4.《ネタバレ》 物事を深く考えず、常に飄々と出たとこ勝負のジャック・スパロウの珍妙奇抜な行動が見ものだ。クスクス笑いの連続で、物語の本筋よりも枝葉末節の方が断然面白い。椅子に縛られたまま卓上のシュークリームを取りに行ったり、馬車に飛び込んで口でイヤリングを盗んだり、縛られたまま椰子の幹を登って脱出したり、泉への入口で聖杯をぶつけて鳴らしてみたりと、つい笑ってしまう。海賊の冒険物語というより、意表を突き、人を食った演出を楽しむコメディ映画だ。
登場人物を多彩にして飽きさせない工夫をしている。ジャックの旧知の友ギブス、超能力を操る黒ひげ、黒ひげの娘でジャックの元恋人の女海賊アンジェリカ、黒ひげを仇と狙うバルボッサ、船に乗った人間を襲う人魚、人魚と恋に落ちる宣教師、生命の泉を破壊しようとするスペイン軍、まぬけ面のジョージ一世、ポンセ・デ・レオン。意図はわかるが詰め込み過ぎで説明不足は否めない。
冒頭、魚網で引き上げられる男の正体。ポンセ・デ・レオンとは何者か?恋人同士だったアンジェリカとジャックの詳しい経緯。黒ひげはあれだけの超能力を持っているのにどうして予言を恐れるのか?ボンバッサと黒ひげの因縁。人魚と宣教師の結末。ギブスはどうやって船の小瓶を盗んだ?スペインが生命の泉を破壊する理由などなど。脚本に工夫の余地がありそうだ。特に黒ひげについては腑に落ちない点が多い。彼の能力はすば抜けている。命令のままに動くゾンビ水夫を造り出す、綱を意志あるように動かして人を捕える、船を小瓶の中に保管する、呪いの人形で人間を苦しめる、船の火炎放射器。彼の能力は発揮されずにあっけなくバルボッサに倒されてしまう。あたら惜しいではないか。それと宣教師を登場させる理由が判らない。船乗りでよいではないか。
次の事実を知っていれば理解が深まる。ポンセ・デ・レオンは16世紀のスペインの探検家で、若返りの泉を探している途中でフロリダを発見したという伝説の持ち主。黒ひげは18世紀の海賊、船は「アン女王の復讐号」でアン女王への共感が命名由来。聖杯はキリスト教の聖遺物のひとつで、最後の晩餐に使われたとされる杯。人魚の名シレーナは、ギリシア神話の海の怪物セイレーンに由来。米国人にとっては常識なので説明がないのだろう。ところでアンジェリカだが、ジャック人形を使ってどうやって孤島から脱出するのか?次回が楽しみである。