8.かなりの駄作。
原作がそもそも駄目なのか、映画化のために書いたシナリオが駄目なのかわからないが、お話がひどい。
だめな理由は主に2つ。
1つは羽生と主人公の友情や絆、これが物語の根幹にしたかったのだろうが、それが全く機能していないこと。
というのも、二人が互いにそこまで思い入れを抱くようなことが作中にほとんど起きていないからだ。二人は互いに相手の人間性や考えに強く感情移入するようなことが作中に起こっていない。
だから、二人に友情や絆が芽生えたことに全然説得力がないのだ。
そうであるのに、やたらと二人の友情、絆をやられてもすべて茶番に思える。
2つめ。最後に羽生の「遺言」である「指が動かないなら、目で~」云々の言葉をもとに主人公が必死で山を降りてくるシーン。ここも大事なクライマックスであり、製作者としてはここを感動のシーンとしたかったのだろうが、これもまた綺麗さっぱり機能していない。主人公が生きる気力もなく自堕落に生きていたのを羽生の言葉で力をもらって強く生きようとするというのなら、わかる話だが、主人公はそもそも、羽生に勇気づけられるまでもなく、彼なりの強い行動原理に則って強く、たくましく生きていたではないか。
上司に楯突いたり、金の無心したり、自分の目的のためにかなり熱意を持って仕事をしていた。
彼がいまさら、羽生から生きるための力を学ぶ必要などないのだ(私にはむしろ辛いことがあった日本から逃げ出した羽生のほうがよほど軟弱に思える)。
さらに付け加えるなら、羽生からの言葉を心の支えに必死に山を降りてくるというシーンが成立するには主人公が生粋の登山家であって始めて成立する話だ。
登山家ではなく、あくまで登山写真家にすぎない主人公ではあのシーンは成り立たない。
必死に山に挑戦しなければならない理由が、彼にはそもそもないのである。
上記2点から、この映画にはドラマティック性がかなり損なわれてしまっている。
また、各登場人物の行動原理がむちゃくちゃなことが多いのも気になった。
主人公は、羽生遭難後、なぜ再び山を登ろうとしたのか意味がわからない。実際本人の口からも「分からない」というのだけど、クライマックスの大事なシーンによくわからない動機で突入してもらわないで頂きたい。
もっとわからないのは女。
本人すら登る理由が分からない主人公にのこのこついてくるんだから、ますます意味がわからない。お前は何がしたいのか。
他には序盤はマロリー登頂の成否について、かなり重要なファクターとして語ってたくせに、後半ほとんどスルーになってるのもブサイクなシナリオとしか言いようがない。
物語について、長々と書いたが、映像面に関してもあまり高い評価はできない。
私事だが、間が悪いことに「エベレスト3D」を最近見たものだから、あの映画から本作を見て、映像のあまりの落差に悲しくなる。制作費が限られている邦画ではまだ頑張っているとは思うけれど、山の景色の美しさや危険な登山でのスリルと迫力、そういったものは、この映画では味わえない。
背景はほとんど映さず、登場人物のアップばかりで、「今、エベレストにいる」という臨場感が全く感じられない。
映像はいまひとつで、ストーリーもだめ。この映画には楽しめる要素はない。