57.《ネタバレ》 『生きる』の原案はトルストイの『イワン・イリッチの死』。死病に伏した主人公の独白、孤独と絶望がテーマ。彼は死を前にして自分に「生きがい」がなかったことに煩悶する。『生きる』の主人公、志村喬演じる渡辺課長は癌発覚後、これまでの生を反芻しつつ最後の「生きがい」を見つけることで救われる。このオリジナルとの違いが黒澤ヒューマニズムの境地と言われる所以だろう。黒澤が『生きる』と題した物語のテーマはやはり「生きるとは何か?」なのだ。 とはいえ、実は『生きる』は渡辺課長が亡くなった後半からが面白い。通夜の席での「ナマコ」「ドブ板」「ハエ取り紙」といった曲者たちの喧喧諤諤には何度も感嘆した。さらに翌日の彼らの変わり身の早さを示すラストにも唸る。たとえ副次的であっても、あの通夜のシーンで、組織から個へ、組織に囚われる個の本質を見事に描いてしまったが故に、この映画のテーマが「個と何か」だというのも理解できる。それは「凡夫」であり「悪人」である人間の本質と言ってもいいだろう。 【onomichi】さん [インターネット(邦画)] 9点(2024-04-30 22:28:01) |
56.《ネタバレ》 そのうちDVDを買おうと思っていたところ、BSで放送されて有り難く視聴。'50年代初期の日本の風景。戦後間もない、まだ簡素だけど生き生きと賑やかな町並みが、観ていて楽しい。 課長職で、立派な家に息子夫婦と住み、家政婦も居る。傍から見れば羨ましい限りの生活。病院で死を悟り、家に帰り、仕事に行くため目覚ましをセットする。もう死ぬのに、何で仕事を続けないといけないのか? 心のなかで何度も『光男、光男…』と叫ぶ様子がまた切ない。これからどう生きていけば良いのか。愛する妻に先立たれ、まだ幼かった光男を育て上げることは、渡辺の生きがいに違いなかったろう。今では光男も既に結婚し、西洋かぶれのベッドにガウンと、夫婦で好きなように生きている。一人息子からも必要とされていない今の現実と、死ぬことを言い出せない冷え切った親子関係。 志村喬の目の輝きがとても印象深い。働いて“死骸と一緒”の時は輝きのない目をしていて、死を受け入れて、どう生きるかを模索しだしてから、目が輝く。やせ細る顔と対象的に、生きることへの執着を表すようなギラギラした目。 まず飲む打つ買うと、今までと真逆の生き方をしてみる。残りの人生を自分のために使ってみる。ピアノ伴奏で歌いだす“ゴンドラの唄”。暗い歌が場にそぐわないのはもちろんだけど、どんどん伴奏とズレていくところが、娯楽では満たされない虚しさを感じさせる。暗い空気のタクシーの中で、娼婦が歌う“カモナマイハウス”。帰る家(家庭)など無い渡辺と、心情を察して涙ぐむ小説家の対比が見事。 小田切くんに靴下を買ってあげよう。一緒に遊んで、甘いものもご馳走しよう。残りの人生を若い女との時間に使うと思わせておいて、人が喜ぶ姿に生きがいを見出したんだと気がつく流れがテンポが良くて伝わりやすい。パタパタ跳ねるうさぎのおもちゃと「こんなものでも、日本中の赤ん坊と仲よしになれたような気がするの」そうか、目の前の人を喜ばせるだけじゃなんだ。という気付き。「やる気になれば!」「ワシにも何か出来る!」遂に生きがいを見つけた渡辺の後ろから“ハッピーバースデートゥーユー”。 本作の主題である、渡辺が『生きる』姿を観せず、通夜の席に飛ぶ流れは、今の目で観ても思い切った手法。全てが終わってから振り返る手法は『市民ケーン』のアレンジなのかもしれないけど、その後の職員たちの気持ちの変化が、当時のお役所仕事の風刺として印象深い。また『素晴らしき哉、人生!』とは異なり、自ら、あの状況で気が付き、出来ることをやりきった渡辺の姿は、映画の中のお話に終わらせず、どんな人にもやる気を湧かせたんじゃないだろうか。 ブランコで一人“ゴンドラの唄”を歌う渡辺の目に、生きていた時のような輝きはない。祭壇の遺影と同じように。公園という自分が生きた証を残し、満足して死んでいったんだろう。 台詞がよく聞き取れなくて、居酒屋で小説家に渡すアレが何か分からず。あと録画したものにテロップが入ってたので、やっぱ字幕の付いたDVD買うか。 【K&K】さん [CS・衛星(邦画)] 9点(2024-02-03 18:16:42) (良:1票) |
