205.《ネタバレ》 お役所仕事のいい加減さには思わずイライラ。
主人公自身もそうした人間の一人だったが、死に直面して生まれてきた意味を見つめ直す。
男手一つで育てた息子の無理解な言動に、何のために自分を犠牲にしてミイラのような干からびた人生を送ってきたのかという空しさに駆られる。
人は誰しも生きた証しを感じたい。
家族の愛情が確かであればそこに生きがいを見出したかもしれないが、それが期待できないならば仕事しかない。
溌剌と生きている元部下の若い女との会話をヒントに生き方を変えた場面では、ハッピーバースディの歌の演出。
生まれ変わったように役所で働く姿は感動的で、こういう公務員が増えてくれればと願うばかり。
通夜の席での幹部役人の腐れっぷりが実状に近いだろうけど。
渡辺に感化されて熱く語っていた人たちも役所に戻ればすっかり元通り。
役所のセクショナリズムや形式主義、手柄の横取り、無責任さへの痛烈な批判がにじみ出ているが、役所だけに限らず社会全体への警鐘に取れる。
黒澤映画はエンターテイメント性を前面に押し出したものよりも、こうして人間をじっくり描いたもののほうがいい。
誰もが自らを振り返って考えさせられるテーマがあった。
その普遍性が時代を超えて多くの人の共感を得るのだろう。
生きることを始めて今まで気づかなかった夕焼けの美しさに感動して足を止める主人公。
他部署の酷い扱いに「こんなに踏みつけにされて腹が立たないんですか?」と部下に問われ、「人を憎んでなんかいられない。わしにはそんな時間はない」と答えていたのが印象的。
気になったのは、セリフが聞き取りにくい、ナレーションで語りすぎ、主人公に生き直すきっかけを与えた若い女がその後出てこないなど。
なので、完璧な映画だとは言い切れないが、欠けた部分を補うだけのものがあった。
この時代に日本でもこれだけの作品ができたことを加味しての満点。