1.《ネタバレ》 昭和32年だと、まだ日本橋をはじめ戦前の昭和を描くドラマのロケが簡単にできたんだ。『男はつらいよ』以前の帝釈天の映像も見られる。宇和島の村の様子なども今では貴重な映像資料なんじゃないか。映画の原点て記録なんだ、とあらためて思う。・特別出演の原節子は、ほんとにラスト近くにちょっと歌舞伎座に姿を現わすだけなんだけど、ずっと主人公の憧れの人として、我々が抱いている原節子のイメージが全編に渡って生かされている。『地獄の黙示録』のM・ブランドが、ラストに出るだけで全体に存在感を示していたのと同じ。特別出演とはこうでなくてはいけない。・加東大介が歌舞伎で泣くシーン、彼がかつて歌舞伎界から追われた俳優であることを思うと、初主演作のこの映画で、しかも成金となった役どころでこういう場面があることに、ある種の感慨が湧いた。そういった雑多な感想の湧く、上京の汽車で始まり帰京の汽車で終わる映画。全四部作の一作目。