1.《ネタバレ》 洪水のように氾濫した台詞のオンパレードをユーモアだと褒める寛容さは私にはありません。一言で言えば下品。低俗な言葉ばかりで非常に不愉快です。見ての通りカメラはひたすらイーストウッドのいかつい顔のズームアップばかりを捉えている。そのせいか外面描写やメタファーがまったく無視され、奥深さが決定的に不足している。これは映画の映像じゃない。テレビドラマの映像だ。挙句の果てにカメラはただ動いている人間を追うだけでそこに何かしらの意図が微塵も感じられない。かと思ったらカメラは突然意味不明な方向にパンし、呆気にとられていたら、動作の途中でカットが切り替わる。このいい加減さ、この横着さ、このでたらめさ。もはやイーストウッドの耄碌ここに極まり。 しかもラストの決着のつけ方は、イーストウッド自身がこれまで大切にしてきた己の哲学に対する背信行為だ。この老人監督は「法律なんて関係がない。やられたら自分の手で復讐する」というブッシュアメリカが標榜してきた偽善の思想をそのまま引き継いできた。ちなみにアメリカという国はいつも何かに対して「許さねえ!やっつけてやる」と叫んでいる。この怒りの源泉は「義憤」である。義憤でアメリカ人は攻撃性を発揮する。しかもそれは自己陶酔をおびた義憤だから始末に終えない。この思想をイーストウッド自身が持ち続けてきたことは、彼の過去の作品を観ればもはや疑いようがない事実である。それゆえにミスターアメリカと揶揄されてきた老人だ。しかしである、許されざる者には何の躊躇もなく、死を与えてきた監督が、今度は今までさんざん無視してきた法律に縋っているではないか。人間は老いたらここまで恥も外聞を無くなるのだろうか。アウトローよろしく、そういう肩書きで、肩で風を切って歩いてきたイーストウッドが、今になっておまわりさん、助けてくださいですか。これがひたすら己の強さを誇示してきた男の末路なのか。私は悲しい。「長期刑になるぞ」というセンスの片鱗も伺えない最後の台詞だけが空しく胸にからからと響く。信念を失い枯れ果てた老人に心から同情したい。しかし私は彼の映画に対する姿勢だけは絶対に許さない。