208.《ネタバレ》 『生きる』の原案はトルストイの『イワン・イリッチの死』。死病に伏した主人公の独白、孤独と絶望がテーマ。彼は死を前にして自分に「生きがい」がなかったことに煩悶する。『生きる』の主人公、志村喬演じる渡辺課長は癌発覚後、これまでの生を反芻しつつ最後の「生きがい」を見つけることで救われる。このオリジナルとの違いが黒澤ヒューマニズムの境地と言われる所以だろう。黒澤が『生きる』と題した物語のテーマはやはり「生きるとは何か?」なのだ。 とはいえ、実は『生きる』は渡辺課長が亡くなった後半からが面白い。通夜の席での「ナマコ」「ドブ板」「ハエ取り紙」といった曲者たちの喧喧諤諤には何度も感嘆した。さらに翌日の彼らの変わり身の早さを示すラストにも唸る。たとえ副次的であっても、あの通夜のシーンで、組織から個へ、組織に囚われる個の本質を見事に描いてしまったが故に、この映画のテーマが「個と何か」だというのも理解できる。それは「凡夫」であり「悪人」である人間の本質と言ってもいいだろう。 【onomichi】さん [インターネット(邦画)] 9点(2024-04-30 22:28:01) |
207.《ネタバレ》 失うものがない人間は強い。 …なんだけど、余命を突き付けられながら自分が何をしたいのか良く分からない主人公が なぜ公園建設にエネルギーを注力するのか不明瞭すぎる。 事務職員の娘を何度も誘うシーンには気持ち悪さが勝った(活力の源を知りたい理由はあれど)。 公園完成までの経緯と衝突をじっくり描くと思いきや、話がいきなり飛んで主人公が亡くなり、 葬儀で関係者が回想していく意表性すら上手く機能していない。 ぼそぼそで上手く言葉を伝えられない人がここまで漕ぎ着けるとは思えず、 周りも建前上とは言え、主人公への賞賛ばかりでただの説明で終わってしまったのは惜しい。 '50年代当時の生活文化、今でも変わらないたらい回しなお役所体質など目を見張るものはある。 自分の生きた証、何をしたのかという普遍的なテーマがあっても、 今やネットで簡単に可視化されるだけに何も感じられなくなってしまったかもしれない。 |
206.《ネタバレ》 有名な映画だからあらすじはだいたい知っていた。さてどんなアプローチでみせてくれるのかと期待していたが、どうも思っていたのとは違っていた。 胃がんで余命が無いと知り、遊びほうけたり若い女の子の生命力に魅せられるのはいい。そこまでは自然に共感できる。だがどうしてそこからいきなり公園建設の使命に目覚めたのか、その辺りの描き方が不充分。まあ、遊んでいても空しいだけ、誰か人のために命を尽くそうってことなんだろうけど、そこが一番肝心なところじゃないだろうか。気づいたら早々と主人公の葬式になっていて回想で振り返る脚本もあまり的を得ているとは思えない。 あと、黒澤映画で思うのは字幕が必要だと言うこと。映画が古いせいなのか俳優の活舌が悪いせいなのか本当にセリフが聞き取りづらい。これでは内容が充分に入ってこない。映画関係者には是非一考をお願いしたい 【イサオマン】さん [地上波(邦画)] 5点(2024-01-12 16:26:35) |
205.《ネタバレ》 以前松本幸四郎主演のドラマの方は観たこと があったけど、映画の方は観る機会がなく初めて鑑賞しました。 豊かになった現在と比べて戦後まだ10年も経っていない貧しかった 頃の日本の社会風景が何とも切ないですね。 やはり志村喬の目力の演技が光ります。 当時はまだ40代後半だったと思うのですが、昔の人々は現在と 比べると随分と老けていたんですね。 女事務員とのデートの最中に突然覚醒してから、公園の完成まで の苦労の過程がもっと細かく描かれるのかと思ったらあっという 間にお亡くなりになり、通夜の席での思い出話に終始したのは、 考え抜いた脚本とは思いますが、観ている側としてはちょっと 拍子抜けな感はありました。 それにしてもお役所仕事とはよくいったもので、現在でも基本的 には変わっていないように思います。 自治体や霞が関のお役所でバイトをしたことがありますが、今の 時代でも前例踏襲が基本で超アナログ&書類に埋もれたごみ屋敷 のような職場には驚かされます。 【キムリン】さん [地上波(邦画)] 6点(2024-01-09 15:17:30) |
204.後世に残る名作。 「生きる」ということは個々人の問題、誰かのためのようで自分のもの。 いつか観返す時のために満点にはしないでおきたい。 【simple】さん [CS・衛星(邦画)] 9点(2023-12-19 21:20:03) |
