13.《ネタバレ》 とても真面目に作られた、硬派な一品だと思います。
ただ、こういった品は「堅苦しくて退屈」という印象に繋がってしまう危険性も孕んでいる訳で……
残念ながら、本作はそれに該当してしまった気がしますね。
メディアを使って犯人を挑発、対話というテーマは非常にエンタメ性が高く、コメディタッチな作風と相性が良さそうなのに、あえてシリアスに徹したのが本作の特徴であり、魅力にもなっているのでしょうが、自分には合わなかったみたいです。
楽しめなかった理由としては、主人公に感情移入出来なかった点も挙げられそう。
彼は同僚との手柄の奪い合いの為に捜査に最善を尽くさず、結果的に幼い子供の死を招いてしまう。
そこの件で、観ているこちらとしては決定的に幻滅してしまい、最後まで挽回する事が出来なかったんですよね。
序盤で妻と息子の死が連想される展開だったのに「結局二人とも生きていました」というオチが付くのは、恐らく「誘拐によって子供が死んだのに、自分の息子は生きている」という主人公の罪悪感を描く為、そして終盤に息子が誘拐されてしまう展開に繋げる為なのでしょうが、その辺りがどうもスムーズに感じられない作りなのも残念。
これに関しては、いくら終盤に盛り上げる為の伏線とはいえ、序盤で(えっ、結局生きていたの?)と拍子抜けしてしまうデメリットの方が大きかったように思えました。
犯人の捕まるキッカケが「偶然手紙を落としてしまった」「服の色に関する勘違い」というのも、ちょっとネタとしては弱いかなと。
ラストに主人公が目を見開いて終わる演出に関しても
1:真犯人が別に存在する事に気付いた。まだ事件は終わっていない。
2:結局、罪滅ぼしする事は叶わなかった為、未だに昔の誘拐事件のトラウマに囚われている。
3:全てが終わった事に安堵したがゆえの死。
といった具合に、色々解釈の余地があるのですが、どれだったとしてもバッドエンド色が強く、好みとは言い難いですね。
翻って、良かった点はと言えば……やはり、主演の豊川悦司の魅力に尽きるのではないでしょうか。
その話し振り、立ち居振る舞いには流石の存在感があったし、カリスマ的な犯人役なんかも似合いそうな、ミステリアスな魅力を備え持っている。
それだけに、そんな彼があえて刑事役を演じるというのが、絶妙な配役であったように思えます。
過去の罪を清算する為とはいえ、自分を刺した誘拐犯を庇って逃がそうとする辺りなんかは(警官として、それはマズいんじゃない?)と感じ、賛同するのは難しかったのですが、彼が演じる事により、その選択にもそれなりの説得力が生まれていた気がするんですよね。
本作のクライマックスである「震えて眠れ」のシーンの迫力と恰好良さも、豊川悦司だからこそ醸し出せたんじゃないかな、と感じました。