32.安寿と厨子王で有名な小説を、溝口作品としては割と原作重視で、映画化した作品と言えるのではないでしょうか。溝口独特の「女の物語」に加え、原作の持つヒューマニズムが色濃く反映されているところがこの映画の特徴のひとつでしょう。ただ、この映画を世界的名画たらしめたのは、原作の持つヒューマニティたっぷりのストーリーなどでは断じてなく、圧倒的な映像美にあることは一見すれば明らかだろうと思います。もっと言ってしまえば、キャメラ。そしてそれがもたらす「構図」の美しさでしょう。フレームの一番手前の端に大木や建造物の一部を入れ込んで狙った奥行き重視の構図。この縦の構図の連続でこの映画の映像は成り立っています。キャメラはほとんど引いたままで、しかも奥までしっかりピントがあった見事なパンフォーカス。クレーンは多用しているものの、無駄にキャメラは動かさない。引いたキャメラのおかげで、お芝居の対象物がすっかりフレームに収まり、おまけにピントまであっているのでお芝居の区切りまで一切キャメラを動かす必要がないのです。ここでカットを入れたりキャメラを振り回すのは野暮ってものでしょう。結果的に長回しになり、崩れること無く、長時間保たれた美しい縦の構図の数々が、観るものの脳裏に焼き付き、そのままこの映画の印象となっています。そして、ここぞというお芝居の区切りでゆっくり、おもむろにキャメラが動き出す。キャメラによってここがお芝居の区切りですよと見事に物語を語っています。この瞬間はまさに芸術であって、この理にかなった律儀なキャメラワークは圧巻の一言。これは職人芸。ただ、同じ溝口の1930年代の傑作群ではお芝居の区切りでさえもカットを割らずに移動やパンでシーンをつなぐケースが多々あります。それに比べれば大映時代の溝口のキャメラは実に律儀で、いかにも「円熟期」といった感じがします。若さ溢れる30年代の溝口が好きか、それとも50年代の円熟期の溝口が好きか。これは好みの分かれるところでしょう。30年代と50年代。いずれも溝口の全盛期ですが、これが日本映画の全盛時代とぴたりと一致することを忘れてはならないと思います。ちなみに僕は30年代が好きです。 【スロウボート】さん 9点(2004-09-26 13:31:42) (良:5票) |
31.立派な作品です。水辺のシーンは、誘拐の場、入水の場、母との再会の場(ラストのパンより厨子王が駆け寄るところ)と、どれも素晴らしいし、セットも重厚、厨子王を探して松明かざした追っ手が寺の境内に詰めかけるあたりの空間処理は見事の一語。でもそれがどこか、クラシック歌手がスマして童謡歌ってる時のような、ピタリと合ってない違和感もある。テーマとしても、社会的に固まってしまっているシステムへ反抗することの困難さ、つまり革命の難しさをけっこう詰めて描いている一方、主人公周辺は“昔話”のトーンで進められる。溝口作品では珍しく、男女の恋愛が描かれない。女っけのない、母と妹しか頭にない主人公って、これやっぱり昔話の登場人物だよね。だから彼がやったことは昔話としては納得いくんだけど、社会変革者としてみると、自己満足というか単に意趣がえしでしかなく、あの解放された下人らの未来もあんまり明るそうではない。そこらへんのトーンのブレが気にかかる。ただ人さらいの毛利菊枝の怖さは別格で、この監督は悪い女を描くと変に染み入って記憶に残るんだ。『夜の女たち』って、作品自体は部分的にしか記憶に残ってないんだけど、転落のきっかけになる古着屋のおかみさんの、親切ごかした悪意の描写は染み入った。関西人ならではのねっとり感があって、いやーな薄暗い感じが滲んでくる。そうか、どっとも親切めかして田中絹代を“遊女”に落としたわけか。この種の酷薄さを描くと、凄い監督だった。 【なんのかんの】さん [映画館(邦画)] 7点(2009-07-18 12:01:25) (良:2票) |
30.話の筋はもちろん、心情までもが映像で語られる。厨子王がなぜ人の心をなくしてゆくのか、そしてどこでまた取り戻してゆくのか、はたまた山椒大夫はなぜ非道なのか、息子はなぜ坊さんになったのか、、、時代背景や荘園制度の説明はあっても、それ以外は映像で語る。この手の話はついついストーリーを追って見てしまう。しかもこの映画は厄介なことにわかりやすいので余計にストーリーを追ってしまう。しかしこのわかりやすさが全て演出の賜物であるということがこの映画の凄いところ。というか本来はこれが普通なんでしょうが。長回しに拘らず話のテンポをつくるカット割も普通に絶妙。オーソドックスで完璧な映画。画はどこもかしこもきまってて、画だけ見れば全てが名場面と言ってもいいぐらい。一度しか見ていないので、今度は”話”ではなく”画(映画)”を堪能しながら見直したいです。 【R&A】さん 7点(2005-01-07 15:28:33) (良:2票) |
