2.《ネタバレ》 舟橋聖一の同名小説の映画化。華族の名門信濃家の雪が、婿で傲慢な直之に苦しめられているが、別れることもできず苦悩する。心の支えである小唄の師匠の菊中も肝心な時に頼りにはならず、悲劇的な結末を迎える。戦後の没落する華族の哀れさと心と体の欲求が分かれる女の性に苦しむ貴婦人の心中が見事に描かれている。また、夫人をいいように利用してきたと思っていた周りの男達も、実は夫人の虜になっていたという側面が最後に露呈し、時代の変化と自らの欲望に翻弄する様も垣間見れる。製作時点の時代背景なのか、夫人の肉欲を観る者の想像に任せている点が若干不満ではあるが、育ちの良さを一つ一つのしぐさで表現している小暮美千代の演技は見事だ。夫人に憧れる小間使いに旧華族出身の久我美子を配するとは偶然ではあろうが妙な皮肉を感じる。最後の芦ノ湖での場面は霧につつまれて見事に美しい。ボーイがお茶を持ってきたらこつ然と消えている夫人。さすがに上手い。