1.《ネタバレ》 原作は未読、DVDパッケージの写真と吉高由里子に惹かれて鑑賞しました。
なかなかよくできた作品だと思いましたが、原作を読んでいる方は点が辛くなるようです。ずいぶん登場人物や謎をカットしてして、ミステリー要素が減ってしまったそうですし。
けれど、この映画の主役は吉高演ずる美沙子であり、松坂桃李演ずる亮介ではないことから、映画の主題がミステリーではなく一人の殺人者である女性の半生を描くことなのがわかります。なので原作とは全くの別モノ、として観た方が作品を楽しめるし、味わえると思います。
しかし、前半は確かにつらかった。
サイコパス美沙子がユリゴコロを求めて幼少期からずっと殺人を繰り返すさまを描くのですが、なんとゆーかグロいし画面はやたら暗いし淡々としていて、このテンポで最後まで観るのはキツイと、途中で休憩を入れたりしました。
また、松坂演ずる亮介に魅力がないんだ…。
婚約者が行方不明になったっつーのにたいして探しに行かず、他人まかせ。警察にも行かず探偵も雇わず、じゃー何しているかとゆうと、実家に謎のノートを読みにせっせと通うという…。何やっとんじゃ、オマエ(呆)。
後半は松山ケンイチ演ずる洋介が登場して、一気に画面に花が咲く感じ。いや違うか…。なんというか魅力的なキャラクターが登場した!という感じで、ストーリーは淡々としつつも濃度を増して、どんどん目が離せない感じになっていく。
役者の力ってすごい。
松山ケンイチは別にイケメンではないが、すごく魅力のある俳優さんだ。彼は常に作中人物になりきり、その人物がもつ独特の雰囲気まで演じ切ってちゃんと画面から放出してくれる。
妖艶さと清純さをあわせもち人を惹きつける演技をする吉高由里子といい、この二人のキャスティングのおかげで、この映画のクオリティが上がっているのは間違いない。
対して、松坂桃李はイケメンの部類に入るんだろうけど、いつも合格最低点スレスレの演技しかできない。
絶望して叫べと言われれば叫ぶ演技をするし、沈痛な表情をしろと言われればできる。殺気立って睨みつけろと言われたら、ちゃーんと白目がちに目をむいて睨みつけるんだけどねぇ。
でも「そういう演技」は出来ても、その人物になりきることはできない。だからどんな役をやってもみんな同じに見える。亮介と藤吉(byわろてんか)の違いがどこにあるのか、さっぱりわからん。
なので私にとって一番のクライマックスは、亮介と美沙子の再会ではなく、美沙子と洋介の別離のシーンだった。
この二人の素晴らしい演技に圧倒され、涙なくしては観られなかった…。
一番の難は、亮介の婚約者の千絵と美沙子が「偶然」仕事仲間で、「偶然」都心のホテルでばったり会った、という部分。
あまりにもご都合主義な設定で、ちょっと待てー!と、涙も乾いてしまいましたよ。
そこは子どもである亮介が心配で、正体を隠したまま側にいて彼の成長を見守っていた、という設定にしなければおかしいでしょ。原作もそうだったらしいのに、なぜわざわざ不自然な設定に変えたのか。
その部分をミステリーとして描くつもりがなかったからなんでしょうけど…。
もしや「殺人者の愛と生を描く」というテーマをゆるぎなくしたかったため、あえてそのミステリー部分を排除したのかも?ですね。
そう、この作品はミステリーでもサスペンスでもなく、殺人鬼である女性の人生と愛を描いた作品なのです。
これからご覧になる方は、ぜひ原作と切り離して観てください。
心を持てない殺人者だった彼女が、ユリゴコロを求めて罪を犯しさまよい、やがて愛情を手に入れ心を持つ人になり、そしてすべてを失くしても、かつて手にした愛をずっと慈しんでいる姿になんとも言えず胸を打たれると思います。