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ザ・チャンバラさんの口コミ一覧[この方をお気に入り登録する

プロフィール
コメント数 1274
性別 男性
年齢 43歳
自己紹介 嫁・子供・犬と都内に住んでいます。職業は公認会計士です。
ちょっと前までは仕事がヒマで、趣味に多くの時間を使えていたのですが、最近は景気が回復しているのか驚くほど仕事が増えており、映画を見られなくなってきています。
程々に稼いで程々に遊べる生活を愛する私にとっては過酷な日々となっていますが、そんな中でも細々とレビューを続けていきたいと思います。

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21.  ジョナ・ヘックス
ジョナ・ヘックスが復讐の鬼と化す過程は数分のイントロで処理し、いきなり本筋に入るという構成となっていますが、こんな処理が許されるのは歴史も知名度もある『インクレディブル・ハルク』クラスのヒーローであって、ジョナ・ヘックス程度の知名度でこの処理は少々厳しいと感じました。また、ヒーロー・ジョナ・ヘックスの誕生に深く関与したクェンティン・ターンブルをヴィラン(悪役)とした本筋の内容から考えても、両者の因縁の源流となる導入部分はしっかりと描く必要があったと思います。。。 本筋は本筋で、これまた著しく盛り上がりに欠ける仕上がりとなっています。ヒーロー誕生の過程を削った以上、映画はいきなりサビから突入し、理屈抜きの大暴れが見られるものと期待したのですが、チマチマとした小競り合いばかりで派手な見せ場はありません。さらにはジョナ・ヘックスが異常なまでに弱く、派手な大暴れどころか地味な戦闘ですぐピンチに陥ってしまいます。生身の人間との1対1の殴り合いで劣勢に立たされるに至っては、トーマス・ジェーン版『パニッシャー』をも下回って史上最弱のアメコミヒーローに認定してしまった程です。死者と話せる能力が大して役に立っていなかったり、お供の馬・犬・烏が見せ場になると行方をくらましてほとんど存在価値がなかったりと、本作は基本設定までを持て余している始末。俳優たちはなかなかのハマリ具合でシリーズ化すればそれなりに盛り上がった可能性もあっただけに、内容のみすぼらしさが悔やまれます。
[ブルーレイ(字幕)] 4点(2012-10-27 21:31:50)
22.  JUNO/ジュノ
本作の脚本でオスカーを受賞したディアブロ・コーディは、大学卒業後に普通に就職したものの興味本位でストリッパーに転職し、その後、ブログにおける圧倒的な文章力が評価されて脚本家に転身したという変わり種。そんな彼女によって生み出された本作が普通の青春映画であるわけがなく、16歳の女の子が妊娠しても誰からも怒られないし、クラスメイトからイジメや嫌がらせを受けるわけでもなく、赤ちゃんへの責任で思い悩むこともありません。妊娠して早々に、「今の自分に養育能力はないから、子供を欲しがっているお金持ちにこの子を引き取ってもらおう」という結論を出してしまうのですから。この手の映画で考えられるネタはほとんど外してきているのですが、それでいて奇をてらった嫌らしさはなく、コーディの個性がそのまま反映されたかのような奔放さに溢れています。。。 押しつけがましいドラマを嫌うジェイソン・ライトマンによる演出も、本作にはピタリとはまっています。変わった切り口ではあるものの、世の真理を突くかのような鋭さがあるために映画への共感は絶えないし、過剰ではない笑いにも独特のセンスが光ります。この映画が全米でブームとなり、フォックス・サーチライト史上最高の収益を上げた理由も理解できます。この映画には独特のセンスの良さやかわいらしさ、かっこよさがあって、この映画の良さを理解できること自体がファッションとなりうるのです。これについては、ジェイソン・ライトマンの手腕によるものと考えるべきでしょう。。。 エレン・ペイジは完璧にジュノになりきっています。皮肉屋で変わり者なんだけど、たまに女子の一面を覗かせるという絶妙な演技は、彼女以外ではちょっと無理だったのではないかと思います。なお、ジェイソン・ライトマンの映画はセリフの量が多く、かつ微妙なニュアンスの会話が交わされるので吹き替えでの鑑賞が向くのですが、特に本作におけるジュノの声のハマり具合は絶妙なので、DVDでご覧になる方はぜひとも吹き替えをお試しください。
