9.藤子・F・不二雄の短編漫画に「ある日」という作品がある。
日常の何気ない生活が何の前触れもなく”プツン”と核爆発によって消失してしまう可能性を秘めた「現実」を、シニカルに表現した傑作である。
そして、この特撮映画の傑作を見て、まさにその短編漫画を思い出した。
人が自分自身の努力によって幸せに生きるという権利の崇高さと、それを一方的に消失させるという世界で最も愚かな暴挙。
「戦争」とはその暴挙そのものであり、どうしたって取繕うことなどできない「罪」だ。
映画では、平凡で幸福な人々が健気に生き、緊迫する両陣営の現場ではそれぞれの兵士らが「最終命令」が出ないことを心から望み、日本政府は事態の回避に苦闘する。
すなわち、世界の誰も「世界の滅亡」など望んでいるわけもなく、誰しもが平和に暮らしたいのだ。
愚かなのは、人間一人一人の意識を超えた、人間という「種」そのものの「不安定さ」だと思う。
ラスト、笠智衆の演じる炊事長のセリフにもあるが、人類全体がもっとシンプルに「生きたい」という願望を貫くことができれば、世界はもっと単純に幸福に存続していけるのではないか。
そういうただただ「生きたい」という望みが、フランキー堺の演じる父親の行き場のない嘆願に溢れ、涙が止まらなかった。
様々な面において、日本映画が世界に誇れる名作の一つだと思う。
こういう映画があることを、もっと多くの日本人に知っておいてほしいと切に思う。