29.《ネタバレ》 安寿と厨子王が波路の霜除けの草屋根の為に枝を折って転んでしまうシーンは勿論彼等が幼い頃のそれを彷彿とさせ、奴、端女として過ごした時の長さの無情さを感じさせますし、山椒大夫の所から厨子王を逃がすシーンでおばあさんが安寿に「私を縛っておいき」と言う意味を前の台詞から読み取ると「お行き」ではなく「お逝き」だと分かるとその後に「さようなら」と何度も言い合う2人の姿はこれ以上ないくらいに切なく映ってしまいます。 しかし、安寿を厨子王の妹にした為に逃亡シーンでは2人のキャラクターが機転の効いた利発な妹と不甲斐ない利己的な兄となってしまい、本来なら慈愛的な犠牲として安寿の死を捉えたいのに戦略的な犠牲という印象が強くなってしまっていると思います。 原作に沿った姉が弟を守るという年長者の慈悲というような見せ方なら収まりが良いのですが、強い者による自己犠牲の構図が壊れてしまい年上の男が年下の女を犠牲にして助かるという描き方では心に響くものがなくなってしまい、安寿への哀れみだけが残りこの後行動を起こす厨子王へは肯定的な感情移入が難しくなってしまいます。 原作者のこの設定を制作者が変えた理由は解りませんし腑に落ちなかったです。 その為断片的には感動できるのですが全体的に見ると少し感動が薄れた印象になってしまいます。 厨子王が佐渡に渡り船頭に中君(母親)の所在を尋ねるシーンがあります。 ほぼ何も無い砂浜の手前に人物を置いていますが、フレームに対しての人物のサイズと位置が絶妙のバランスとなっていて彼が僅かなコントラストのある白い砂浜に足跡を一つ一つ残しながら奥に歩いて行く姿は絵画的な美しさが有りもう少し見ていたい気持ちになりました。 しかし、先に見た約半年後に公開される「近松物語」との相対的な評価になってしまいますが、フィルムのラチチュードが狭い為なのか最暗部の黒の締りが弱いので画にそれ程力強さを感じられません。 構図自体は「近松物語」同様素晴らしいカットが多々あるので非常に勿体無く思いました。 獅子王が山椒大夫の元から逃げる決意を安寿に表した時にほんの一瞬だけ彼女の顔が緩みます。 それまでの彼女の人生とその後の運命を思うとあの一瞬の笑顔は言葉にならないくらい印象に残りました。 【しってるねこのち】さん [CS・衛星(邦画)] 7点(2015-07-18 18:09:02) (良:1票) |
28.《ネタバレ》 奥方の田中絹代、遊女の田中絹代、そして老婆の田中絹代。この3発の爆撃だけであまりにも強烈。これぞ役者、これぞ俳優。●映像面で印象に残ったのは、実は、最後の感動の再会からさらにその後、カメラが遠景を捉える中で、漁婦が黙々と作業を続けている風景。親子の再会という壮絶なドラマも、誰も気づかない、一番近くにいる人すらまったく気づかない中で、ごくひっそりと行われている。かつて存在した無名の町民・村民に対する製作者の祈りすら感じる。●姉弟を兄妹に変更してしまったのは、やはり大いに違和感がありました。荘園内での成長上の変化や、逃亡の決断のシーンに説得力がありません。 【Olias】さん [映画館(邦画)] 8点(2015-05-17 01:36:33) (良:1票) |
27.《ネタバレ》 世界的な評価の確立した名作に対して「7点」というのは、自分としてはやや低めの評価です。観る前のハードルが高すぎたのですが、駄作と言うほど悪いとは言えないものの、傑作と呼ぶ気にはなれません。宮川一夫のカメラと香川京子が申し分もなく美しいことに変わりないし、花柳喜章だって悪いとは思いません。じゃあ、いったい何が不満だったのか。おそらく、わたしは、鴎外の文章がもっていた非常に簡潔な叙事性と、前々作の「雨月物語」が強烈に放っていた神秘性とを、両方とも併せもったような世界に期待していたのだと思います。わたしが勝手に設定したそのハードルから見ると、この作品はごくフツーでした。いくつかの点で、鴎外の短編と違っている部分(安寿が妹である、巫女に騙される、姥竹が自殺ではない、厨子王に変節がある、山椒大夫に仕打ちが与えられる、最後に官位を捨ててしまう、地蔵の奇跡が描かれていない、等)がありますが、そうした変更を一概に悪いと言うつもりはありません。鴎外の小説じたい、もともとあった複数の伝説の翻案なのだし、たしかに小説どおりの展開にしていたら、かえってリアリティに欠けていたようにも思います。しかし、結果として現代的な意味での説得性が増しているぶん、おなじ中世の物語である「雨月物語」に感じられた理解を超越するような神秘性が薄まり、ややマンガじみた分かり易さに帰着した気がします。ヨーロッパの人たちにそのあたりがどう見えたのかは知りませんけど…。けっきょく総合的な意味でやっぱり最高傑作だって思うのは「近松物語」かなぁ。といいつつ、いまだに他の作品をレビューできていませんが。 【まいか】さん [DVD(邦画)] 7点(2012-10-07 01:13:48) (良:1票) |