55.後世に残る名作。 「生きる」ということは個々人の問題、誰かのためのようで自分のもの。 いつか観返す時のために満点にはしないでおきたい。 【simple】さん [CS・衛星(邦画)] 9点(2023-12-19 21:20:03) |
54.《ネタバレ》 前半はとにかく、癌に侵されてると知って自暴自棄になってた渡辺さんが、生きる事の意味、何かに取り組む事の大切さに気付いてからが凄く生き生きして、これが本当に“生きる”事なんだと思いました。公園建設の事で拒否されながらも何度も何度も頭を下げる姿には本当に心を打たれたし、、雪降る公園の中でブランコに乗りながら楽しそうに「命短し」を歌う姿には、恥ずかしながら涙を流しました。本当に、心にジーンと染みてくる映画でした。 【クリムゾン・キング】さん [ビデオ(邦画)] 9点(2021-07-30 19:17:33) |
53.久し振りに‥‥本当に久し振りに鑑賞しました。 以前観てから、恐らく40年前後経っていると思います。 観る方が年をとっても、良質な映画は古くならず、我々に感動を与えてくれます。 何より、あの志村喬の演技力の素晴らしさ 殆んど、まばたきをせず、目力で観る人に訴えて来る‥‥ 観終わった後、暫く涙が止まりませんでした。 現在、リメイク版(タイトルは「Living」)を英国で製作中と聞いています。 どんな作品になるのか、楽しみです。 【TerenParen】さん [DVD(字幕)] 9点(2020-11-19 21:28:31) (良:1票) |
52.こんなに後からじわじわとくる映画も珍しい。黒澤が描くヒューマニズムの代表格であり間違いなく不朽の名作。 無気力に生き坦々と過ごす日々の人間にある日死の宣告が訪れる。余命をどう生きるか。誰もがいつかは死ぬわけではあるが、こんなに人生の意味を考えることはないんじゃないか。きっと同じ立場であれば強烈な不安に襲われる。そのなかで明日をどう生きるか。深く考えさせられた。 また、志村喬が迫真。何が凄いって、全体的にボソボソと話すのだが会話要らずの眼の演技。絶望、不安、生命力を眼で表現してる。 エンディングは夕焼けが印象的。モノクロではあるが生き抜いた達成感と哀愁に映え色彩があるようだ。ブランコを見る際、恐らくずっとこの生きるが頭によぎるだろう。それだけの映画。 |
51.すばらしい! 命は限りあるものだから、自分の生まれた意味を人間考えるでしょうね〜。 深い。。。 【へまち】さん [DVD(字幕)] 9点(2017-12-06 22:43:15) |
50.《ネタバレ》 この映画は基本的にコメディであろう。それも風刺の効いたとびきり上質なブラック・コメディ。とかく感動的な人間ドラマの最高峰と捉えられがちな本作だが、例えばもしこれから本作を初めて見るような若い世代の方がいれば、「なんだか、最後にほろっと出来るコメディ映画らしいぞ」と言うくらいの心持ちで観た方が、「重厚な泣ける映画なんだって」と思いながら見始めるよりも格段に良いだろう。黒澤明もそのつもりで作っているだろうし、それを証拠に「俺は生まれ変わったつもりで頑張る!」と言っていた新課長が場面が変わると結局今まで通りと言う流れは、「生まれ変わる」という宣言が大きなフリになっており、これはお笑いの基本的な構造そのものである。本作にはそうしたお笑いの構造を用いられた場面がいくつもあり、明らかに笑わせる事を優先して作られている。さて「死んだように生きるのか、それとも死にものぐるいで生きるのか」というのは「現代人」にとって永遠のテーマであり、「ショーシャンクの空」でも「Get busy living or get busy dying」でそのまま触れられている。そういった重厚なテーマを扱いながらもクスクス(時にはゲラゲラ)笑わせながら、考えさせる映画というのがこの作品の本質だろう。ちなみにお葬式のシーンでの役所の方々の立ち振る舞いをみながら、小田切さんの付けたあだ名の主が誰か?と想像するのも楽しい。 |
49.《ネタバレ》 東宝創立50周年の時に見て以来ですから、久しぶり。いやぁ、これはうまい。面白いとか感動的という以前に、うまさが目立つ。中でも「ハッピー・バースデー」にはやられましたなぁ。あえて言うなら、技巧に走ったところが欠点になっています。本作では役所の体質に対する風刺もありますが、それよりもやはり「生きているというのはどういうことなのか」という点がポイントであり、正直役所批判はおまけのように思えました。そういう意味では、とりあえず一度は見ておいた方がいい映画だと思います。現在では癌は必ずしも治療できないわけではないし、役所の体質も変わっているでしょうが、生きることに対する本質は生きていると思います。 【アングロファイル】さん [映画館(邦画)] 9点(2016-09-22 20:55:55) |
