1.《ネタバレ》 意外にも旧帝国陸軍は広報・プロパガンダに関しては海軍よりもはるかに熱心だったそうです。戦艦大和・武蔵やゼロ戦の存在は国民には秘密にされていたこともあり、実は戦時中に一般国民にもっとも知名度が高かった戦闘機は陸軍の一式戦闘機「隼」だったそうです。この映画はその一式戦闘機の部隊を指揮した軍神加藤建夫中佐の戦歴を描いた戦意高揚映画ですが、単なるプロパガンダ映画と斬って捨てるには惜しい詩情を持っているのは確かです。 この映画のどこが凄いかと言うと、陸軍省後援なんだから当然ですが本物の軍用機を惜しげもなく飛ばして撮影しているところです。そりゃ隼の飛行はたっぷり拝めますが、その他にも97式戦闘機や97式爆撃機、そして鹵獲したP-40やバッファローと言った敵側の戦闘機まで実機を使っているのには驚かされます。中でも眼を瞠るのはラングーン空襲のシークエンスで、隼に護衛された97式爆撃機に敵機が襲いかかるシーンは『空軍大戦略』でハインケルにスピットファイアが突っ込んでくる空撮シーンとそっくりなんです。私は『空軍大戦略』のスタッフもきっと本作を観ていて影響を受けたんじゃないかと推測しています。 藤田進の加藤中佐は彼の最大の当たり役だったことは間違いなく、九州訛りが抜けない独特のセリフ回しがいかにも部下思いで傑出した統率力の持ち主だった加藤建夫らしくて良いんです(もっとも加藤建夫は北海道出身なのであんな訛りはなかったでしょうけど)。 ラストはもちろん史実通り戦死して終わるわけですが、なんとそこは字幕一枚で説明してお終いと言う呆気なさ。その代わり最後の出撃にいたるまで、前夜の部下たちとの世間話や離陸直前まで還りの遅い部下を心配している様子などを10分以上見せるちょっと独特な撮り方をしています。でもそこには不思議な余韻があって、私としては気に入りました。