11.《ネタバレ》 劇場公開当時、久しぶりの宮崎作品と言うことで、座席でワクワクしながら上映開始を待っていた時のことです。僕の左手からジュースを載せたトレイを手に、一人の女の子が僕の方に近づいて来ました。その子は僕の右隣の席を指定されていたのですが、そのトレイを持つ手が何とも危なっかしくプルプルと震えているのです。
「あの子大丈夫かな」と思った瞬間、その子は僕のズボンに派手にジュースをぶちまけました。
すぐに「うわっ、ごめんなさい!」とその子は謝ってくれたのですが、ズボンも座席もビショビショで気持ち悪く、正直言って返答する気には全くなりませんでした。それを見かねたのでしょう、僕の左隣に座っていたカップルのうちの彼氏さんが、「これ良かったらどうぞ」とポケットティッシュを手渡してくれました(本当に有難かったです)。その後重ねてその女の子から「本当にごめんなさい」ともう一度謝罪の言葉がありましたが、さすがに無視する訳にも行かなかったので今回は一応返答したものの、それも「あ~ハイハイ」という素気ない響きでしかできませんでした。
「よりによってこんな時に。ホント最悪だ」とムシャクシャした気持ちで上映開始を迎えました。そして上映開始からしばらくして、そんな自分の状態の全てが吹っ飛んでしまう程に、作品に圧倒されることになりました。
もう本当に、映画の中で展開される、「原初的」としか表現しようのない純粋な喜びやイメージの奔流を前に、「空いた口が塞がらない」という状態を初めて経験しました。僕自身は浅く短い映画鑑賞歴しか持ち合わせていませんが、それでも僕は、これまで見てきた映画の中でも、これだけシンプルに心を動かす力強い作品には出会ったことがないと、そう言いたい気持ちになります。物語の後半、グランマンマーレが海に戻っていくあの感動的な場面に至っては、正直な話僕は涙を堪え切れず、手に持っていたポニョの団扇で顔を隠していたこともよく覚えています。
前置きの部分が長くなってしまいましたが、自分にとって色々な意味で思い出深い初鑑賞の日だったので、色々書かせてもらいました。ちなみに上映終了時には、僕の機嫌はすっかり治ってしまっていました。あの女の子に対する態度についても、ちょっと素気無さ過ぎたかなとも思いました。手元にある『ポニョ』のDVDのイラストを見たりすると、その子のことも少し思い出したりします。