48.《ネタバレ》 ヒューマニズムが評価されることが多い作品ですが、お役所仕事を痛烈に皮肉っている点を私は最も評価します。葬儀シーンでの演出はお見事としか言いようがありません。確かに彼らは口だけだし、渡辺の影響などまるでなさそうに見えます。しかし、彼らの心には渡辺という男が死の間際に何を残したのかという記憶は残るのです。いつか何かのきっかけで登場人物の誰かが渡辺のように目覚めるかもしれない。それも人生の面白いところだというメッセージもあるのかな。 【カニばさみ】さん [DVD(字幕)] 9点(2016-02-16 02:31:13) |
|
47.《ネタバレ》 巧みですね。 脚本も演技も。 ミイラのように働いていた男が、自らの死期を悟って、生きる意味を見いだしていく。 って、書きゃ、一行の話を、効果的に見せてくれます。 多少長い感じもするけど、構成がうまいですよね。 ホント感心します。 【ろにまさ】さん [CS・衛星(邦画)] 9点(2015-08-31 15:20:55) |
46.《ネタバレ》 七人の侍や椿三十郎などの娯楽性の強い作品とは一変重厚なテーマを扱った本作。胃癌と分かるまでは「生きていなかった」渡辺、しかし死を目前にして彼はやっと「生きた」。冒頭でナレーターは、市役所で毎日同じ事を繰り返す渡辺に対してまだ「生きていない」と言った。観ている自分にも言われたようで心にグサリつきささる。彼のあの毎日と自分の毎日も大して変わらないのではないか?だとしたら自分も「生きていない」ことになる。しかしそれが分かったところで一体どうしろと言うのでしょう。もし今死を目前にしたら渡辺のように何か行動を起こし「生きる」ことができるのだろうか。もやもやしたモノが後に残るが深く考えさせられる映画であった。自分が「生きた」証を世に残し嬉しそうに死んでいったという渡辺。そんな人生を自分も歩みたいものです。 【ケ66軍曹】さん [DVD(邦画)] 9点(2015-08-07 22:20:28) |
45.《ネタバレ》 独特の視点で人の生き方を問う深い作品。人それぞれ何らかの転機は訪れるとは思うのだけども、 病気発覚を機にお役所仕事にドップリつかった自分を反省し、公園づくりに取り組む主人公を志村喬が迫真の演技で表現しています。最後の通夜の場面での職場の同僚・上司・上役を通じて語られる回想は一つ一つ紐解くかのようで、彼の執念ともいえる生き方がよく見えていきます。彼の動きはお役所の垣根を越え人を、組織を動かしてゆく。そして最後は自らの人生の投影した公園で死んでゆく。残り少ない人生を精一杯生き抜いた男の生きざまを見せられた印象です。ある意味直球なタイトルの少し極端な方向性のお話しでしたがとても良かった。かなり昔の映画ですが、そこらへんが苦手な方にもこれは勧められるとオモイマスハイ 【Kaname】さん [CS・衛星(邦画)] 9点(2015-06-04 11:59:54) |
44.《ネタバレ》 雪降る中のブランコ。 パーティーで通りすぎるHappyBirthday。 少し明るく映された主人公は改めて生まれたんだと。 自分はどう生きるか、平凡ながら考えた作品。 【えこー】さん [ビデオ(邦画)] 9点(2015-03-01 19:12:11) |
43.《ネタバレ》 黒澤明が生きるをテーマに描いた作品。 お役所で事なかれ主義を30年間続けてきた志村喬演じる渡辺が死を間近に感じることで生きる意味を見出す。 ただ怠惰な生活を送っているだけでは命はあっても生きるとはいえない。 生きるとはどういうことか、それを知り実行し、完遂した渡辺がブランコを漕ぎながらゴンドラの唄を歌うシーンは涙を誘う。 これだけ重く難しいテーマを完璧に使いきった黒澤明は流石である。 そして志村喬の演技があるからこその作品であり、三船をあえて使わなかった理由というのもよく分かる。 傑作である。 【こしち】さん [DVD(邦画)] 9点(2014-08-07 21:38:08) |