[地上波(吹替)] 7点(2012-10-13 02:49:09)
23.  ジョン・カーター
3D版ブルーレイにて鑑賞。2億5千万ドルというタダ事ではない製作費がかけられているだけのことはあって、映像の迫力は圧巻でした。家庭での鑑賞ながら3D効果も十分に味わうことができ、イベント映画としての体裁はきっちりと整っています。ただし、ファンタジー映画としての出来はかなり悲惨なものです。世界観に魅力がないので火星文明に対する興味を掻き立てられず、”ヘリウム”だの”ゾダンガ”だのという用語の飛び交うセリフがバカバカしく聞こえてしまいます。そもそもの問題として、登場するマシーンやクリーチャーのデザインがあまりにアニメ寄りでカッコ悪すぎます。この手の映画で”カッコ悪い”は致命傷ですよ。おまけに、火星におけるジョン・カーターの戦力描写も一定のものとなっていません。数百人の敵を一人で相手にしたり、巨大な岩を振り回したりというとんでもない力技を披露したかと思えば、数人の火星人によって簡単に拘束されたりもする。主人公の力量が不明確では、観客は戦いに手に汗握ることはできません。 本作の映画化企画はなんと1931年から存在しており、それ以来、映画化を試みては挫折するという展開を何度も繰り返してきたハリウッド念願の作品。それがこの程度の出来では寂しすぎます。前述した巨額の製作費に加えて、宣伝広告費や上映用フィルムのプリント代を考慮すると、本作の赤字は2億ドルにものぼるとか。当初は三部作を予定されていたようですが、続編が作られることはまずなさそうです。
[ブルーレイ(吹替)] 3点(2012-09-03 01:25:47)(良:1票)
24.  地獄の逃避行 《ネタバレ》 
突如挿入される自然の描写や詩的なモノローグといったテレンス・マリックの手法がすべてぶち込まれており、デビュー作の時点でスタイルを確立してしまっている点には恐れ入りました。『天国の日々』以降20年も監督業から遠ざかっていたのも、「これ以上監督業を続けても同じことの繰り返しだろう」と考えた結果なのだろうと思います。。。 『俺たちに明日はない』の二番煎じのようなあらすじですが、その実態は当時流行していたアメリカン・ニューシネマへのアンチテーゼ。負の感情をぶちまけまくっていたアメリカン・ニューシネマに対して、本作はいかなる感情をも排して光景のみを切り取るという作業に専念しています。1958年に発生したスタークウェザー=フューゲート事件をモチーフとし、無軌道な若者による連続殺人というショッキングな題材を扱いながらも、主人公を義賊とも悪人とも扱っていない点がなかなかユニークです。この主人公には何の目的意識もなく、行く先々でただ人を殺しているのみ。しばらくは決死の逃避行を繰り広げていたものの、飽きがくると自ら車のタイヤをパンクさせて警察に投降。逮捕後にも悪びれもせず、それどころか全米を騒がせた有名人として無邪気にはしゃぐという有様。なかなか斬新なアプローチではあるのですが、このレベルの無茶な犯罪に手を染める人間の心理って、案外こんなものではないかと思います。当初は殺人を犯す意図はないものの、目の前で発生した問題を解決するもっとも簡単な手段として殺人を選び続けた結果、死体の山が築かれるという。こうした本作の切り口にはなかなか惹かれるものがありました。。。 また、『シン・レッド・ライン』以降のような冗長さがない点でも、本作を良いと感じました。なんせ上映時間は94分ですからね。無意味に長い環境映像や、周りクドくて訳の分からんポエムは一切なし。物語をサクサクと進めていく簡潔な演出には感心しました。やれば出来るじゃないか、テレンスさん。
[DVD(字幕)] 7点(2012-09-02 03:47:35)(良:2票)
25.  シャーロック・ホームズ/シャドウ ゲーム
