132.《ネタバレ》 (過去のシリーズのネタバレも含みます)10作目の「私を愛したスパイ」がそうであったように、20作目の本作は過去の作品の大量オマージュで構成されている。過去の作品に新しいネタをふんだんに取り込み、シリーズが好きな人はより楽しめるように、知らない人でも十分楽しめるようになっている。
ボンドが溺れそうになっているジンクスを必死で救い出そうとするシーンはかなり良い。前作「ワールドイズノットイナフ」で愛した女性を殺してしまったことの罪滅ぼし的な意味があると思う。
初めて観る人にはイカルスという人工衛星に違和感を感じるかもしれないが、この荒唐無稽さがボンドシリーズの歴史でもある。
「ダイヤモンドは永遠に」という作品では、ダイヤモンドで作った衛星で世界各地を破壊し脅すというストーリーになっており、ダイヤモンドと人工衛星という組み合わせは本作にもっとも近いものだ。「ムーンレイカー」や「私を愛したスパイ」では全人類を滅亡させるストーリーなのだから本作はまだマシな方だ。
オマージュや過去のアイテムは各所に現れている。大量にありすぎて書ききれないので個人的に好きだったオマージュを取り上げると、まずはジンクスの登場シーンだ。1作目「ドクターノウ」のハニーライダー(アーシュラアンドレス)の有名なシーンを意識したものになっている。ちゃんと腰にナイフを携帯しているところもファン泣かせになっている。
本作のラスト付近で人間が飛行機からどんどん放り出されるが、これは3作目「ゴールドフィンガー」を意識したものだろう。
4作目「サンダーボール」で使ったアイテムも登場。空中を飛べる装置がQの部屋(過去の多数のアイテム)においてあるばかりか、口に挟めば数分間息ができるというアイテムを使って、ボンドはグスタフの氷の屋敷に潜入している。
「トゥモローネバーダイ」で明かされたボンドの習慣でもある「枕の下に銃を隠している」というネタも大いに活かされ、逆に利用されるのは面白い。
ラストの飛行機でのフロストとジンクスが意味も無く薄着なのも本シリーズならではの流れ(特に「ダイヤモンド」「黄金銃」「ワールド」)を汲んだものだ。
また、キューバで鳥類学者にボンドが扮したと思うが、これはなかなか深いネタだ。フレミングの家にたまたまあった鳥類図鑑の作者がジェームズボンドであり、この名前をフレミングが拝借したというのは有名な話だ。