26.《ネタバレ》 家族の別離による激しい苦しみ。安寿と厨子王、それに母親のほとばしる感情が画面から溢れ出ています。そして山椒大夫の根城の陰鬱な雰囲気。物語としては前半部の方が過酷であり劇的なんですけれど、この映画は厨子王の逃亡場面あたりからが特に際立っていると思います。もはや一瞬たりとも気が抜けたシーンがないどころか素晴らしいシーンの連続!まったく驚愕の完璧さです。 【ミスター・グレイ】さん [ビデオ(邦画)] 9点(2007-09-19 18:31:51) (良:1票) |
25.本作はヴェネチア国際映画祭で賞もとった国際的にも評価の高い作品である。 個人的には『残菊物語』と並んで溝口作品の中では最もお気に入りな作品となった。 オープニングのキャスト表示からして胸躍る。 重厚な音楽と共に、これから溝口作品が始まることを教えてくれる。 これからも溝口作品を観るにつけ、まるで『男はつらいよ』のオープニングを観るかの様に、条件反射的に胸躍ってしまうに違いない。 そして宮川一夫撮影による芸術的な映像美は言うまでもなく美しい。 単に美しいだけでなく、その映像を通してその世界に引き込まれていくような感覚を覚える。 この感覚がクセになってしまったので、もはやそう簡単には溝口映画から抜け出せそうにない。 そして出演陣では、香川京子に目を奪われた。 美しいというか、かわいいというか。 他の作品で何度か香川京子を観たことがあるが、この作品の香川京子が一番魅力的だった。 足の先まで可愛らしかった。 『ワンダフルライフ』での“おばあちゃん”香川京子を観てしまっているだけに、少々気分は複雑だが(笑)、今だ存命でいらっしゃるのは嬉しい限りだ。 『残菊物語』でもそうであったが、正直、中盤でダレル部分があるにはある。 しかし、これも『残菊物語』と同じく、“ラストの怒涛な展開”がそんな不満を木っ端微塵に吹き飛ばしてくれる。 本作のラスト15分はそれだけ凄まじい印象を残し、涙無しでは観ることができなかった。 こういったラストの怒涛な盛り上がりが、更に溝口作品へのハマりを助長する。 ますます溝口から抜け出せない。 困ったもんだ。 むちゃくちゃ忙しい毎日なのに、困ったもんだ。 あー、困った。 溝口健二には困った。 これから一つでも多くの、美しすぎる溝口作品を観ていきたいと思う。 【にじばぶ】さん [ビデオ(邦画)] 8点(2007-09-02 11:10:09) (良:1票) |
24.あまりにも深い絶望。苦しくて、どうしようもなく、それなのになぜ死に行く安寿はあれほどまでに美しく描かれているのだろう。水面が揺れ、吸い込まれていく肉体が絶望さえも吸い込んでいくように、美しく見える。溝口監督の作品には必ず、どこかに小さく、本当に目を凝らし、心を完全に広げていなければ見えてこないような儚い希望の光が見えるような気がする。繊細で尊い命という名の光。それを我々に教え、伝えてくれる。心が震えた。 【ボビー】さん [ビデオ(邦画)] 9点(2007-02-04 02:40:52) (良:1票) |
23.《ネタバレ》 「安寿と厨子王」はタイトルだけ知ってたけど、どんなストーリーかは全く知らなかったので悲惨なストーリー展開にはかなり驚いた。安寿と厨子王が連れて来られる山椒大夫の荘園が現在からすればモロに北朝鮮みたいな感じなのも恐ろしい。全体としては「雨月物語」や「近松物語」と並んで世界的評価の高い作品というのが頷ける素晴らしい映画で、安寿が入水自殺する湖のシーンや親子が引き裂かれるシーンなど映像がとにかく美しく、溝口映画にはやっぱり宮川一夫のカメラだなあと感じる。母親を演じる田中絹代も冒頭とラストでは本当に別人のようになっていて女優魂を感じた。まさに完璧な映画だと思う。それにしてもこの時代の溝口健二ってとても晩年とは思えないくらい傑作を連発していてほんとにすごい。 【イニシャルK】さん [CS・衛星(邦画)] 10点(2006-09-14 16:51:53) (良:1票) |