前作に比べてアクションの比重が増し、よりジョエル・シルヴァー色の強くなった第2作。とにかく爆破アクションの連続なのですが、ひとつひとつの見せ場が緻密に作りこまれていて単なるバカアクションに終わっていない点がシルヴァーらしいと言えます。ハイライトである兵器工場での戦闘では、素晴らしい見せ場の連続に大興奮させられました。俳優のチョイスもシルヴァーらしく、前作のヒロインを早々に退場させ、代わってスウェーデン版『ドラゴン・タトゥーの女』のノオミ・ラパスをヒロインに据えるというチャレンジングなキャスティングがなされています。ブラッド・ピットやダニエル・デイ・ルイスの登板が噂されていたモリアーティ教授も蓋を開ければシェイクスピア俳優ジャレッド・ハリス(名優リチャード・ハリスの息子)に落ち着いたわけですが、この辺りにも「スターは一人か二人いれば十分。あとは実力ある中堅・ベテランで固めるべし」というシルヴァーイズムが現れています。こうしたキャスティング面でのこだわりも本作においては吉と出ており、作品としては一定のクォリティに達していると思います。。。 ただし問題もあります。前作と同じく観客が推理に参加する形となっておらず、ホームズの長台詞を一方的に聞かされるのみというストーリーの展開方法にはややストレスを感じました。ホームズはもはや19世紀のジェームズ・ボンドと化しており、シャーロック・ホームズである必要性がほぼなくなっている点も問題。映画としては面白いのですが、シャーロック・ホームズというコンテンツの扱い方には再考の必要があると思います。 
[ブルーレイ(吹替)] 7点(2012-07-16 02:35:01)
26.  シビル・アクション
普通の法廷ものを期待すると裏切られる作品です。本作における取捨選択の基準は独特で、哀れな公害被害者や法廷闘争の扱いはあくまで控えめ、物質主義者だった主人公が人情で動く弁護士に生まれ変わるまでの過程が映画の中心となります。最大のクライマックスであるはずの評決がラストでテロップ処理された時にはさすがに驚きましたが、これは脚本・監督を務めたスティーブン・ザイリアンの潔さの表れでもあります。すべてを描けば3時間超えの散漫な映画になるかもしれなかった物語を断腸の思いで整理し、描く対象を絞り込むことで上映時間を2時間に収めてみせたのですから。。。 まずはっきりさせるべきは、これは法廷闘争をメインにすべき物語ではなかったという点です。というのも部が良いのは圧倒的に原告側であり(そもそも主人公が案件を引き受けたのは勝つのがわかりきった訴訟だったからだし、実際、被告企業はかなり早い段階で和解を申し込んできている)、これでは勝つか負けるかのスリルが生じえないからです。この物語がドラマチックなのは、金で幕引きをしようとする被告企業からの申し出を拝金主義者だった主人公が断り、借金を重ねてでも巨悪を暴こうとした点にあります。この映画はその点を思いっきりクローズアップしますが、この判断は正解でした。主人公は財産も友人も失い、被害者たちからは「こんな安い賠償金で納得できるか」と罵られてたった一人になるのですが、それでもなお戦い続けて公害企業を廃業にまで追い込みます。この執念をきっちりと描くことに成功しているからです。また、爽快な部分はあえて削ぎ落とし信念に固執することの苦しみを中心に据えることで、「エリン・ブロコビッチ」や「レインメーカー」のような爽快感重視の作品とは一味も二味も違う独自の立ち位置を確立できています。
[DVD(吹替)] 7点(2012-07-04 01:50:08)
27.  G.I.ジョー(2009)
原作が男の子向けの玩具であり、アメコミよりもさらに下の年齢層を対象とした作品であるため、本作の設定の粗さには文句を付けません。敵組織の目的がサッパリわからなかったり、国際社会におけるG.I.ジョーという組織の位置付けが謎だったりしますが(各国領空に自由に侵入する権限を持っている一方で、地元警察に拘留されたりする)、男の子向けのアクション大作でそういう細かいことを言うのは野暮ってやつです。しかし、本作の構成のマズさは指摘されるべきでしょう。とにかくペース配分がメチャクチャで、映画は2時間もたずに失速します。G.I.