも無しに登場する三十郎は前作「用心棒」を先に見ておかないと味わえない雰囲気だ。 その三十郎が若侍たちを嗜め、たった一人で寺を囲む男たちを叩きのめす痛快さ。やたらめったら斬るのではなく、最初は鞘で“警告”する戦術。 「リオ・ブラボー」や「ペイルライダー」もその警告に始まり無駄な流血を避けようと務めるが、結局は血みどろの戦いを避けられない哀しみ。 そんな三十郎が暴力と周到な詐欺師振りを一手に引き受け、戦を知らない若き侍たちに人を斬らせないこだわりが良い。 白刃に輝く刀のような9人の若者。それを鞘に収めて成長していく人間ドラマも見所だ。 「用心棒」に比べると無茶な部分も多い(ラストのアレの量はギャグだろもう)が、そんなたまげた映画が「椿三十郎」だ。 意地でも他の奴を血で染めたく無いのか、問答無用で地に叩き伏せる三十郎。 室戸「おまえみたいな酷い奴は許せねえ」 もっと言ってやって下さい室戸さん。 それと、三十郎のセリフにある「金魚のウンコみたいにゾロゾロ来やがって」的なセリフ。 本当に井坂(加山雄三)と保川邦衛(田中邦衛)以外見分けが付かない(笑)。 後は黒澤映画で見慣れた広瀬(土屋嘉男)くらいか。 そこにお茶目な木村(小林桂樹)を入れて11人。 まるでサッカーのチームだ。 三十郎(三船敏郎)が司令塔兼フォワード兼後方兼・・・要は全部だな。 仕事ほとんどこの人だし。 そんで加山がキャプテンか? 正に「チーム男子」。 監督はモチロン睦田夫人(入江たか子)。マネージャーが千鳥(壇令子)。これがあの「赤ひげ」で井戸端を囲む茶気茶気した娘をやると誰が思ったであろうか?同一人物が演じているとは思えないくらいキャラが薄い。 おっと、腰元のこいそ(樋口年子)も捨てがたい。この娘がいなけりゃ「室戸半兵衛終了のお知らせ」伝説も始まらなかったわけだ。 それに振り回される三人の悪人も見所。 ・・・ん? 「銀嶺の果て(原題:山小屋の三悪人)」、 「隠し砦の三悪人」、 「悪い奴ほどよく眠る」の三悪人・・・アンタどんだけ3人組の悪役が好きなんだよ監督wwww。 そして最大の見所といえば、主人公に散々振り回されて部下も上司も全員獄所にぶち込まれて人生を台無しにされてしまう室戸半兵衛(仲代達矢)。 立場が無くなり三十郎との望まぬ「血闘」。 三十郎も心臓ごと叩き切って壮絶な最期をくれてやる。 何という被害者。 情報収集とはいえ若侍を生け捕りにしてくれたり、ちょっと悪ぶりながらも何かと三十郎を気遣ってくれるなど、人間としては物凄く良い奴だった。 仲代の演技力と貫禄も素晴らしい。 あの「卯之助」が旗本一番の剣豪に化けたもんだ。 本当に同じ役者が演じているとは思えないくらい演じ分けが凄い。 殆ど刀を抜かなくとも伝わって来る強者の覇気。 そして背中から漂う哀愁! 「鞘の中の刀」でもあり続けられただろうに、三十郎に果し合いを申し込んでしまったのが武運のツキ。 三十郎と同じように「抜身の刃」と化してしまった。 「切腹」の仲代もそうだが、極限まで追い詰められたからこそ、彼らは真正面から勝負を挑んだ。 意地でもあり、誇りでもある全てを賭けて。 役者ってのはこういうもんだな~とつくづく思う。 【すかあふえいす】さん [DVD(邦画)] 9点(2014-01-25 13:00:11) (良:1票) |
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5.《ネタバレ》 「用心棒」に引き続き化物級の働きで事件解決してしまう〝何ちゃら三十郎もうすぐ四十郎だがな〟。やはり三船敏郎が素晴らしいというか凄過ぎて圧倒されます。今回はその三十郎と、頭は足りないが真っ直ぐな若侍とのコントラストも室戸半兵衛との一騎討ちも見所ですが、私は奥方との関係が何とも好きですね。まるで正反対の人間である二人が、お互い一目置いていると言いますか認め合っている様子が随所に表われています。奥方は三十郎のような鋭い切れ味はなく抜き身の三十郎を〝よく切れる刀〟と称し鞘に収め最高の刀にし召抱えたいと考える。そして危ないほどにギラギラしている三十郎には奥方のような品格が備わっていず、立派過ぎる奥方の前では居心地が悪く借りてきた猫のようになる。このキャラクターの造形と対比はシンプルですが、対極にあるからこそ互いに持ち得ない魅力に惹かれ合うという普遍的な事を面白おかしくも美しく描いています。奥方たちが合図は赤い椿だ白い椿だと緊張感のかけらも無い呑気な議論をしている間、三十郎がイライラを隠せず仮名をなぞるシーンなど笑えます。しかし何と言っても奥方のため三十郎が踏み台になる場面が秀逸ですね。 【ミスター・グレイ】さん [ビデオ(邦画)] 9点(2006-03-13 18:45:22) (良:1票) |
4.痛快コメディ時代劇として見ました。映画全体の流れるような静と動の表現が素晴らしかったです。有名な対決シーン。にらみ合う二人に見ている方も思わず息を止めてしまいます。ムッ・・・・・・。あのタイミング!血しぶき噴射担当者は「その時が来たらGOだ」との指示しか受けていなかったそうですが、バッチリ合ってます。「気が満ちる」ってそう言う事なんでしょうね。室戸半兵衛の最期に自分の行く末を見ながらも、生き方を変えることはできない。去って行く三十郎の後ろ姿が切ないです。 【黒猫クロマティ】さん 9点(2005-01-05 11:51:57) (良:1票) |
3.すんごくおもしろい。椿三十郎だったらN○K新選組なんて秒殺です。あいつら下手だもんなぁ演技も殺陣も・・・悲しくなりますね黒澤、三船の素晴らしさをだれも受け継いでいない様な気がする。 【一番星☆桃太郎】さん [DVD(字幕)] 9点(2004-07-19 02:22:43) (笑:1票) |
2.自分的には「用心棒」より、ちょこっと評価が下がる。しかし、傑作であることに変わりはない。映画的手法が、そこかしこに、ちりばめられていて、観ていて気持ちが良い。皆さんご指摘のおっとり母子、小林も良いが、怪優「伊藤雄之助」の存在も忘れてはなるまい。短い出番ながら、「生きる」とは対極の演技。さすがである。いずれにせよ脇役もしっかり自己主張しているところは黒澤作品の真骨頂。後期、こういった作品が少なくなったのは残念である。 【すぎさ】さん 9点(2003-08-18 22:57:11) (良:1票) |
1.黒澤作品としては「天国と地獄」と並んで最も強烈に印象が残っている「用心棒」の姉妹篇。時代劇であるにも拘わらず、登場人物のセリフは現代劇調で喋らせるという、ユニークな手法が話題ともなった。コミカルでほんわかした雰囲気と凄まじい殺陣の見事さといった、緩急自在の黒澤演出は素晴らしく、ラストの決闘シーンは今尚語り草ともなっている。 【ドラえもん】さん 9点(2001-08-19 00:19:36) (良:1票) |