35.《ネタバレ》 小林正樹監督が小泉八雲の作品の中から4つのエピソードを映画化したオムニバス時代劇で、小林監督にとっては初のカラー作品となる映画でもある。ジャンルとしてはホラーに分類されるのかもしれないが、それよりも文学的な香りを感じさせる作品で、一般的なホラーとは違った趣があり、これぞ日本映画というような品性が感じられるのがいいし、小林監督が初カラーでこだわったという各話の色の使い方や武満徹の音楽も良い。3時間の長尺だが、これもオムニバス(短編3話と長編1話。)という構成のためか、案外すんなりと見ることができた。(昔見た時は1話ずつ分けて見た記憶があるけど。)ここからは各話について。第1話「黒髪」は、ややナレーション(滝沢修)による状況説明が多いと感じるものの、どことなく「雨月物語」を思わせるような話で、妻(新珠三千代)を捨てた男(三國連太郎)の身勝手さや、捨てられた妻の悲しみがよく描かれているが、やはりドラマとして見ごたえのあるものになっていて、同じ小林監督の「人間の条件」もそうだったが、やっぱり新珠三千代はこういう女の悲しみを演じると上手いなあと感じる。第2話「雪女」はおなじみの話ではあるが、全編をとおして映像的にはこの話の赤い夕焼けがもっとも印象的だった。雪女を演じる岸恵子もハマり役。第3話である「耳無し芳一の話」もよく知られている話であるが、オムニバスの本作の中では1時間超えの長編となっていて、昔見たときにはちょっと長いなと思ったのをよく覚えているが、この話がいちばん引き込まれ、長さも感じなかった。本作ではほとんどのシーンをセットで撮影しているが、冒頭の源平合戦のシーンはセットとは思えないほど力が入っていて迫力があるし、芳一(中村賀津雄)が奏でる琵琶の音色が美しく、芳一が亡霊たちの前で演奏するシーンをはじめ、全体的に芸術性も高く、この話だけでも本作を見る価値はじゅうぶんにあると思う。寺男ふたりが良い味を出しているのも良かった。第4話「茶碗の中」は、冒頭に断りが入るとおり結末が描かれないのがやはり少しもやっとするが、この話を最後に持ってくることで、締まりが良くうまく全体をまとめている。それに終わってみればこの4つの話の分け方もよく考えられたバランスの良い構成になっていて、これも上手かったと思う。(2024年1月3日更新) 【イニシャルK】さん [DVD(邦画)] 8点(2024-02-09 23:49:32) |
34.ほぼ全編をセットで撮ったというのが驚き。吹雪のシーンも、海上の合戦も、お寺も、武家屋敷もすべてがセット。まるで舞台を見ているようだ。もっとテンポ良くして、時間を短くしてくれたら現代人が見る映画になった気がするけど、全体的に間が長くて仰々しくて伝統芸能の仲間に見える。 【センブリーヌ】さん [インターネット(邦画)] 6点(2021-05-19 23:16:14) |
33.《ネタバレ》 今の映画の感覚で観ると物足りないかもしれない。 この映画の見どころは 独特の世界観。 昔の大物俳優たちの脂の乗り切った頃の演技が見れる。 たまにはこういう映画もいいなと思える作品だった。 ただどうしても気になるのはこの時代の映画って顔色が悪い時に白粉みたいなのを塗っている。 どうしても違和感を感じてしまう。 【Dry-man】さん [インターネット(邦画)] 7点(2021-05-16 18:28:46) |
32.《ネタバレ》 映画のジャンル分けで一般的に使用される『ホラー』とは異なる『怪異の物語』。不可思議ではあっても、不合理でも不条理でもなく、人間の業を味わうドラマとして楽しむことが出来ます。『物語=読み聞かせ相手に想像させるもの』とすれば、本作を象徴する特徴的な書割も観客のイマジネーションを掻き立てる意味で有効だったと思います。3時間は流石に長尺でしたが、オムニバスで目先が変わるため、体感はそれほどではありません。豪華キャストはお得感満載。たまにはゆったりと日本の詫び錆びを堪能するのも一興かと思います。 【目隠シスト】さん [インターネット(邦画)] 7点(2020-11-30 18:57:34) (良:1票) |
