1.《ネタバレ》 ピアノの調律師の物語ということで、当然、音がとても重要になるのですが、その点はキチンとしている映画でした。
散りばめられた環境音と、その中から立ち上がってくるピアノの音。その音色こそが主役だということがわかってる、そんな音響デザインが良かったです。
主人公は人並み外れた、天才的な才能の持ち主、みたいなマンガ的な(でも、よくある)設定ではなくて、ごくフツーの人で、学び、間違い、悩み、不器用に道を進んでゆく、っていうのもいいです。
調律師が音に真剣に向き合う、その繊細さ、調律された1音1音が奏者の手によって旋律を奏でてゆく、その美しさ。
音が世界を表現してゆく過程を、人の拘り、努力を通して描く、しっとりと流れて染みる映画でした。
ただ、間を取り過ぎている感じで、リズム感なし、みたいな状態になってしまっているのはちょっと残念ですか(リズムについても言及してる映画なのに)。スローなだけでリズムが無い訳ではない、と言えない事はないのかもしれませんが、スロー過ぎると流れが崩れる部分が出てくるわけで。
そのスローさの中では主人公もトロい、じれったい人間、みたいに映ってしまいますし。とりあえず、物を貰ったら「ありがとうございます」は先に言っておこうよ、みたいな。その言葉が出るまでに時間がかかり過ぎるので、結構失礼なヤツに見えますよ。
不満点が色々無い訳ではないですが、真面目に作られている映画なので、そういう点をちゃんと見るべきかな、と思いました。
ちなみにピアノの音が森を映すのは、主人公があくまで森に生まれ育ったがゆえの独自の心象風景ですよね。都会生まれの私には、ピアノの音は街や人を映すものだったりしますし。