9.武満徹の音楽目当てで見たのだが、思わぬ収穫だった。4編とも、映像も美術も音響も独特の世界観が素晴らしく、役者の演技も見事で、緊張感があり、無駄なところは一切ないと思った。それにしても全体を通すと長過ぎるのが勿体無い。私は一編ずつ4日に分けて観たので、最後までダレることなく集中して鑑賞できたが、もしもぶっ通しで観てたら最後の方はフラフラになってたに違いないし、ここでの評価も「6」くらいに下がってたかもしれない。これから見る方には、私のように分けて観る手もあるよと言っておきたい。あと、作品を語るときに、ほかの作品を持ち出して、あれと比べて上だとか下だとか、そういう論じ方は良くないとは思いつつも、どうしても黒澤の「夢」と比較したくなって困る。 【すらりん】さん [CS・衛星(邦画)] 8点(2018-04-25 03:54:26) |
《改行表示》8.観てる人をビビらせるための「ホラー映画」とは一線を画していて、でもまるっきりコワい要素ゼロと言ってしまっては言い過ぎなので、0.5線くらいを画している、とでも言いますか。画面の中で、隅の方が薄暗いとなんだかヤな感じが出るところですが、この映画では全体的にわりと明るいんですね。見通しがいい。 その代わりと言っちゃなんですが、観てると「え~これもスタジオやんか、どれだけ大規模なセット作りまくってるのよ」と、その大判振る舞いぶりが、ちょっとコワくなってくる。おかげで、にんじんくらぶ、潰れたんでしたっけ。それはともかく。 残酷版うらしまたろうみたいな第一話から、おなじみの雪女(雪女って走るんですね)、耳無し芳一と来て、最後にデザート替わりの小品がオマケについてくる。いずれも夜中にトイレ行けなくなるような怖さじゃないけれど、どこか「崩壊」の感覚に繋がっていて、はかない夢のような虚しさがある。 それを増幅させる、武満徹のテープ音楽。和楽器の音色を大きくは損なわないように提示しながら、ところどころで思わぬ変調をかけて、独特の世界を作り上げていってます、が、これだけ音楽が個性的でありながら映画にもちゃんとマッチしてる、ってのは、特筆モノでしょう。 【鱗歌】さん [CS・衛星(邦画)] 8点(2017-08-21 21:57:31) |
7.どういうわけかこちらでの評では「耳なし芳一の話」の人気が低いが私は断然「芳一」を支持する。「黒髪」は話が単純すぎ。「雪女」は(本作の舞台装置は「型」だと理解したうえであっても)息が白くならないのが致命的でどうにもノれない。「茶碗の中」は珍しいリドルストーリーとして悪くないがあくまでオマケ的な扱い。そこへいくと「耳なし芳一の話」は元々の話の抜群の面白さに加え、海岸ロケ・屏風絵・セットの海・寺・屋敷・文字だらけの芳一の姿と、おいしいビジュアル満載だ。平家の武家屋敷でのシンメトリーを強調したキューブリックを思わせる構図も高い効果をあげている。さらに劇中で案じられる琵琶の演奏は、邦楽に見識がない私のような者にも充分その良さがわかる素晴らしいものだ。 【皮マン】さん [映画館(邦画)] 8点(2016-12-13 15:33:44) (良:1票) |
《改行表示》6.《ネタバレ》 小林正樹の映画と言うとモノクロというイメージが強いんですが、これが彼の初めてのカラー作品なんですね。黒澤明もそうでしたが、長くモノクロで撮ってきた映画作家はカラー作品に移行すると色の使い方には拘るもんですよね。とにかくこの映画は色彩設計と美術にはもう凝りまくってます。シンプルなんだけどとても斬新、邦画の映画美術の頂点に位置すると言っても決して過言ではないでしょう。『雪女』の眼玉が浮かんでいる様な空と鮮やかな夕陽、『耳なし芳一の話』の日本画の大家に実際に描かせた壇ノ浦合戦の絵、当時の邦画としては空前の製作費を美術費に惜しげもなくつぎ込んだというのは本当でしょう。 “怪談”と言っても決して今で言うホラーではなく、純日本的な「物のあわれ」や「諸行無常」を追求したエピソードが選択されているところも小林正樹らしさが出ています。それでもそれなりの出演者を揃えていますから、グッとくるところはキチンと押さえています。『茶碗の中』での中村翫右衛門が最後に狂ってゆく演技はさすが名優と感服いたしました。でもいちばんゾッとしましたのはやはり『耳なし芳一の話』でしょうね、なんせ芳一をお迎えに来る亡者があの丹波哲朗なんですから(笑)。 【S&S】さん [DVD(邦画)] 8点(2014-07-29 22:19:52) |
5.色彩が言葉に表し難い素晴らしさであり、容赦ない厳しさと幻想が混ざり合った光景が、触感にまで迫ってきます。そして、登場するそれぞれが抱く無念の計り知れない深さも胸に押し寄せてきました。スタッフが作り上げた極上の舞台で豪華役者陣が入魂の演技を見せる。相乗効果が傑作を生み出しており、映画という文化の良さを実感させられる作品です。肩透かしを受けた四話目が割愛されていれば満点でした。 |
