4.《ネタバレ》 美しい日本の農村風景と共に描かれるのは、人の「生き方」です。主人公夫妻が田舎で始めた生活は、象徴的に引用される宮沢賢治の詩『雨ニモ負ケズ』そのもの。田村高廣は天寿を全うするかのように静かに余生を送くる日々。北林谷栄の質素な暮らしぶりからも、テーマが伝わってきます。富と名声を望まない慎ましい生活の素晴らしさ。良く生きることは、良く死ぬことと同じ。理想とする“人のあり方”が本作では描かれています。共感できますし、穏やかな気持ちになれました。ただ気をつけたいのは、本作から学ぶべきは“生き方の姿勢”“心の持ち方”であるということ。“田舎暮らしのスローライフ”が素晴らしいのではありません。ここは注意が必要です。本作では、“意図的に”田舎暮らしの短所を描いていません。自然と共に生きることは、その厳しさをも受け入れること。それに田舎の人間がみんな素朴で温かだと思ったら大間違いです。生きることの厳しさは都会であろうと田舎であろうと同じ。その前提は変わりません。このことを承知している人に向けた作品なのだと思います。生きることに厳しさは付きもの。だからあえて描く必要は無い。田村高廣の病の苦しみ、小西真奈美の副作用の辛さを描いていないことからも、そのことが感じ取れます。監督の優しさだと思います。厳しさを知ってこそ響く優しさ。いいお話だと思います。しかしその反面、本作を素直に肯定できない自分もいます。やっぱりお金は欲しいし、人から尊敬もされたい。いろいろな事に執着して生きて行きたいと思うのです。それが生きる力でもあります。ですからいつの日か、穏やかな気持ちで本作を受け入れられる日が来るといいなと思います。 【目隠シスト】さん [CS・衛星(邦画)] 7点(2007-01-05 18:11:56) (良:1票) |
3.宮沢賢治の「雨ニモ負ケズ」に代表されるように、清貧であること、謙虚であること、そして心を豊にすることがこんなにも肯定されている映画は、自分の中で記憶にありません。四季の風景や音楽もさることながら、人々の心の描き方が素晴らしいです。いかにして老いを、そして来るべき死を迎えるか。これからの高齢化社会になくてはならない映画ではないでしょうか。とても癒されました。<追記>しかし改めて見ると、物足りない部分を感じるばかりか、田舎の良い部分ばかりにスポットライトが当てられている気がしました。前回見たときは、きっと精神状態が良かったのでしょう。1点マイナスです。 【mhiro】さん [地上波(字幕)] 7点(2004-09-24 16:20:35) (良:1票) |
2.北林谷栄の自由演技(アドリブではない)にはただただ驚く、とても91歳とは思えない、演技力は衰えを知らない。96歳設定となれば、この人以外には考えられない、大誘拐以来の名演技だ。寺尾聰のナレーションが多すぎたのは難点。(力強い握手ありがとうございます。) 【との】さん 7点(2003-03-08 22:55:25) |
1.生生流転。この作品を観ていてまずその言葉を思い浮かべた。映画は、それぞれに悩みや問題を抱えながらも必要以上に踏み込まず、それらを正面切って描こうとはしない。ひたすら人々の何気ない日常が淡々と綴られ、人間の一生というものが季節の変わるが如く、ただただ静かに流れていく。この作品を支えているのは、キャスティングされた名優たちも然る事ながら、お年寄りや子供たちといった地元の人々の存在も忘れてはなるまい。そのさり気ない素朴さこそが本作の力となっているのだから。ただ、その子供たちに童謡を歌わせるという、いかにも浮世離れしたシーンや、肝心の四季の移ろいがあたかもカレンダーの風景写真的にしか感じられないのは困ったものだ。悪人などが登場するわけも無く、ドラマチックでもなく、物語性はいたって希薄。そういう意味ではいわゆる映画らしくない映画で、日頃、映画に毒されている人にとっては、少々物足らないかも知れない。劇場から一歩出たとたんに喧騒と厳しい現実社会が待っている。それ故の、これはひと時の癒しとして観るべきなのだろう。 【ドラえもん】さん 7点(2002-12-25 15:42:46) |