203.《ネタバレ》 ●2007年の投稿はこのような事を書いていた 先日の兵庫県生野での「志村喬展」での地方公会堂での6回目鑑賞。 見る前に関係者のトークショーが印所に残ってしまったので書いちゃいます。 といってもどこかにかかれているかもしれないので2度目の方はご容赦。 この映画の撮影をはじめる前に志村さんは盲腸を患ってしまったそうです。あのぽつりぽつりセリフを話すのは最初腹に力が入らなかったためとも言われてます。 昭和20年代の盲腸だから併発症などが怖い時代ですけど、カメラマンと監督とで志村さんの家にお見舞いに行ったそうです。ところがいろいろと話し込んでいるうちに時間も遅くなっったのでこれでとどめということで、志村さんの奥さんがウイスキーをだしたんだけどこれがまた火をつけてしまったようで、志村さんを含めて大いに話が盛り上がったそうな。奥さんは盲腸の傷が心配でしょうがなっかたとのこと。そこにだれかが三船敏郎に電話して、呼んでもいないのに三船さんが大きな風呂敷を抱えてきたそうです。 その風呂敷には、長男の三船史郎さんが入っていたそうで、三船さんは長男を酒の肴に持ってきたという良くわからない話。 史郎さんがあとから聞いたことには、「あれは志村さんの映画でボクの入る隙が無い」とのことを言っていたそうです。完成度の高い映画は何時見てもOK。小田切みきさんとの演技打ち合わせは(監督の)熱の入った話が長く、志村さんがそれをかいつまんで説明していたとの話でした。 ●2023年DVDでの7回目鑑賞での追加コメント 目、とにかく志村さんの目 映画冒頭での市役所での気合の入らない仕事中の目 若い女性を見る目 がんとわかった時の目 ブランコに乗っている時の目 公園を作ろうと決意する目 自分の身内でがん患者が出ることを知っていたら、こんな見方はしなかったであろう 人間の生き方って「目」に出るんだ そう思いこそすれこの映画の志村さんの目に注目して見たら、 ああ、さすがにクロサワだ 生きるとは目の輝きなんだ そう思いました 【亜輪蔵】さん [映画館(邦画)] 8点(2023-05-23 15:01:11) |
202.《ネタバレ》 約4年ぶり2度目観賞。リメイク版公開に向けての復習。黒澤明監督の代表作。瞳をギョロつかせるミイラ面の廃人。タカシくん渾身の名演。胃がんで余命半年、マジメだけど生きた化石のような市民課長が「ハッピバースデー」を境にシャキーーン。やる気があれば何でもできーるっ。廃人をやめて、市民が要望する公園作りに瞳を白黒させながら奔走。だけど最期のブランコで唄うシーンはやっぱり不気味ですな。 【獅子-平常心】さん [CS・衛星(邦画)] 6点(2019-06-30 20:36:27) |
201.《ネタバレ》 かの黒澤監督の代表作であり、そのあらすじから、ずっしりと重たい内容の映画と思っていたが、意外と喜劇調にできていて驚きました。これは余命を覚悟した男が、悩み、迷い、奔走し、最終的には死ぬまでに何か自分が生きた功績を残そう、と決意し実行に至る物語です。しかし人間遅かれ早かれ死ぬのだから、これはある意味で誰にとってもの物語と思う。言わんとしていることは、必ずしも余命宣告されてからどうこう、ではなくて、常日頃からただ毎日を生きるな、活きろ、ということであり、使命とは与えられるものではなく、自分で決めろということではないかな。公務員はただ座ってるだけで給料がもらえるような描写がありますが、それは公務員に対する風刺でも揶揄でもなく、本作のテーマ上、職業も給料も安泰な人間を主人公にすえることが何より重要だったように思います。私としては、四十半ばでいろいろと人生を振り返り、残りの人生をどう生きるか、じっくりと考えるいい機会になりました。志村喬さんの大きな黒目の澄んだ瞳がとても心に残ります。日本が誇る名監督、名優の仕事をこの目に観ることができてよかったと思う。 【タケノコ】さん [DVD(邦画)] 8点(2019-01-07 22:42:26) |
200.《ネタバレ》 伊藤雄之助がまるでメフィストのように、この世の快楽地獄を連れ回すシーンが好き。そして、ファーストシーン。いきなり胃カメラからの独白。ただ、志村が、少し熱演過ぎてくどい。 【にけ】さん [映画館(邦画)] 7点(2018-12-27 18:57:15) |
199.素晴らしいドラマです。ハッピーバースデーのシーンは何と優れた演出でしょうか。やられました。ただしそこに至るまでのシーンが長いですが。自分の人生について考えるためにも、一度は見ておくべき映画だと思います。 【alian】さん [DVD(邦画)] 8点(2018-08-25 16:33:17) |