ジョー登場にはじまり(スネークアイズかっこよすぎ!)、メタルスーツによる見たこともないチェイスが繰り広げられる前半は大いに楽しめるのですが、物語にまったく起伏がない状態で緊張感皆無の撃ち合いをダラダラ続けているだけでは、後半に入ると一気に飽きが来ます。前半ほどインパクトのある見せ場を配置できなかったことも致命的で、本作はペース配分が完全に狂っています。。。 「ハムナプトラ」以降のスティーブン・ソマーズ作品はすべてこの傾向にあって、冒頭からフルスロットルで見せ場を畳みかけるものの、途中で息切れしてクライマックスでは平凡なドンパチをやってしまい、尻すぼみになって終わるということをここ10年間繰り返しています。この監督が「インディ・ジョーンズ」に憧れているということはわかります(「ザ・グリード」は当初、ハリソン・フォードが主演する予定だった)。冒頭で観客の心を掴み、冒険の世界に引きずり込むというアクション映画が心底好きなのでしょう。ただし、冒頭でハデな掴みをやれば、観客はそれ以上の見せ場を本編に期待します。スピルバーグにはその期待に応える力量があったのですが、残念なことにこの監督にはその力量がありません。だからこの人の映画はつまらない。予算制約によって冒頭に掴みのアクションを入れられなかった「ザ・グリード」がフィルモグラフィ中もっともバランスの良い娯楽作に仕上がっていることが何とも皮肉です。 
[DVD(吹替)] 4点(2011-11-02 23:44:35)
28.  ジャッジ・ドレッド(1995)
本サイトにおける平均点がスタローン作品中最下位にしてアメコミ作品中でも最下位という、駄作の中の駄作との評価をいただいている本作ですが、私は好きです。世間で言われるほど悪くはないと思います。コミックで描かれる未来都市をまんま実写で見せた映像センスは評価に値するし(ありがちなブレードランナー風ではなく、あえてコミック風にダサめのデザインにしているところがミソ)、CGが十分に発達していない90年代半ばだからこその、実物大セットとミニチュアとCGとを組み合わせた職人技的なVFXを楽しむことができます。ホバーバイクによるチェイスシーンなどはテーマパークのアトラクションのような楽しさがあって、すべてがCGではないからこその絶妙な粗さが独特の味となっています。砂漠に住むミュータント一家の特殊メイクも素晴らしい仕上がりで、本作のスタッフは相当頑張っています。「プレイデッド」という低予算映画でデビューしたばかりのダニー・キャノンによる演出も悪くはなく、ドレッドの実力やジャッジ達の武装、メガシティワンの治安状況を冒頭のアクションでコンパクトに見せるなど、話のまとめ方を心得ていることには好感を持ちました。本作についてケチをつけるなら、脚本を練りすぎたことでしょうか。スタローン主演のアメコミ映画と来ればヒーローがバッタバッタと敵を倒す単純明快なアクション大作を期待するものですが、陰謀や裏切りを物語の核としてしまったためにバカバカしくも派手に盛り上がるという展開を作れていません。本作は映画化の話が持ち上がってから10年以上も試行錯誤された企画だけに、その過程で物語がややこしくなりすぎたようです。なお、現在はカール・アーバンを主演に迎えての再映画化企画が進んでいるようですが、こちらの脚本を担当するのは「28日後…」のアレックス・ガーランド。またしても複雑な物語になりそうです。
[レーザーディスク(字幕)] 7点(2011-01-29 21:52:53)
29.  白い刻印 《ネタバレ》 
精神崩壊寸前の人物を描かせると、ポール・シュレイダーは相変わらず良い仕事をします。ニック・ノルティ演じる主人公の姿がとにかく痛々しいこと。彼はみんなと、特に娘とは仲良くやりたい、尊敬される存在になりたいと願っています。しかし幼少期に父親から酷い虐待を受けたために人格が正しく形成されず、ちょっとズレた人、身近にいると面倒くさい人になってしまいました。冒頭に描かれる娘とのハロウィンでのエピソード、彼は久しぶりに会った娘を楽しませようと張り切っていたのに、無意識のうちにルーズな部分が出てしまって娘の機嫌を損ねてしまいます(「タクシードライバー」のデート場面とよく似ています)。