31.《ネタバレ》 個人的に一番印象に残ったのは『黒髪』。元がシンプルな話ではあるが、特に夫と妻のシーンに関しては様々な面の「無駄」を徹底的に排除し(セットや衣装等の美術面、音の使い方、演技面でも所作・表情・台詞に至るまで)、エッセンスを抽出して洗練し尽くしたその仕上がりには、まるで「能」を観ているかの様な感覚を覚えた(その意味では、ラストの大騒ぎは少し私の感覚とはズレていたが)。 もう一点言及しておきたいのは『耳無芳一』の平家琵琶である。正直、浄瑠璃的な芸能に関して、その趣向を感じ取るということが今まで経験出来ていなかったのだが、本作で初めてその素晴らしさの一端を体感することが出来た様に思う(もちろん、優れた映像演出のアシストがあってのことだとは思っているものの)。 総じて本作には、日本ならではの、日本映画でしか実現できない「文化の粋」とも言える純粋なクオリティがつくり込まれていると感じる。その意味で、真に傑作と言える作品だと思っている。 【Yuki2Invy】さん [DVD(邦画)] 9点(2020-07-23 23:56:33) (良:1票) |
30.1~3話、どの話も怖くありません。むしろ、切なさ、やるせなさを感じました。ホリゾントの強い色彩も印象に残ります。 【次郎丸三郎】さん [DVD(邦画)] 7点(2018-11-25 22:24:32) |
29.《ネタバレ》 小泉八雲原作、4話のオムニバス。 「黒髪」捨てた妻のありがたみが身に染みてわかって、元に戻ってごめんなさいでハッピーエンドかと思いきや、あまりにも遅すぎた。 「雪女」嫁にした女の正体が、以前に会った雪女。口外してはならないと口止めされてたのに、ついしゃべってしまったことから発覚。 「耳無芳一の話」誰もが知っている有名な話。 「茶碗の中」茶碗に見知らぬ男が映る不思議な話。 どれも現代ホラー的な怖さはまったくないのだけれど、趣のある古譚としての面白さがある。 【飛鳥】さん [CS・衛星(邦画)] 5点(2018-08-25 21:42:48) |
28.面白さは感じないが妙に印象深い作品で、黒髪の寝起きドッキリ、雪女の悲しさと温かさ、芳一の顔に書いた文字が印象に残っています。 全編音楽が素晴らしいのは書かずにはいられないほどで、和楽器の音色をこれほど上手に使えている作品はそうそうないでしょう。 型にはまらない途轍もないインパクトを感じる作品です。 【さわき】さん [CS・衛星(邦画)] 5点(2018-08-16 18:35:10) |
27.武満徹の音楽目当てで見たのだが、思わぬ収穫だった。4編とも、映像も美術も音響も独特の世界観が素晴らしく、役者の演技も見事で、緊張感があり、無駄なところは一切ないと思った。それにしても全体を通すと長過ぎるのが勿体無い。私は一編ずつ4日に分けて観たので、最後までダレることなく集中して鑑賞できたが、もしもぶっ通しで観てたら最後の方はフラフラになってたに違いないし、ここでの評価も「6」くらいに下がってたかもしれない。これから見る方には、私のように分けて観る手もあるよと言っておきたい。あと、作品を語るときに、ほかの作品を持ち出して、あれと比べて上だとか下だとか、そういう論じ方は良くないとは思いつつも、どうしても黒澤の「夢」と比較したくなって困る。 【すらりん】さん [CS・衛星(邦画)] 8点(2018-05-04 09:45:58) |
26.《ネタバレ》 黒髪然り、三国連太郎然り、雪女然り、仲代達矢然り、どちらにしても長きに渡るお話なのに、老けメイクがなされていないように感じた。言うちゃなんだが、これでは時の流れを全く感じられない これでは小道具・美術面等の努力が空しく感じる どうしたもんだか なにも浦島太郎や花咲爺さんばりに歳を取らせろなんてことは言うてないんだが。なんで見た目変化させずにあのままで通しちゃったんだ あの二人について。そこが残念でなりません。 【3737】さん [CS・衛星(邦画)] 5点(2018-04-10 21:10:40) |
