1.《ネタバレ》 ナイフや包丁が肉を割く擦過音、階段を転げ落ちる打突音など、殺人シーンのインパクトを高める音響に力が入っている。
雨降りの中、ヒロインに差し込む白光や、佐津川を赤い影で縁取る照明など、異質な光の扱いや
ワンポイントの赤の用い方も作品に独特のルックを与えている。
ロッジの上階や物影からなど、何者かの窃視を仄めかすようなアングルのショットも幾度か挟まれ不安感を醸し出す。
それらは結果的には実際の窃視者のものと必ずしも整合しないのだが、その歪な構図は後半への伏線のみならず、
作品にホラーテイストの加味ともなっている。
辻褄合わせの脚本化は結構苦労したのだろうけれど、松坂桃李が自発的にヒロイン探しに動かず、
木村多江にほぼ丸投げしているかのような脚色は物語としては大きな違和感だ。
そこを上手く誤魔化すなんらかの工夫が欲しかったところ。
『俺は殺人鬼の息子なのか!』などという説明絶叫も、
「震える手でノートを掴む主人公」とでも書かれているだろう紋切り型のシナリオをそのまま絵解きする演技指導も
ちょっといただけない。
鏡割りのシーンやラストの病室の白カーテンのシーンなど、難しいワンショット風の撮影で頑張っているが、
夫婦の再会の図まで見せる必要性があったか疑問だ。
総じて、小手先のテクニックはあってもハートに欠けるという印象だ。