1.実在の浪曲家、桃中軒雲右衛門。全人格を「芸」に拠っていた雲右衛門が、その依存度の揺らぎを妻に悟られ、もはや感性ではなく意識として人格維持がなされていることをより意識するようになる。そして、真に芸に生きる妻との関係の維持をも意識するようになる。その維持装置として千鳥を妾とし、木魚を蒐集し、妻を見舞わず、「芸のために」もより言語化されていく。世間や息子にはそれが奇行、無情ににしか見えない。しかしそうとしか生きることが許されない、しかもその行為が雲右衛門の意識下にあることに彼の悲哀を知る。最後、妻の亡き骸に哀悼を捧げる浪曲がなんとも切なく、雲右衛門とお妻の他生の縁を想像しました。