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22.《ネタバレ》 溝口健二監督、この監督の描く世界とそしてまたそんな監督の期待に応えるべき名カメラマン、宮川一夫撮影監督の黄金コンビによる美しい映像、力強さの中に見える人間的感情、これまた一つ素晴らしい映画に出会った。もう、何て言ったら良いのか?本当に美しい!それもただ美しいだけでなく、美しくて力強い!カメラがヒロインの姿を映し出している時のその美しさ、海辺のシーン、船に乗せられて誘拐されてまう場面でのため息の出る美しさ、何もかもが本当に惚れ惚れするような圧倒的な美しさ!香川京子演じる安寿が水死した後にそっと広がってく水面の輪の美しさ、とにかくどのシーンも本当に美しい!そんな美しい映像の世界で繰り広げられる人間模様、全てが一本の映画として見事に描かれています。これまた間違いなく傑作と言って良いでしょう!この監督の作品も日本映画黄金時代の時の日本映画が本当に良かった時代の名監督達が沢山、いた時代の一人、小津監督作品と並んで一度、はまってしまうとやめられません! 【青観】さん [ビデオ(字幕)] 9点(2006-01-02 17:37:10) (良:1票) |
21.悲しすぎるストーリー・・。美しすぎる構図・・。日本映画の至宝。これ以上言葉になりません・・。 【STYX21】さん 8点(2004-10-23 13:24:06) (良:1票) |
20.STING大好きさんじゃないですけど、確かにキレイな構図の数々が非常に印象的な映画。入水シーンは私の見た入水シーンNO.1です。他にも山から都を見下ろすシーン、ラストの浜辺のシーンなど等、ただ近頃はきれいなシーンを取れるようなロケーションが日本にないんでしょうねェ。キレイと評判のところにはおかしな建造物が建ち、海には至る所にテトラや防波堤、残念です。話しとしては親子兄妹の愛もいいですが、千年続く日本の腐った官僚体制がよくわかります。 【亜流派 十五郎】さん 8点(2004-03-10 22:24:06) (良:1票) |
19.《ネタバレ》 話の展開は大嫌い。でも、映画としては、引き込まれてしまう。溝口作品の怖さ。映像美術が素晴らしい。 【にけ】さん [映画館(邦画)] 7点(2019-01-05 21:16:29) |
18.《ネタバレ》 溝口はワンシーンワンカットの監督じゃない。 冒頭の厨子王が走る後ろ姿をオーバーラップするスピーディな繋ぎにまず驚愕。それに続く父親の回想の繋ぎ方のもうこれしかないという構図、照明にしびれる。 どのシーン、どのカットをとっても完璧な撮影だ。 中でもススキの野を行く4人のカットと佐渡の岸壁から子どもの名を呼ぶ田中絹代のカットは絶品。 【ゑぎ】さん [映画館(字幕)] 10点(2017-03-28 06:01:18) |
17.《ネタバレ》 いつ終わるかも分からない奴隷の身の上で、生きているはずの母を想う。気が遠くなりそうな話でした。「二人だけになってしまいました」の言葉がなんとも哀しい。 【次郎丸三郎】さん [DVD(邦画)] 6点(2015-12-06 00:04:46) |
16.《ネタバレ》 とっても悲しい物語ですね。大逆転からのセイバイを果たし、の、あの結末は悲し過ぎます。全体的に若干暗い雰囲気ですが、日本映画の良いところがいろいろある映画であったと思います。 【Kaname】さん [DVD(邦画)] 6点(2015-07-14 10:50:59) |
【ホットチョコレート】さん [CS・衛星(邦画)] 6点(2015-05-14 06:09:28) |
14.溝口作品の中ではあまり響かない映画でした。安寿と厨子王伝説がベースなので子供向けストーリーのように感じられますが、中味はとても暗く抑圧から解放される爽快感もありません。安寿役の若かりし頃の香川京子が印象的でした。 【ProPace】さん [CS・衛星(邦画)] 5点(2015-05-10 00:31:04) |
13.有名な作品だが、その「有名」さを意識していなければ最初の10分で観るのやめていたと思う。 物語は、人買いから山椒大夫に売られてからとてもわかり易くなる。そして全編悲劇だが、生々しさは多少隠されていて、あらすじを辿っていくような雰囲気も強い。 雨月物語も同じだが、こういった作品はこの時代で無いと難しいのかもしれない。現代ではどうしても表現できないものがあるような、そんな気がする。 【simple】さん [CS・衛星(邦画)] 6点(2015-05-09 18:58:07) |