14.《ネタバレ》 仕事や旅行で何度か訪れた事のある高知県。大好きな場所。
都市部は駅前や市中心のわずかな地域で、東西に長い地形は北方に10分も車を走らせると緑豊かで長閑な風景となる。
広大な海も魅力的な高知だが、この映画の風景は川が主役。都市部を流れる鏡川、山間部へ上り沈下橋のある風景は仁淀川。
その美しい川々と、高いビルの無い高知の都市部(それだけに空が広く、雲の美しさが際立つ)が現実世界の舞台となる。
この土地に暮らす高校生達の都会願望が描かれていないのは、細田ワールドならでは。方言や訛りが無いのも現代っぽい。
監督の田舎への憧れと望郷の念が強く感じられ、そこは新海監督の作品との対比としても面白い。
一方でネットの中の仮想空間「U」。煌びやかで自由で果てしなく可能性のある理想空間。
ここの描写は「サマーウォーズ」よりもやや現実的に描かれており、いかにも近々に実現しそうな世界観。色彩と光の表現が見事。
Belleの歌唱シーンはそこだけMVとして切り取ってみても、おそらく超絶に高品質。
またこの空間で「サマー…」同様ネット空間を回遊するクジラは土佐の海の象徴であったのか、悠々として圧巻。
ストーリーにおいては、土佐っ娘の鈴が一人で深夜バスに乗って遠方に出かける決意をしても、
しのぶくんをはじめ、親友達、おば様達の誰もがそれを止めも、ついて行こうともしない不思議とか、
その先東京の多摩川近くの住宅街に迷いもせずにあっけなく鈴がたどり着いてしまうシチュエーションとか、
DVされていたこどもとタイミング良く外で出くわす偶然とか、
そのこどもを庇う鈴にDV親父が上げた拳を下せなくなってしまった理由とか、
そもそも素敵なおば様たちと鈴とのなれそめとか、深堀すれば劇的であろう多くの場面の解釈を
細田監督が鑑賞者に丸投げし過ぎている点には大いに違和感を持つ。
しかし、鈴を取り巻く高校生達の可愛らしい関係性、地方都市へのリスペクト、
そして何よりも作品の持つ高揚感、映像の奥深さと美しさが、そんな違和感すら凌駕して、
鑑賞後の爽快感と充実感に繋げる。
コロナ禍で旅行もままならない現状、細田監督はネットではなく映画でひと夏の素敵な経験をプレゼントしてくれた。