1.いかにもこの時代を代表するような作品で、メッセージ先行、あまりリアリティのない人たちがすれ違うメロドラマ。なんて言ったらいいか、主人公たちがひどく抽象的な苦悩を苦悩しているという感じ。苦悩っつうのはもっと具体的な手応えのあるものなんじゃないか。誕生日でのブルジョワの会話だって「だからプロレタリアって嫌い」って言うだけじゃミもフタもない。もっと工夫した会話を練れなかったのは、つまり観念的な操作だけで物語が出来ちゃってるからなんだろう(というか、参考になる本物のブルジョワが映画人の周辺にはいなかったってことか?)。高峰さんが波砕ける岩場で男の名を、竜崎君がダムで女の名をそれぞれ呼ぶシーンは、やっぱ見てて照れちゃう。でもサナトリウムのシーンでは、隣に座ってた年配の方が泣いていた。あの戦争の時代を通過した人には、その世代だけが理解できる胸を絞るようなツボがあるのであって、軽々に笑ってはいけない、と思いました。高峰さんは女学生からバーのマダムまで演じて、当時おいくつだったのか。ギリギリ20代には引っかかってるか。