13.《ネタバレ》 従来のアメリカ製映像コンテンツの中に「無いもの」ばかりを集めてみました、という実験的な作品なのではないかと思いました。
罪悪感にさいなまれ続ける男。
家族を殺されても復讐したいと思わない男。
セクシーだけど野心家でも高圧的でも威圧的でもなくて尽くしてしまう都合のいい女。
ブスではないがセクシーでなく不器用でもてない天然女。
どうでしょう、他の作品で見かけない顔ぶれですよね。
これらは通常のアメリカ製コンテンツの中では、
とにかく自己を正当化することに熱心で、罪悪感はカウンセリングで処理する。
家族の仇はとことん憎んで復讐する。
セクシーな女性は威圧的に男性を誘惑し、野心家である。
ブスでないのにセクシーでない女は存在しない。
というふうに必ずなります。
なので、ここまで揃うと「意図的」としか思われません。
そして、個人的には「実験」は成功したとはいえない…と思います。
これは「一部のアメリカ人」には大ウケしたかもしれないが、9割がたのアメリカ人には理解されず、パッとしないまま20年近く経って忘れられていくタイプの作品なのです。
そして、失敗の原因は一つではないがまずジェフ・ブリッジスというあまり個性的とはいえない俳優を主役に据えたこととか、ギリアムの笑いはどちらかというとダークなシチュエーションでこそ生きるタイプのものであるとか、ジャックとパリーのどちらも死なないハッピーエンドにしてしまったこととか、「聖杯」についての話とストーリーの関係があまりにもわかりやすすぎる…。ジャックに金髪の白人を使うなら、ニック・ノルティくらい個性的な俳優でなければダメですし、「12モンキーズ」でのダークな笑いのキレの良さを考えると今回はほのぼの明るすぎますね。
最初から最後まで「籠の小鳥を見守るがごとき神の視線」が感じられ、つまり「人間が何をしていてもカミサマにとっては可愛くて仕方がない」ということを意識させたかったのでしょう。
それはいいのだがギリアムはやはりダークなもののほうが本領を発揮できると思われます。実験的に作品をつくるとやはりこういうことになりますね。
受賞は女優に対してではなく現実には存在しない「都合のいい女」に対する男性陣からのエールだったと思いますよ私は。「やっぱりね」という感じです。