42.《ネタバレ》 冒頭では生きている死人の様な男、渡辺。生き甲斐の無い人生。正に役所の書類にハンコを押す様な生活で、余命幾ばくも無い事が分かり、己の人生を振り返った時の虚無感。自分が誰にも必要とされない存在と分かった時の恐怖。観ていて本当に恐ろしくなってしまいました。ここがしっかりと描かれているからこそ、「ハッピー・バースデイ・トウ・ユー」の歌も心の底まで真に響いてくる。数ある黒澤映画の中で、人間ドラマを軸とした作品では最高傑作といわれていますが、それも納得できる素晴らしさだと思います。ブランコの名シーンに関しては言うまでも無いですね。観ているだけで涙が出そうになります。あとこの作品はお役所への批判がテーマであると、たまに言われたりしますが、個人的には違うと思います。責任をなすりつけ合うことや、人の手柄を横取りすることの浅ましさは、社会のどこの場面にも存在する様な普遍性のある事柄ですし、黒澤明は羅生門で同じことをそっくりそのままお役所とは関係無く描いているので。それにしても放蕩小説家の言葉ですが、私も来年から社会に出て働く身として、人生の下男では無く主人でありたいものです。 【民朗】さん [DVD(邦画)] 9点(2012-04-22 09:34:45) |
41.たまらない。さすが何回も鑑賞するには、気が重い。救いが無いようで有るが・・・ 2008.11月 3回目鑑賞。 【ご自由さん】さん [DVD(字幕)] 9点(2012-01-10 22:24:39) |
40.《ネタバレ》 妻投稿■人生において他人を満足させる事、もっと言えば他人とってに意味のある人生を送る事は実は簡単。財産を全部ささげるか無報酬で奴隷のように他人の為に働けば良いのである。が、反対に人生において自分自身を満足させる事は非常に難しい。自分の人生を自分に据え置く行為は、他者や社会に何の利益ももたらさない「無意味な行動」なのである。■主人公はこの無意味な行動に終始した。その姿はその場では狂気に見え、その狂気を持った人間が単なる物体化した後に「客観性」の立場とともに人々に再評価、回想される。が、結局その「無意味な行為」は何かを変えたりする事はない。そもそも「無意味な行為」は「人間に尊敬、評価、肯定」され、「啓蒙」する事が目的ではないのだから、それは当然なのである。■はっきり言おう。主人公には生きる価値などなかった。そもそも「生きる」という事はそういう事なのだ。故に、社会で生きるよりもハードな責任感が実は必要なのだ。 【はち-ご=】さん [ビデオ(邦画)] 9点(2011-02-08 01:18:38) |
39.《ネタバレ》 「人は何のために生きるか」という思い問題を投げかけてくるが、自分はむしろ「人は何で変わるか」という方に興味を持った。 ■本作が「死期を前にして公園づくりのために全力を注ぐ公務員の話」かと思っていたので、踏ん切りのつかない前半にはかなり拍子抜け。なんだかんだ、やってることは元同僚の女をおいかけ回してるだけじゃん。あれはもうちょいコンパクトにまとめてよかったと思う。あと全般的に志村さんの声が全く聞こえないのがつらい。 ■後半、やっと死ぬ気で頑張りだす志村さんが見れるかと思いきやいきなり通夜でびっくり。けどこのやり方はなかなか巧妙だったと思う。回想のなかでしか存在しない志村さん。通夜の最初の方のありえない叩かれよう(いくらなんでも故人の通夜の席ではあんなこと言わないでしょう)からの一転はうまい。決してヒーロー的な活躍を見せるのではなく、終始だんまりでさえない感じでいるあたりが、自分たちと同じ等身大でありながら、本気を見せるとあそこまで成果を上げれるのだということを見せつける。 ■しかし、その思い出を回想し「よし、自分たちも変わろう」と言って何も変われなかった同僚たちが非常に印象的。とあるツイートで「人間が変わる方法は3つしかない。1番目は時間配分を変える。2番目は住む場所を変える。3番目はつきあう人を変える。この3つの要素でしか人間は変わらない。最も無意味なのは『決意を新たにする』こと」ということを見たが、まさにそれを思い出さされた。志村さんは「死期」ということによって環境が激変した。他方、「決意を新たにした」だけの同僚は結局何も変われなかった。 【θ】さん [DVD(邦画)] 9点(2011-01-02 01:21:50) |
38.志村喬、凄すぎます。黒澤ヒューマニズムの集大成。 【Junker】さん [DVD(邦画)] 9点(2009-02-15 01:19:11) |