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198.《ネタバレ》 かつては「遅れず休まず働かず」、これ小役人の鉄則。プラス「大過なく過ごして定年退職」。「デカンショ役人」「○○一暇な役所」なんて言葉もあったな。 公務員の仕事は文書のひと文字ひと文字、数字のひとつひとつがその証となる(だから改ざんなんかいけねえよ)。こつこつ働いて課長になり、稟議で「ハンコ押すだけ」の役割も仕事の一つ。生活のためもあり割り切れるかどうかだが、役人は組織で仕事をするものだから、主人公の無気力は一面的であり説得力をあまり感じない。とはいえ通夜の席での同僚たちによる会話は、勤め人の本質を突く優れた展開。 余命宣告を受けた後、主人公のはじけっぷりが尋常でない。「それほど変わるか?」が素直な感想。役所の部下だった女性の若さを吸収するがごとき行動は面白いが、このシークエンスは少々違和感がある。彼女の“おもちゃを作る”仕事に衝撃を受け、それまでの無気力から一転、“公園をつくる”(=生きた証を残す)行動に出る。その奮闘ぶりから、人生において「何かを成し遂げる価値」は十分伝わる。 【風小僧】さん [CS・衛星(邦画)] 6点(2018-06-24 14:17:14) |
197.《ネタバレ》 生き方という点で非常に印象に残る映画だが、演技がちょっとやり過ぎというか、気持ち悪いかな。ブランコのシーンは良い。 【なす】さん [DVD(字幕)] 8点(2018-06-04 01:41:43) |
196.黒沢映画10数本目の鑑賞ですが一番心に残ります。死期迫る主人公に寄り添う気持ちが私に乏しいせいか、じれったくてイライラしてしまいますが、とても胸が熱くなる作品です。 【ProPace】さん [CS・衛星(邦画)] 8点(2018-02-02 20:41:00) |
195.《ネタバレ》 30年役場で惰性のみで仕事をしてきた課長が余命半年を告げられ、これではいけないと突然市民のために生きる事に目覚めて実現困難な公園新設を死ぬまでにやり遂げた映画・・と考えると多分誤りで、平和な現在を基準に考えるとわざわざ映画にするような題材に思えません。 映画にも一部描かれますがこれが作られた昭和27年と言えば、主人公の年代の人は戦前の二・二六事件などの緊張した時代から戦争で肉親が出征、戦死したり、はたまた空襲で街が焼け野原になり、近隣の人が死に、戦後は食糧難と復興で観客も含めて皆「生き延びる」だけでも大変であった時代と思います。主人公も無表情のまま「とにかく忙しくて・・」とその人生を語っていますが、時代に流されるまま「生き延びる」ことにはその場その場で「必死に対応して生きて来た」と言う事だったのではないかと思います。そうして必死に生き延びた人生が「後半年」と宣告された時に、「何か」が芽生えて、生き延びるために生きるだけではない「何か」を若い小田切君に魅入られるように模索した結果が「公園建設」だったのだろうと思います。 「何か」が見つかった後はいきなり葬式の場面になって、公園建設に奔走する様は関係者の回想で断片的に語られるだけなのですが、建設のストーリーは問題ではなくて「精神」だけ描きたかったのだと思います。その「精神」も市民のため云々という奇麗事ではなくて、生き延びるためだけではない「生きる」の「何か」がこんなであった、というのが主眼で「夕焼け」と「雪中のブランコ」のシーンにその精神が集約されたのかも知れません。「何か」は見る人それぞれ何でも良くて、当時の状況からは「革新的な思想」や「新興宗教」はたまた一攫千金を夢見た「起業」かもしれませんが、作者はその何かを模索して欲しいと思ったのでしょう。とても良い映画ですが、現在から見るといろいろ考えないと解り難いという事ではこの点で。 【rakitarou】さん [CS・衛星(邦画)] 7点(2018-01-09 14:29:22) |
194.すばらしい! 命は限りあるものだから、自分の生まれた意味を人間考えるでしょうね〜。 深い。。。 【へまち】さん [DVD(字幕)] 9点(2017-12-06 22:43:15) |
193.昭和27年の文化背景が垣間見えるのは面白い。この頃からパチンコはあったんだなあとか、「メフィスト」は話に突然出てきて通用するくらい知られていたのかとか。 ただ、声が聞き取りづらくてセリフがよくわからないのが多々ある。特に主人公のセリフが一番わかりづらい。その分、表情が言葉以上に物語っていて、そういいった迫力は伝わってきた。 【もんでんどん】さん [CS・衛星(邦画)] 5点(2017-05-18 14:39:58) |
