1.《ネタバレ》 正統派の「忠臣蔵」映画としては、これまで観てきた中でも五指に入る出来栄えではないかと思われます。
(ちなみに、正統派ではない変化球で真っ先に思い付くのは1990年のドラマ版です)
とにかく、余計な事をしていないというか、必要なエッセンスだけを抽出した感じがして、観ていて安心させられるものがありましたね。
基本的には1954年版の同名映画のリメイクと言って良い内容なのですが、あちらが当時としては斬新な演出や解釈を色々と盛り込んでいるのに対し、こちらは旧来通りというか、真っ当な娯楽映画に仕上げてみせたという印象です。
岡野金右衛門が大工の娘と恋仲になる件の尺が長いのと、三船敏郎演じる俵星玄蕃の存在感が強過ぎて浮いているように感じる辺りは難点でしたが、きちんと作中のクライマックスを「討ち入り」に定めている為、全体のバランスとしては整っているように思えました。
特に感心させられたのが、吉良上野介の描き方。
冒頭にて「前々から浅野には怨みがあった事」「上司から浅野への復讐を促されていた事」などが語られている為、何故わざわざ意地悪をしたのかと、観客に疑問を抱かせない形になっているのですよね。
そういった情報を前もって提示する事で吉良側の動機を補強しつつ、浅野に対する場面では存分に「嫌味、吝嗇、欲深な爺様」っぷりを披露して(こりゃあ浅野が怒るのも分かるわ……)と思わせてくれるのだから見事。
作り手としては、恐らくそんな意図は無く、吉良の悪役っぷりを際立たせる為の台詞だったと思われますが「臆病と言われれば、それはいっそ儂には自慢になる」と言い放つ姿なんかも、妙に人間臭くて、自分としては好感を抱きました。
加山雄三が内匠頭を演じるというのは驚きでしたが、生真面目で、気が強くて、病的なくらいにプライドが高いという、難儀な人物を見事に演じており(こういう役も出来るんだなぁ)と感心させられましたね。
刃傷を起こした後、乱心したという事にすれば罪も軽くなるのに、それを潔しとしなかった堅物っぷりにも、説得力があったと思います。
内匠頭を描く上でネックとなるのは「自分の行いによって家臣達が路頭に迷うとは思わなかったのか? 本当に名君なのか?」という点なのですが、本作においては「賄賂が横行する現在の政治は間違っている」という正義感が動機の一つとなっている為、一応浅野側の言い分も理解出来ます。
松の廊下の件でも「先に手を出したのは吉良」という形になっており、浅野側が正しいという作中の価値観に対し、反感を抱かずに済むようになっていますね。
討ち入りの場面に関しても、二十分ほど掛けて丁寧に描いており、充分に納得のいく出来栄え。
雪を踏む足音に合わせるように流れる伊福部音楽は、最初こそ「ゴジラかよ!」とツッコませてくれますが、慣れれば「忠臣蔵らしい、重厚な迫力がある」と思えました。
暗い屋敷内に、侵入者側が蝋燭を配置していく流れなんかも面白くて、堂々とした合戦ではなく「夜陰に乗じて寡兵で攻め込んだ奇襲戦」である事を実感させてくれます。
また、吉良を殺害する場面を直接描かない事、事件後の切腹の様子をナレーションだけで済ませた事も、効果的でしたね。
それによってネガティブな印象が薄れ、本作は「主君の仇討ちを果たした赤穂浪士が、誇らしげに町を歩く姿」という、鮮やかな印象のまま完結を迎える形となっており、若干の苦みを含みつつも、後味は爽やか。
自分が忠臣蔵モノで何か一つ薦めるとしたら、上述の1990年のドラマ版なのですが、そういった変化球作品を楽しむ為には、やはり本作のような真っ当な魅力の「忠臣蔵」も味わっておくのが望ましいのでしょうね。
久々に、王道の魅力を堪能させてもらえた一品でした。