17.《ネタバレ》 この映画を始めて観たとき「田嶋陽子に柴田理恵に…このスーパー毎回おんなじ客ばっか来るんだな」なんて思ったりしたけれど、この歳になって、まさか私も彼女らのように、週5でスーパー覗くようになってたなんて…。
ほぼ、棚が空っぽになることのないスーパー。『もうすぐ閉店だけど、あの大量に並んだ鮮魚、これからどうするんだろう?』そんな、とっても身近で、毎日の生活に欠かせない近所のスーパーの裏側を、ズバッと観せてくれます。
業界の不正、偽装、改ざんが新聞を賑わし、食の安全が注目されるようになるのは、本作の5年ほど後。実際に報道された食肉偽装の数々のテクニックに、感心するやら呆れるやら…報道やネットで、この映画よりも酷い現実を見せられました。
五郎と花子が変な踊りを踊りだすのは、今までの伊丹映画にない漫画チックな味付けでした。最初は楽しげで良かったんですが、複数回観せられるとクドく感じます。お揃いのピンクの自転車でチラシを配って回ったり、二人きりでサンタと小鳥の着ぐるみ着て遊んでるのとか、他の社員がドン引きしそうです。伊丹映画にしてはお色気要素の殆ど無い本作ですが、中年2人のベッドシーンは結構生々しい感じでした。恋愛コメディとしては微妙。
いつもの伊丹節&宮本信子の痛快キャラは健在で、花子がプライドだけの職人たちの鼻っ柱を叩き折っていく様は、なかなか痛快です。魚の血の混じった水を飲むシーンは迫力があってコッチまで「おえ…」ってなります。
新鮮な野菜で満たされた青果コーナーを誇りに思うキヨちゃん。自分の作ったタラコのおにぎりを美味いと言われて涙する社長。当時バブルは崩壊していましたが、庶民はまだお金を持っていた時代。急激な物価高と長引く低賃金のいまは、消費者も品質に妥協をしなきゃいけない時代。店側に騙されるのは嫌だけど、自分を騙して安物食材をカゴに入れざるを得ない現実が悲しい。
食がテーマの伊丹映画というと、たんぽぽが思い浮かびます。あちらは主に外食産業のお話で、一人の男が自分の外食経験からラーメン屋の女将を助けるお話でした。スーパーと言えば食材を買いに行くところ。本作は一人の主婦が、生活の中で培った知恵で、ダメなスーパーのダメな専務を助けるお話。
外食から自炊に。ラーメンの下手な女将は駄目スーパーの専務に。助っ人が男から女に。結構似通った点が多いけど、本作では伊丹映画らしく業界の裏側、闇の部分にスポットを当てているのと、今までの伊丹映画以上にコメディ色が強めに出ていました。
前2作がイマイチヒットせず、かといって今までの『〇〇の女』だとマンネリ扱いされる。この時期、伊丹監督も結構苦しかったと思います。今までの伊丹映画らしくないカーチェイスなんかにも、苦労の跡が見受けられます。それでも『たんぽぽ2』とか安易にヒット作の続編に逃げなかったのは、やっぱり凄い人だなと思います。