8.それまでの人生はきっともっと尖っていて、人と衝突したり毒づいたり、理不尽な思いをしては腐ったり、女性といい感じになったり別れを経験したり、普通にいろいろあったんだと思う。そして何かをきっかけに(リストラとか会社の倒産とか、そこは本題ではないので何でもよいのだが)みんな煩わしくなっちゃって、無駄なものを出来る限り削ぎ落として、今の完璧な日々、過不足のないパーフェクトな生活形態を編み出したのだと思う。それは究極にエコな生活だ。 カーステから流れる音楽がそのままBGMになり、作業服の背中のプリント「The Tokyo Toilet」の文字がそのままオープニングロールになっているようなところも、エコだ。主人公の生活にも作品そのものにも無駄がない徹底ぶり。 主人公平山は寡黙で孤独な都会の住民。仕事の日のルーチンと、休みの日のルーチン、この2パターンを使いこなして日々を終える。 平山のルーチンは実は他者のルーチンでもある。毎朝目覚めを誘う竹ぼうきの音は、路上を掃くおばあさんのルーチン。トイレに隠された三目並べ勝負も見知らぬ誰かとのひと時のルーチン。毎日通う銭湯と飲み屋では、同じ言葉で迎えてくれる店主のルーチン。公園でいつも遭遇するOLとの無言のあいさつ。休日に通う写真屋、古本屋、スナック。他人のルーチンが自分のルーチンになり、自分のルーチンが他人のルーチンに組み込まれていく。全く別の世界に生きる他人がさりげなく交り合ってる。 時に他者の乱入や、突然の退出によって、そのルーチンが乱れることもあるが、それをやり過ごせばまたいつもの日常が戻って来る。 ラストシーン、BGMはニーナシモンの「Feeling Good」。鳥も太陽も風も木も、私の気持ちを知っている。新しい日が始まる。最高の気分。自分はこの生活に満足してる、満足しようとしている。本当にこのままでいいのか?変わらないものなんてないんだ。孤独も不安もあるこの気持ち、木も風もお見通しだろ。 【ちゃか】さん [インターネット(邦画)] 8点(2025-04-02 15:58:37) (良:1票) |
7.《ネタバレ》 自分自身の日常を、ああ、これでいいんだと思わせてくれる映画。 毎日の繰り返しの中に心の平穏や幸せを感じられる。そしてそこには親しい他者は入ってこないから、その日常が脅かされることはない。 相棒の若い奴が急に辞めてから、その生活のリズムが一日、わずか一日狂うだけで、平常心ではいられなくなってしまう平山。わかるなあ。 あんな暮らしをしてる人は、大抵何か背負ってるんだよ。それを全部見せないのも良かった。 スナックのママとはどうなるのかな。深い仲になってしまったら、もう今までの平穏は失われてしまうけど、彼はどちらを選ぶのかな。そんな悲しいことを考えてしまったが、何にも起こらないのに、2時間という長さを全く感じさせない映画だった。 ただね。 日本人は妹を抱きしめてハグなんてしないんだよ。 そこはちょっと物申したい所だったかな。 でも、いい映画だったな。 【roadster316】さん [インターネット(邦画)] 8点(2025-02-04 13:55:57) (良:1票) |
6.《ネタバレ》 音楽、写真、観葉植物、、といった「趣味」。 銭湯、飲み屋、古本屋、、といった「場所」。 そして、少しのお金と、それを得るための仕事。 平山 (役所広司) の「ルーティン」は、まるで私のことのように当てはまり、だから、とても居心地良く、安心して観ていられた。 その平山が案内人となり、渋谷や下町あたりの、普段あまり気にも留めないような風景が美しく撮られていた。それは毎日同じ風景のようでいて、時間、天候、季節によって全く違う顔を魅せる。 つまり、トイレ掃除も、日々の「ルーティン」も、毎日が劇的なドラマであり、およそ退屈とはほど遠い、完璧な日々ということになるのだろうか。 ・・・PERFECT DAYS。 【タケノコ】さん [インターネット(邦画)] 8点(2025-01-06 23:07:02) |
5.とても美しく、観ていて心が安らぎました。東京の景観は他に類を見ない独特のもので本当に良いですね。 主人公は一見幸せそうだけど色々あったんでしょうね。こんな風に生きられたなら、でもそんな覚悟もない、味わい深い作品。 また時間をおいて観てみたいと思います。 【Kの紅茶】さん [インターネット(邦画)] 8点(2025-01-05 22:05:10) |
