2.《ネタバレ》 野山の緑、空の青、滴る汗の光や瞳の透明感、小説ではけっして描くことのできない美しい映像で彩られた本作は、日本を代表する作品に仕上がったのではないかと思います。物語の最後、文四郎とふくが昔の思い出を語り、お互いの愛情が本物であったとわかりあうことのできたシーンは、本当に感動しました。そして何と言っても木村佳乃さんの美しさ。立ち振る舞いはいうに及ばず、欅御殿での再会のシーン、文四郎に妻子がないことを知ったときの表情は、それだけで文四郎への強い思いが伝わってくるようでした。
ただ残念なのは、原作で描かれていた秘剣・村雨の伝授が劇中ではなかった点です。文四郎とふくの恋模様に重点を置きすぎたためか、道場での稽古のシーンが少なく、原作で見せるような圧倒的な強さ、そして藤沢作品には絶対に欠かすことのできない美しい殺陣があまり描かれていなかったのが残念です。また、矢田の未亡人についても後半は完全に出番がなく、前半登場した意味がないように思えました。
しかしながらこれらを差し引いても素晴らしい作品であることに変わりはなく、私自身ファンである故藤沢周平さんの作品を、これからも多数映画化してほしいと思います。