62.《ネタバレ》 -PEARL HARBOR- “真珠湾”
今回『トラ・トラ・トラ!(以下“トラ!”)』初視聴に併せて、改めて視聴。トラ!との比較が多くなるけどご容赦を。
真珠湾攻撃を真面目に映画化したって、歴史好きしか観ないであろう所を、タイタニックのような恋愛要素と、スターウォーズのような迫力の戦闘描写を入れてエンターテイメントにしたのが本作。興行収入的には大成功だったと思う。
数時間の奇襲作戦に、複雑な三角関係を収めるのは難しいから、過去に遡って恋愛を描くのは解るけど、恋愛と真珠湾が全く絡んでないのは問題だ。真珠湾攻撃中、男女は全く顔を合わせていないから恋愛は停滞。
この三角関係は、取ってつけたようなドーリットル作戦まで解決を見ない。創作だから幾らでも絡められただろうに。
イヴリンがダニーとの新しい愛に生きるのは否定できない。だけど真っ赤なチャイナドレスで男だらけの基地に行き、戦闘機に乗って、基地の倉庫でセックス…は無いわ。これをラブストーリーとして映像化された際、実際に戦争で夫を失い、生きていくために再婚した大勢の女性は、どう思っただろうか?ま、イヴリン独身だけど。
編集のしかたも疑問で、時系列をグチャグチャにしている。真珠湾攻撃から遡って恋愛を描くのは解るけど…具体的には日本パートで真珠湾攻撃前日(12/6)に、山本長官が「敵を混乱させるために敢えて暗号電文を送れ」と言っている。そのあと暗号電文に混乱するワシントン情報部の動きが入るけど、字幕では7月と。=山本長官の命令の5ヶ月前だ。トラ!では執拗に、情報を掴んでいたのに活かせなかった、米政府・軍部の失態が描かれたが、コレではまるで、ズル賢いヤマモトの策略にハメられたように観える。
またトラ!で丁寧に描かれた、日本が開戦直前まで戦争回避に奔走した外交的努力なんて、今回これっぽっちも描かれていない。トラ!では結果的に奇襲になってしまった描写があったが、今回は完全に奇襲を狙ったように描かれている。
あと日本軍人の日本語が吹替えで残念。きっとオリジナルだと、聞くに堪えない言葉で話してるんだろう。出演者全員が流暢な日本語を話していたトラ!より30年以上も経過してるのに、何だろうこの不自然さ。一番日本語が上手なのが、ハワイ在住のお医者さんなんて…
でも写真にきちんと日本語で『戦艦オクラホマ』と書いてあったのは、唯一トラ!より勝った点。
言葉といえば、英単語も読めないレイフが、数ヶ月でイヴリンと手紙をやり取り出来るのが謎。この設定必要だったの?
零戦に果敢に挑むレイフとダニー。史実から日本軍の一方的な勝利の印象だったから、ウソだろ?創作だろ?って思って観てたけど、2人のモトになったパイロットが居たことを、最近になって知った。この2人はトラ!にも出ていて、タイタニックの“ジャック・ドーソンの墓”のように、想像力を膨らませる存在だ。
最新鋭の零戦に対し、非力なP-40を技量でカバーする2人。ってなっているけど、戦闘機は敵機を落とすのが任務だから、人を殺したり建物を壊すのは目的ではない。逃げ惑う非武装の兵員を盾に、基地低空を縫うように飛ぶ主人公機。誇り高い零戦乗りは攻撃がしにくかったろう。と解釈。
でも戦闘シーンの迫力は素晴らしく、ここは素直に評価したい。スターウォーズ特別篇のように、トラ!の追加映像に入れてほしいくらいだ。戦闘シーンだけ垂れ流しで観ると良いかも。
でもここで終わりでなく、この後まさかのドーリットル作戦ブチ込みにはズッコケた。真珠湾攻撃とコレは無関係なのって、当時の私でも解ってた。よっぽど、アメリカの負けで終わりたくなかったんだな…って。でも関係ないでしょ?パールハーバーと。
戦闘機乗りを畑違いの爆撃機に乗せて、看護婦のイヴリンを銃殺刑ものの機密作戦の無線室に入れて、あれだけおしっこ出させてまで機体の重量にこだわってたのに、拳銃と弾薬はたっぷり持って行くし。そして都合良く殺されるダニー。
どうせこんなの入れるなら、“悪のヤマモト長官”が彼らの爆撃でギャーッ!!って吹っ飛ぶシーンくらい、適当に入れればよかったのに。
パールハーバーというタイトルで映画を作るなら、真珠湾攻撃を核に物語を進めないと。起承転結の“結”も真珠湾にしないと。
この大人気ない映画が、誰の何の目的で作られたのか、いまいちピンとこない。国内の反日感情を高めたかったのか。日本が嫌いな大金持ちが自己満足で作らせたのか。そもそも日本なんて相手にしてなかったのか。