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25.豪華な顔ぶれのスタッフ、キャスト陣が醸し出す日本昔話みたいな怖くない怪談。お金をかけているだけあってスローテンポな映像からは妙なリアル感が伝わってくる。人間の本質に古今東西の違いはないと思っているけど、グローバルな原作者の割にはこの4つの物語は殆ど響かない。 【ProPace】さん [CS・衛星(邦画)] 6点(2017-08-26 09:03:56) |
24.《ネタバレ》 もうこれは、1作目の武家屋敷のセットだけで唖然呆然完全KOです。メインで使う部分はごく一部であるにも関わらず、全体をきっちり作りきっている構造。「朽廃しかかっている状態」「本来の状態」「完全に朽廃した状態」の完璧な作り分け。そりゃ、こんな中で芝居をしていいんだったら、役者の演技にも気合が入りまくる、というかむしろ何かが憑依するというものです。2作目は、仲代達矢の木訥な好青年という役柄に違和感がありまくり。ただこれはどちらかといえば、筋の切なさを味わう作品ですね。3作目は確かに長いんですけど、平家衆の亡霊の奥行きを駆使した贅沢な配置を1つとっても顕著なように、この作品にこそ制作側は一番力を込めたのがよく分かります。4作目は単調さを避けるなかなか見事なオチで、ノリはほんのりつのだじろう系かも。 【Olias】さん [CS・衛星(邦画)] 7点(2017-08-22 01:37:40) |
23.観てる人をビビらせるための「ホラー映画」とは一線を画していて、でもまるっきりコワい要素ゼロと言ってしまっては言い過ぎなので、0.5線くらいを画している、とでも言いますか。画面の中で、隅の方が薄暗いとなんだかヤな感じが出るところですが、この映画では全体的にわりと明るいんですね。見通しがいい。 その代わりと言っちゃなんですが、観てると「え~これもスタジオやんか、どれだけ大規模なセット作りまくってるのよ」と、その大判振る舞いぶりが、ちょっとコワくなってくる。おかげで、にんじんくらぶ、潰れたんでしたっけ。それはともかく。 残酷版うらしまたろうみたいな第一話から、おなじみの雪女(雪女って走るんですね)、耳無し芳一と来て、最後にデザート替わりの小品がオマケについてくる。いずれも夜中にトイレ行けなくなるような怖さじゃないけれど、どこか「崩壊」の感覚に繋がっていて、はかない夢のような虚しさがある。 それを増幅させる、武満徹のテープ音楽。和楽器の音色を大きくは損なわないように提示しながら、ところどころで思わぬ変調をかけて、独特の世界を作り上げていってます、が、これだけ音楽が個性的でありながら映画にもちゃんとマッチしてる、ってのは、特筆モノでしょう。 【鱗歌】さん [CS・衛星(邦画)] 8点(2017-08-21 21:57:31) |
22.どういうわけかこちらでの評では「耳なし芳一の話」の人気が低いが私は断然「芳一」を支持する。「黒髪」は話が単純すぎ。「雪女」は(本作の舞台装置は「型」だと理解したうえであっても)息が白くならないのが致命的でどうにもノれない。「茶碗の中」は珍しいリドルストーリーとして悪くないがあくまでオマケ的な扱い。そこへいくと「耳なし芳一の話」は元々の話の抜群の面白さに加え、海岸ロケ・屏風絵・セットの海・寺・屋敷・文字だらけの芳一の姿と、おいしいビジュアル満載だ。平家の武家屋敷でのシンメトリーを強調したキューブリックを思わせる構図も高い効果をあげている。さらに劇中で案じられる琵琶の演奏は、邦楽に見識がない私のような者にも充分その良さがわかる素晴らしいものだ。 【皮マン】さん [映画館(邦画)] 8点(2016-12-14 12:38:32) (良:1票) |