192.《ネタバレ》 学生時代に一度見たが、その時はなるほどこれが名画というものかと思った程度だった。 今回見ると、まずハッピーバースデーまでがとにかく長く、その間主人公がジタバタするのが非常に見苦しい。自業自得だろうと突き放したくなる一方、息子のためにこうしてきたというならそれでいいだろうがとも思う。生きる意味などそれぞれ気の持ちようなのでどうにでも納得できるはずで、特にこの時代なら、とりあえずここまで生き延びて子孫が残るだけでもいいではないかと思うが、それをあえて否定して、個人の生きる意味を求めたのがこの映画ということなのか。しかし現代ではその個人の部分だけが重視される一方で少子化が進んでいくのは皮肉ともいえる。 その後の通夜の場面では、一転して他者の視点から主人公の行動を明らかにし、印象操作や誤解を排した全体像を皆が共有していくのが面白い。警官の述懐は、いわゆる最後のピースがはまったようにすっきり感じられた。 またこの部分で語られる役所の組織体質は興味深い(笑う)。何もしない決まりがあるというよりは、行動様式として目の前に来た案件を捌くのが基本だから主体的に動く発想がないのだろうし、そういうのは江戸時代のままではないかという気もするが、わずかな体面のために自分の領分への干渉を許さないとか、執拗な相対化で個人の功績を薄めようとするなどは小役人というより日本人の気質ではないのか。記者の言う「プロモーター」はいかにも新しい言葉に聞こえたが、当時などほとんど理解されていなかったのではと想像する。 そこで何かしようとした場合、主人公に関してはたまたま本当に役に立つ仕事がその辺に転がっていたからよかったが、動機が不純だと自己満足だけで愚にもつかないことをやらかす恐れもある。そもそも自分のために仕事をするなど公僕のやることかと言いたいところだが、ただし工事現場で倒れた主人公を、周辺住民が寄ってたかって助けた場面は少し泣けるものがあった。要は実のある仕事かどうかかが真の問題であって、それが同時に当人の生きた意味にもつながりうることは示されていたように思う。今さら他人に言われる筋合いはないと反発を覚えながらも、人生悔いのないようにという思いは否応なしに残る映画だった。 ちなみに劇中の小田切とよは、近場に本当にこういう人物がいるので妙に親近感を覚えた。どうでもいいことだが。 【かっぱ堰】さん [DVD(邦画)] 7点(2017-04-05 20:36:14) |
191.通夜の席で主人公の頑張りが回想されるという作りは興味深いですが、そこまでが冗長で退屈なので 高得点はつけられません。主人公の声が終始ボソボソして聞き取りにくいのもマイナスです。志村喬氏の最高傑作は黒沢作品ではなく「日本のいちばん長い日」だと思います。 【次郎丸三郎】さん [DVD(邦画)] 4点(2016-11-24 19:50:36) |
190.《ネタバレ》 この映画は基本的にコメディであろう。それも風刺の効いたとびきり上質なブラック・コメディ。とかく感動的な人間ドラマの最高峰と捉えられがちな本作だが、例えばもしこれから本作を初めて見るような若い世代の方がいれば、「なんだか、最後にほろっと出来るコメディ映画らしいぞ」と言うくらいの心持ちで観た方が、「重厚な泣ける映画なんだって」と思いながら見始めるよりも格段に良いだろう。黒澤明もそのつもりで作っているだろうし、それを証拠に「俺は生まれ変わったつもりで頑張る!」と言っていた新課長が場面が変わると結局今まで通りと言う流れは、「生まれ変わる」という宣言が大きなフリになっており、これはお笑いの基本的な構造そのものである。本作にはそうしたお笑いの構造を用いられた場面がいくつもあり、明らかに笑わせる事を優先して作られている。さて「死んだように生きるのか、それとも死にものぐるいで生きるのか」というのは「現代人」にとって永遠のテーマであり、「ショーシャンクの空」でも「Get busy living or get busy dying」でそのまま触れられている。そういった重厚なテーマを扱いながらもクスクス(時にはゲラゲラ)笑わせながら、考えさせる映画というのがこの作品の本質だろう。ちなみにお葬式のシーンでの役所の方々の立ち振る舞いをみながら、小田切さんの付けたあだ名の主が誰か?と想像するのも楽しい。 |
189.《ネタバレ》 東宝創立50周年の時に見て以来ですから、久しぶり。いやぁ、これはうまい。面白いとか感動的という以前に、うまさが目立つ。中でも「ハッピー・バースデー」にはやられましたなぁ。あえて言うなら、技巧に走ったところが欠点になっています。本作では役所の体質に対する風刺もありますが、それよりもやはり「生きているというのはどういうことなのか」という点がポイントであり、正直役所批判はおまけのように思えました。そういう意味では、とりあえず一度は見ておいた方がいい映画だと思います。現在では癌は必ずしも治療できないわけではないし、役所の体質も変わっているでしょうが、生きることに対する本質は生きていると思います。 【アングロファイル】さん [映画館(邦画)] 9点(2016-09-22 20:52:25) |