5.「晩菊」とは、年頃をすぎた女性を意味している。通常は脇役を務める杉村春子が主演を演じた、成瀬巳喜男作品の中でも異端の位置を占める作品。それが功を奏し、いぶし銀的魅力を存分に発揮しており、成瀬監督の代表作『浮雲』と表裏対を成す出来栄えとなっている。成瀬監督による隠れた名作である。
さて、成瀬巳喜男監督作品はそれなりに観てきたが、本作は今まで観た成瀬作品の中でもベストであった。
元芸者達の行く末、まさしく“晩菊”を飾り気無く辛辣に、そしてユーモアに描いており見事。
杉村春子をはじめ、普段は脇役を演じることの多い女優達が主たる役を演じている。
その為、とても地味な仕上がりなのだが、その地味さを逆手にとっており、そこが本作の傑作たる所以となっている。
成瀬監督の傑出した風景描写は、本作でも健在であり、その点も観るに値する。
それにしても、細川ちか子という女優さんは美しいなぁ。
なんというか、“枯れた美しさ”が飛びぬけて良いのだ。
そしてラストシーン。
望月優子が道行く若い女性の歩き方を真似て、腰をくねくねさせて歩くシーン。
これには、思わず笑みがこぼれてしまった。
本作には、こういった思わず笑みをこぼさずには居られないシーンが随所に散りばめられている。
シビアなテーマとは裏腹に、ユーモアあふれるこれらのシーンが、コントラストをはっきり浮かび上がらせ、深みのある面白さを発揮している。
それが何とも言えず見事だった。