21.《ネタバレ》 前半と後半でテーマがわかれている。前半は異界との性的な接触、後半は映像技術の見せびらかし。前半の「黒髪」「雪女」の素晴らしさは、欲に溺れた人間の因果応報を描いているだけではなく、異界の表現がきわめて的確で観客の心の奥底を揺さぶるからだ。「黒髪」は武満徹の音楽が、「雪女」は冒頭の空模様が世界観を見事に表現している。確かに芸術映画だ。客が入らないのも当然だよ。「耳なし芳一の話」は本当につまらない。酷すぎる。くどい。田中邦衛は面白い。「茶碗の中」は稲川淳二の怪談話にありそうな感じで、お気に入り。それぞれに点数をつけるとしたら、「黒髪」10点、「雪女」7点、「耳なし芳一の話」1点、「茶碗の中」7点。「耳なし芳一の話」以外の完成度の高さと「黒髪」の音楽、演出、美術の素晴らしさを評価します。 【カニばさみ】さん [DVD(字幕)] 9点(2016-12-12 23:53:02) |
20.《ネタバレ》 黒髪、茶碗の中、で男が最後に醜くなっていく様について、何を暗示しているのか不思議で面白かった。 耳無し芳一の話は、少し冗長だったかな。全てにカラーになった当時の工夫が感じられる。 【cogito】さん [DVD(邦画)] 7点(2015-12-27 19:23:14) |
19.《ネタバレ》 小林正樹の映画と言うとモノクロというイメージが強いんですが、これが彼の初めてのカラー作品なんですね。黒澤明もそうでしたが、長くモノクロで撮ってきた映画作家はカラー作品に移行すると色の使い方には拘るもんですよね。とにかくこの映画は色彩設計と美術にはもう凝りまくってます。シンプルなんだけどとても斬新、邦画の映画美術の頂点に位置すると言っても決して過言ではないでしょう。『雪女』の眼玉が浮かんでいる様な空と鮮やかな夕陽、『耳なし芳一の話』の日本画の大家に実際に描かせた壇ノ浦合戦の絵、当時の邦画としては空前の製作費を美術費に惜しげもなくつぎ込んだというのは本当でしょう。 “怪談”と言っても決して今で言うホラーではなく、純日本的な「物のあわれ」や「諸行無常」を追求したエピソードが選択されているところも小林正樹らしさが出ています。それでもそれなりの出演者を揃えていますから、グッとくるところはキチンと押さえています。『茶碗の中』での中村翫右衛門が最後に狂ってゆく演技はさすが名優と感服いたしました。でもいちばんゾッとしましたのはやはり『耳なし芳一の話』でしょうね、なんせ芳一をお迎えに来る亡者があの丹波哲朗なんですから(笑)。 【S&S】さん [DVD(邦画)] 8点(2014-07-29 22:19:52) |
18.精巧な美術、豪華かつ芸術的なセット、不気味な音楽、センスあるカメラワークなど、あらゆる点で素晴らしく、日本的な美しさに溢れている。原作の3~4ページほどの話をここまで深いものに昇華させた脚本も見事。 【eureka】さん [DVD(邦画)] 9点(2011-11-03 14:30:50) |
17.「黒髪」7点、「雪女」7点、「耳無芳一の話」2点、「茶碗の中」4点、合計20点、4で割って5点。「耳無芳一の話」は長すぎる、こんなにダラダラやられては参る。「茶碗の中」は短く終わるのでそこだけ評価。「黒髪」はこの四話の中では唯一主人公が恨まれる理由を持っていて、話自体はこれが一番良かったかな。「雪女」は芸術性(背景等)の素晴らしさが一番目立つ。映画より舞台に近い印象かな、オチはシュールだったが。 【リーム555】さん [DVD(邦画)] 5点(2010-10-26 23:59:23) |
16.小林正樹監督の作品としてはもちろんのこと、日本映画全体としても最も芸術的で美しい映画であるように思われる。武満徹の幽玄な音楽、日本絵画のように色鮮やかな映像、美しい衣装、そして静謐ながらも芯のある役者陣の演技、それらすべてがホントに素晴らしく、思わずため息が出てしまう。とても小泉八雲の怪談が原作とは思えないほどに芸術性のあるこの作品は、まさしく日本の宝である。 【陽踊り小僧】さん [ビデオ(邦画)] 10点(2010-08-13 11:29:11) |