4.《ネタバレ》 ほっとしたいときにとても素敵な日常系だった。 こういう山も谷もソフトな作品ってなかなかなくて、パリ・テキサスを引き合いに出される所以がわかった。 ささやかな楽しみと愛を。 ヴェンダースに期待していた映像もそこにあったし、カフェ的な作品。 【よこやまゆうき】さん [インターネット(邦画)] 8点(2025-01-05 15:45:40) |
3.《ネタバレ》 「本当にトイレ掃除やってるの?」「お父さん昔みたいじゃないし施設に会いに行ってあげて。」という意味の妹のセリフや平山の行動から、昔例えば進路などへの家庭内の干渉に反発して、家庭を持ち普通の生活を営むことを放棄し、孤独で自由な生活を選択したのではないか。彼の中ではその点時間が止まったような部分があるが、生きている以上日々時間は経過して行くし、他人との関係や喜び、驚きもそこここに存在する。そういった人生に彼は満足しつつもいくばくかの後悔、そして諦念もある・・・という感じなんだろうか。 6~70年代の渋い選曲の音楽、堅実な演技の三浦友和が出てたのも個人的には好印象、平山程の悟りには程遠く世俗の中で苦闘する今風若者を演じた柄本時生もよかったと思う。石川さゆりはわずか1分ほどの歌唱時間にもかかわらず心に残る流石の歌声の張りと艶。彼女を知らない外人観覧者からすると単に「ママ歌うめえなあ」、なんだろうけど日本人からしたら演歌の女王なんだからそらそうよ、とある意味贅沢な起用ではと感じた。まあ兎に角本作ではセリフも極端に少なく単調なシーンも多い中2時間余、ここまで引きつける役所広司の演技は大変見事でしたとしか言いようがない。 ドラマチックなストーリーの娯楽作品とかではないので少し観る人は選ぶか。 【クリプトポネ】さん [映画館(邦画)] 8点(2024-01-28 11:43:01) (良:1票)(笑:1票) |
2.《ネタバレ》 幸せってどこにでも転がってて、幸せって人それぞれで、だからこの世界って面白いなぁって思う。 ひと(他人)と同じ幸せを追い求めなくても良いし、ひと(他人)と持っている物を比べなくても良い。
でもね、あの人(主人公)だって同僚が突然仕事を辞めた時のように、 時間に追われて疲れ果てて寝るだけの生活になったら自分の幸せを見失うよ。 (彼はちゃんと自分でそれを分かってたから良いけど。)
空がきれいだったり、雲や木漏れ日が面白かったり、川のせせらぎが美しかったり、 この世には心を動かされる楽しいことがいっぱいある。
みんな致死率100%だから、みんなそれまで楽しめばいいと思う。
ゼロか百かじゃないし、百にたどり着けなかった人はゼロと言うわけじゃない。 自分の生きた証を他人に見せつける必要はない、と思う。 【ジャスミン】さん [映画館(邦画)] 8点(2024-01-01 00:20:30) (良:1票) |
1.《ネタバレ》 小津安二郎を敬愛し、生前の出演俳優のドキュメンタリーを撮ったこともあるヴェンダース初の邦画作品。 平坦なトーンで劇的な展開がないのに飽きずに見せる。
築50年近くの安アパートから一日が始まり、公衆トイレの清掃員としてルーティンワークをこなし、 ささやかなことに喜びと幸せを見出していた寡黙で孤独な男が、 姪の来訪と少しずつ近づく終焉の数々に、その"満ち足りた日々"が崩れていく不安を感じ始める。 彼の過去に何があったのかは分からない。 公衆トイレの設備にきめ細やかな手入れを行うプロとしての誇りとストイックさに敬意を覚えるくらいであり、 自由を謳歌している浮浪者に慈しみを感じながらも、実は過去に向き合えず逃げ続けていただけなのか。
彼の穏やかで急ぎすぎない生き方に憧れても、どこかで「本当にそれで良いのか?」という疑問を抱く。 充実しながらも後悔しているような、達観もしているような心の機微を役所広司が体現する。 人生に上下はないかもしれない、間違いのない選択肢などないかもしれない。 見えていないだけで主人公のような人生を送っている人たちが近くにどこかしらにいるのだろう。 せめてやりたくない末端の仕事を誰かがしていることに感謝の気持ちを持ちたい。 【Cinecdocke】さん [映画館(邦画)] 8点(2023-12-29 00:41:05) (良:1票) |