3.なかなか見応えがありました。なるほどトランボとはこういう人だったのかと。バスタブに浸かったまま、酒を飲み、タバコを吸い、タイプライターを打ち続ける姿というのは、なかなか壮絶なものがあります。仕事に対するあれほどの情熱を、ぜひ私にも分けてもらいたいと思ったことが1つ。
ただし、そもそもなぜ共産主義者になったのかがよくわからない。映画産業という資本主義の権化のような業界に身を置き、なおかつそれなりの地位を得ていたようなので、なお不思議です。たしかにちょっと前までソ連は同じ連合国側だったわけで、その間に何かを学んで共鳴した可能性はあります。しかし戦後はきっぱり決別した以上、その時点で共産主義を捨ててもおかしくなかったはず。なぜ捨てなかったのか。
まったくの邪推ですが、もしかしたら本当にソ連共産党とつながっていて、スパイ的な行為や破壊的な行為を働いていたのではないか。そう考えると、逆に当時の米当局や米映画業界が執拗なまでに共産主義者を排斥しようとした理由もよくわかります。映画とは無関係な話ですが。
それからハイライトといえば、やはりジョン・グッドマンがバットを振り回すシーンでしょう。面白いのは、彼はけっしてトランボに対する友情からそうしたわけではないこと。「金づるを奪われてたまるか」という、いかにも資本主義的な行動原理だったように思います。つまり共産主義者トランボは、資本主義によって守られたわけで。作品にそんな意図はないかもしれませんが、つい勝手に妄想してニヤニヤしてしまいました。
まったく余談ながら、「ハリウッド・テン」を描いた映画なら、コーエン兄弟の「ヘイル・シーザー!」がおすすめ。彼らをおちょくった感じで、興行的には失敗作だったようですが、映画愛に満ちています。