2.《ネタバレ》 私は大のクラシックファンだし、特にベートーベンとかモーツァルトなどの古典派が一番好きだ。恥ずかしながら素人作曲までして某サイトに古典調の音楽を投稿までしているほどの「マニア」である。賞をバンバンとって評判もいいこの映画(10点がメチャクチャ多いじゃないか)、大いに大いに大いに期待して観たのだが……。なんともつまらなかったというのが正直なところ。恐らく逆なんだと思う。クラシックをあまり知らない人がこの映画を見れば「なんてモーツァルトってメチャクチャな奴だったんだ」という印象を受けるんだろう。だが私のようなマニアになると「こんなマトモな奴じゃないだろ!」と思えてならないのだ。モーツァルトは私の中ではもっと下品でもっと無茶苦茶でもっと経済力がなくてもっと酒やギャンブルにだらしなくて、そしてもっと天才でもっともっと並外れた超人なのである。なのにこの映画のモーツァルトときたら、単なるどこにでもいるような天才でしかないじゃないか。むしろサリエリの方が(音楽的にではなく人間的に)非凡に見えてしまう。レクイエムを書かせて殺すなんざ、並の人間には思いつかないんじゃないか。それ以上にラストの「赦す」の連呼など、もはや狂気そのものであり、患者たちの酷い姿とあいまって身震いしてしまう凄味がある。これは失敗作だ。モーツァルトを描くためにサリエリなどを持ってくるのが間違いなのだ。サリエリなどはほんの数コマで吹き飛ばされてしまう役で十分なのである。ただ一ヶ所、墓地の場面だけはよかった。モーツァルトは大作曲家であるにもかかわらず適当に数人で埋葬されて現在でも墓の所在がわからないという史実に忠実だし、天才の末路としてぞっとくるものがあった。時間が長すぎるとは思わなかった。むしろ短すぎだ。この倍の時間をつかってもいいから(そうなるとドラマか)モーツァルト自身を描ききってほしかった。これではモーツァルトの孤独も凄味も天才もわからない。