1.《ネタバレ》 保育園が主導した戦時疎開の話である。保育園というのは時間限定で預かるもの、という前提ならこんなことはしないだろうが、東日本大震災でも親元に返す途中の悲劇があったように思うので、施設主体で安全に守れるならそれに越したことはない。死ぬなら一緒に死ねばいいとはならないはずだが、それでも保護者からの批判として、親子を引き離して構わないと思うのは独身者や男だけ、と決めつけられたのは心外だった。結局誰かが死ぬまで人々は動かないということらしいが、子どもの生命は親のためでなく、みんなの未来のためにあると思わなければならない。
物語としては時系列的に出来事を追いながら、淡い恋心とか友情とか戦争関連のエピソードで起伏をつけている。妙なドタバタとか召集令状の後出しなど苛立たしくなる演出もあり、また川原の場面は話を作り過ぎだったが、最後の場面はこの物語にふさわしい終幕に感じられた。題名のオルガンは大して重要でなかった感じだが、時間稼ぎでオルガンを弾いて歌いまくる場面は確かに印象的だった。
ほか15年も戦争したとわざわざ言わせるなどはお決まりの反戦アピールのようでもあるが、それほど言いたい放題でもなく、怒りを感じたというところで止めているので政治色はあまりない(怒りだけなら誰でも感じる)。また自分としては賄い担当の人が、みんなが笑顔でいるのが文化的生活だ、と言っていたのは共感した。誰かを攻撃して貶めるのが目的の文化などには全く価値を感じない。
なお劇中の疎開先はよくある偏狭で陰湿な田舎という設定だったようで、南埼玉郡平野村の印象は悪くなる映画だったというしかない。
登場人物に関しては、現地の主任保母が何かと激昂して怒鳴るのが非常に不快だが、それでいて理解のある上司には甘えがあり、支えてほしいという心情を見せたりするのがかえって反感を増す。また歌好きの新米保母は、おまえはガキか(意訳)と言われたりしていたが、これはこれで得がたい人材だったらしく、そのことを含めていろんな人々がいて保育現場が成り立っていることの表現だったかも知れない。個人的にはラムちゃん言葉の人が、実直そうで温和そうで感じのいい人だと思った。
キャストでは、中堅保母役の三浦透子さんが色気皆無のおばさん風で(何歳の想定なのか)個性派女優ぶりを見せていたが、さすがに本人はこういう体型ではないと思われる。ほかどうでもいいことだが、「けんちゃん」の父母は顔の大きさが違い過ぎだ(母親役の陽月華という人は宝塚の出身)。
[2020/4/18追記] DVDが出たので家の者に見せたが、やはり疎開先の住民が否定的に扱われているため素直に見られないようだった。うちの地元は戦争中に学童疎開の受入側になり、その当時はいろいろトラブルもあったかも知れないが(カッペ呼ばわりで侮蔑されるなど)、それでも現在まだ地域間交流が続いているからには悪いことばかりだったわけはない。常に誰かを悪者にして自らを正当化する態度では共感も連帯も生まれない。
しかし今になって点数を落とすのも大人気ないのでそのままにしておく。