《改行表示》 2.《ネタバレ》 冒頭から映し出される美しい“三姉妹”の「生活」が、ただただ愛おしい。 三人の表情や佇まいはもちろん、衣服も、家具も、食器も、ご飯も、彼女たちが暮らす空間のすべてが美しくて、丁寧で、“大切”に織りなされていることが伝わってくる。 その空間は、「完璧」だと言っていい。ただ、だからこそ、そこには何か言いようのない“違和感”が、映画のはじめから生じていた。 とても、美しくて、完璧だけれど、何かがおかしい。 彼女たちが当たり前のように出かけ、社会での日常生活が映し出されると、その違和感はより一層顕著になってくる。「あれ?」「え、何だいまの描写は?」と、疑問符は積み重なり、この“三姉妹”の世界の真相が明らかになったとき、冒頭から感じ続けてきた違和感が、映画的な妙味となってくっきりと正体を現した。 美しい“三姉妹”の、とある世界のお話。 12年前のある出来事を契機として、擬似的な三姉妹生活を積み重ねてきた彼女たちが抱える真相は、とても辛く、悲しく、重くて、仄暗い。 でも、本来そこにあるはずの陰鬱さや不穏さを完全に廃して、美しい煌きを全面に映し出すことで、同時に存在する“陰”を表現した映画世界が、本当に素晴らしかった。 彼女たちの生活空間が完璧だったのは、それが彼女たちが必死に想像し築き上げたものだったから。 3人が織りなす空気感が暖かく慈愛に溢れているストーリーテリングが深まるほどに、彼女たちにとってはこの場所が“すべて”であり、そうするしかなかった切なさが心に突き刺さって抜けなかった。 この映画世界で描かれたものは、悲痛を遠く越えた先で迎えた、新たな悲しみと、抱擁だった。 本作は、単純な幽霊モノ、異世界モノのファンタジーではない。 現実世界の事件の痛みや、社会の悲劇を礎にして、その数々の痛みや悲しみに対して真摯に向き合った作劇だったと思う。 無論突飛な世界観ではあるけれど、科学的な考察も引用し、「本当はそうなのかもしれない」と思わせるストーリーテリングは、現実の悲痛と共に生きる人たちにも寄り添うものだった。 設定のアイデアに主眼を置かず、その設定の中で確実に“生きている”人物たちの会話や葛藤でドラマを綴った構成は、坂元裕二脚本の真骨頂だったとも思える。 そんな当代随一の脚本が織りなす物語の中で、息づき、華やかな彩りを見せた三人の若き女優がやはり素晴らしい。 広瀬すず、杉咲花、清原果耶、トリプル主演としてこの三人が揃うこと自体が、もはや奇跡的なことにも思えるが、それを更に超える奇跡的な人間描写をそれぞれが体現している。 設定が設定だけに、どうしても完全な整合性やリアリティをストーリー上に生み出すことは難しかったろうけれど、三人の女優が織りなす文字通りの“アンサンブル”が、それを優しく包み込み、映画表現として昇華していたと思える。 鑑賞から数日経ち、公式SNSから流れてくるショート動画で、本作のシーンに触れるたびに、心に残り続ける余韻がたなびいている。この三姉妹の言葉の一つ一つ、動きの一つ一つが、想像以上に自分の中の価値として深まっていることに気づく。 私は、この先何度も、この映画の“世界”に浸りにゆくだろうと思う。 もし何年か後に叶うならと、この映画世界を礎にしたドラマシリーズを想像する。 湖畔のとある“幽霊屋敷の三姉妹”の日常を、観たい。 坂元裕二はきっと脚本構想を進めているに違いない。 本作には、敢えてまだ描ききっていない要素も多分にある。“ラジオ男”の出し惜しみも、その伏線に違いない。 【鉄腕麗人】さん [映画館(邦画)] 9点(2025-04-20 11:28:08) ★《更新》★ |