6.《ネタバレ》 このところ『ジャンゴ』『フライト』『世界にひとつのプレイブック』『バチェロレッテ』と立て続けに「激しく極端な性格付けをする事で人間性を際立たせる映画」を見てきたところに、その正反対に位置するかのようなこの映画を見られてホッとひと息つけたような感じです。
世之介は彼なりの個性を持ってはいるけれども、人と違う特別な能力がある訳でも、何かが極端に秀でている訳でもなく、それでも彼と触れた人達がなんとなく幸せな気持ちになって。それは映画を見ているこちらまで巻き込んで。
冒頭からしばらく、世之介という人物を疑って見つめ、彼のちょっとイタい感じになんだか恥ずかしさを覚えたりします。だけど、彼の暮らす日々に寄り添ってゆくうちに「あ、こいつなんかいいヤツじゃん」って。人が世之介によって得られた幸せ、世之介が感じた幸せ、それをこちらも共有するような感覚に包まれて。
そして、だからこそ、それが過ぎ去った、戻らない日々であるという痛みが切なくて。
過去のシーンはちょっとノスタルジックに退色させ過ぎな感じもあります。80年代の半ば以降と言ったら、私の中にあるイメージはピカピカキラキラしたした世界、ほら、クルマだってカクカクした直線からオシャレな流線型へと変化した時代でしたし(映画には古臭いクルマばかり登場していましたが、実際はあの時代のクルマが最もオシャレだったと思います)。
でも、そうやって過去色に染めてあるからこそ、過ぎ去りし日々と16年後のシーンとの間に流れた時の長さ、重さを感じる事もできるのであろうとは思います。
俳優の個性をきっちりと捉えた160分、その長さが全く苦痛になる事なく、もっとずっと世之介とその周囲の人々に寄り添っていたいと思う、映画が終わってしまうのが残念な気持ちになってしまう稀有なひとときを過ごせました。