3.《ネタバレ》 記憶障害によって普通なら連続しているはずの人生が細切れにされ、毎朝まったく予想外の一日に直面しなければならない青年――毎日がガチンコ勝負、まさにガチ☆ボーイの物語。
悪い意味でマンガ的な演出、使い古されたギャグが多く、初めのうちは白けた。しかし後半での涙腺への波状攻撃がやばかった……。いかにも泣かせようというのが見え見えであるのにも関わらず、ベタな展開でベタに泣かされた。また、さり気ないところが実はかなり熱い。先輩と二人で風呂に入ったときのじんとくるやりとり。親父が読んだ日記の、「父さんと茜は一生僕を背負って生きていくのか」、という一節。
全編明るく、からっとした空気でハッピーエンド。でもよく考えてみればこのあとにも五十嵐にはけっして平穏ではない人生が待っているはずで、扱われている題材は極めて重い。それを吹き飛ばそうとするエネルギー、どんなに辛い一日の終わりにも「オレはプロレスをやる」と言い切る強さがあまりにも真っ直ぐで、眩しくて、泣けた。
役者は若い人ばっかりで、ときには拙いと思える部分もあったにはあったけれど、なぜかこの映画なら許せる。彼らの若さが、大学のサークル特有のあの緩いんだか熱いんだかわからない雰囲気にマッチしてる。
脇役ではドロップキック佐田の配置が良い。五十嵐の憧れの存在でありながら、音楽に関する絶望的な才能のなさ、マリリン・マンソンの仲間みたいな彼女のためにプロレスを捨てるバカさ加減、最後に美味しいところをもってっちゃう心憎さ。この役の配置は絶妙だったと思う。
なにより素晴らしいのは主演の佐藤隆太。彼がこの映画の成功の最大の理由であることは間違いない。なんだろう、いかにも名演技といった器用さが目に付くわけではないのに、自然に立ち上がる誠実さ、実直な人物像には誰にも真似できないものがある。好感を抱かずにいるのが難しいほどで、才能というより人徳という言葉がふさわしいかもしれない。
すごくまっとうなお話で、脚本作りのノウハウがあからさまに目につく部分もあるのだけれど、けっして否定する気にはなれない。まっとうなお話でまっとうに感動させるのは、そう簡単なことじゃないのだ。