4.この映画、タイトルこそ「怪談」とホラー映画のようなタイトルですが、中身はホラーてよりも日本文学的な美を追求した完全なる時代劇です。例えるなら溝口健二監督の「雨月物語」のような雰囲気のある美しくもあり、又どことなく怪しげな雰囲気の作品というのが観ての感想です。何年か前に一度だけビデオで観たものの、今は近所のレンタル屋さんどこを探しても置いてなく、頼むからどこでもいいからビデオ屋さんに置いてくれ!出来ることならこの美しい映像をもう一度、DVDで拝見したい。 【青観】さん [ビデオ(字幕)] 8点(2005-11-13 10:14:33) |
3.《ネタバレ》 小林正樹監督が小泉八雲の作品の中から4つのエピソードを映画化したオムニバス時代劇で、小林監督にとっては初のカラー作品となる映画でもある。ジャンルとしてはホラーに分類されるのかもしれないが、それよりも文学的な香りを感じさせる作品で、一般的なホラーとは違った趣があり、これぞ日本映画というような品性が感じられるのがいいし、小林監督が初カラーでこだわったという各話の色の使い方や武満徹の音楽も良い。3時間の長尺だが、これもオムニバス(短編3話と長編1話。)という構成のためか、案外すんなりと見ることができた。(昔見た時は1話ずつ分けて見た記憶があるけど。)ここからは各話について。第1話「黒髪」は、ややナレーション(滝沢修)による状況説明が多いと感じるものの、どことなく「雨月物語」を思わせるような話で、妻(新珠三千代)を捨てた男(三國連太郎)の身勝手さや、捨てられた妻の悲しみがよく描かれているが、やはりドラマとして見ごたえのあるものになっていて、同じ小林監督の「人間の条件」もそうだったが、やっぱり新珠三千代はこういう女の悲しみを演じると上手いなあと感じる。第2話「雪女」はおなじみの話ではあるが、全編をとおして映像的にはこの話の赤い夕焼けがもっとも印象的だった。雪女を演じる岸恵子もハマり役。第3話である「耳無し芳一の話」もよく知られている話であるが、オムニバスの本作の中では1時間超えの長編となっていて、昔見たときにはちょっと長いなと思ったのをよく覚えているが、この話がいちばん引き込まれ、長さも感じなかった。本作ではほとんどのシーンをセットで撮影しているが、冒頭の源平合戦のシーンはセットとは思えないほど力が入っていて迫力があるし、芳一(中村賀津雄)が奏でる琵琶の音色が美しく、芳一が亡霊たちの前で演奏するシーンをはじめ、全体的に芸術性も高く、この話だけでも本作を見る価値はじゅうぶんにあると思う。寺男ふたりが良い味を出しているのも良かった。第4話「茶碗の中」は、冒頭に断りが入るとおり結末が描かれないのがやはり少しもやっとするが、この話を最後に持ってくることで、締まりが良くうまく全体をまとめている。それに終わってみればこの4つの話の分け方もよく考えられたバランスの良い構成になっていて、これも上手かったと思う。(2024年1月3日更新) 【イニシャルK】さん [DVD(邦画)] 8点(2005-08-16 18:09:51) |
2.日本の中世は貴族の豪華絢爛さと同時に芥川の羅生門のような地獄絵図をあわせもっていて、この間の溝からはいつも何かが出てくるような、何かが出てきてもおかしくないようなそんな気にさせる。島国という地形的条件が外部との接触を疎くした分、内部を病魔が巣食ったのか。病魔はやがて異形となって見えるものたちには恐ろしい姿で、時には魂を奪っていった。それらは噂話となって荒廃した京都や貴族がひしめく宮殿に伝わった。当時の彼らにとってはそれが現実にはウソとしか思えないものであっても真剣な問題だったに違いない。全然映画の説明になってないが、この映画の素晴らしさはこういう時代を生きた人々の姿勢というか生き様がとてもよく伝わってくる。彼らの懸命さに痛々しさを覚えた。これがまず一点。次には時代を超越した美術がある。巨大セットで空までもセットの一部になっている。耳なし芳一ではこの点が凝縮されている。陰湿になりがちな日本の怪談をこれだけ幻想的にできたのは異形から美を見出したという美意識のこだわりのおかげだろう。そして音楽。この物語と視覚世界を装飾する音楽・音響には無類の映画好きでもある武満徹が担当している。これがまた絶妙。断続的に音楽が生成されていく。「怪談」をして、映画が総合芸術の結晶であることを認識する。 【Qfwfq】さん [映画館(字幕)] 8点(2004-08-15 01:02:48) (良:3票) |
1.怪談なんだけど怖いと言うより悲しい話だった。肉体は滅びても尚、あまりに強い情念から地上にとどまり続ける魂は崇高でさえある。この映画を見ていると日本と言う国が作品中に出てくる古い時代の延長上にあることをすんなり感じる事ができる。時代劇であってもハリウッド風の今の日本映画とは全然違う。制作年の65年と言えば私が生まれた年で東京オリンピックの翌年なんだけどこの頃の日本人の感性はまだ日本らしかったのかなぁ、我々は何かとっても大事なモノを経済発展と引き替えに失ったんじゃないかなぁなんて思いながら見た。ところで「耳なし芳一」だけど、耳、お経書いてないのメチャ目立ってるじゃん。誰か気付けよ!と思わず突っ込んだが、良く考えれば「こんなでっかい誤植!どーして印刷しちゃうまで誰も気づかないのさ?」って事があるんだなぁ私の仕事でも。うんうん、分かるよなんて変なとこに同情したりして・・。 【黒猫クロマティ】さん 8点(2004-06-16 13:52:26) |