この時の主人公は憐れなほどにいたたまれないし、一方で「変なことに付き合わされるのは迷惑」という娘の気持ちも理解できます。このふたりの間に漂う気まずい空気、これこそがポール・シュレイダーの真骨頂、他の監督ではなかなか出せない味です。そんな主人公はある事故の真相究明に乗り出すのですが、熱くなると我を忘れるという本来からの気質の上に、親権裁判、母親の死、自分を苦しめてきた父親との同居等々のストレスから正常な判断能力を失い、妄想に取り憑かれてしまいます。「みんな俺をバカだと思っているようだが、この事件さえ解決すれば俺は一躍街のヒーローとなり、すべての問題は片付く」。大統領候補暗殺にのめり込んだトラビスの如く、彼は妄想上の事件に向けて走り出してしまうのです。その出発点が「娘から尊敬されたい」という純粋な思いであり、父親からの虐待という不可抗力から人付き合いを苦手としてしまったという根本原因を踏まえると、本作の主人公が狂気に墜ちていく様はあまりに悲惨なものでした。本作は「タクシードライバー」をより普遍的にした物語であり、もっと評価されても良い作品だと思います。
[ビデオ(吹替)] 8点(2011-01-23 21:11:07)
30.  シンプル・プラン 《ネタバレ》 
地味だし見せ場もないものの最初から最後まで緊張感が持続しており、最高クラスのサスペンス映画だと思います。タイトルと同じく映画の内容もシンプルそのもので謎解きや派手なドンデン返しなどなく、描かれるのはジリジリとした駆け引きのみなのですが、この装飾の無さが正解でした。ライミは本作で新境地を開いたと言われていますが、閉鎖空間で登場人物が狂気に追いやられていくという点では「死霊のはらわた」と同様であり、異なるのは舞台の規模とストーリーテリングの切り口のみ。ライミは自身の手腕で扱いきれる企画を的確に選んでいたようです。もしこれが「ユージュアル・サスペクツ」のようなミステリーに比重を置く企画や、「セブン」のような高いビジュアルセンスを要求される企画であれば、ライミは完全な駄作を作っていたことでしょう。また、役者も素晴らしい仕事をしています。オスカーにノミネートされたビリー・ボブはもちろんの熱演なのですが、そんなビリー・ボブと比べると損な役回りである主人公ハンクを演じたビル・パクストンもかなり良いです。なんせ、この映画はハンクにかかっていたのですから。大金を目の前にして普通の人の判断力が狂ってしまい、小さなほころびを修正しようとしてとった行動が次の大きな穴を作ってしまう。そんな物語では、観客はハンクの行動や感覚に納得する必要がありました。決して同情はできないが、同じ立場にいれば自分も同じ行動をとるかもしれないという感覚を抱かせる必要があったのですが、そんな役柄にあっては、「凡人」を演じさせればハリウッド一のビル・パクストンが適任でした。この人が焦り、悩む姿は、まさに大事件をひとりで抱え込まねばならなくなった小市民のそれであり、演技の説得力が違います(誉めてんだか、けなしてんだか…)。。。以上のようにほぼ完璧な映画なのですが、唯一ケチをつけるなら、ニセFBIが現れるクライマックスが作品のテーマから外れていたこと。これだけは気になりました。簡単なはずの計画が人間の欲望や疑心暗鬼によって狂っていくという物語なのですから、ここで真犯人が現れてはいけないでしょう。焦ったハンクは彼を射殺するものの後に本物のFBIであることが判明し、いよいよ誤魔化せないレベルにまで犯罪が行き着いてしまうというオチの方が主題にかなっていたと思います。
[地上波(字幕)] 8点(2011-01-23 16:48:05)(良:2票)
31.  シザーハンズ
小学生の頃にクラスの女子がやたらと「良い映画だ」と騒いでいたので試しに観てみたのですが、事前に聞いていた評判とは正反対のドロドロとした居心地の悪い印象を持ち、まったく好きになれなかった映画です。大人になった現在になって観返すと、その時に持った違和感の正体が分かりました。これは感動作でも美しい愛の物語でもない、グログロのドロドロの性根で作られた世間に対するうっぷんの塊のような映画なのです。ディズニー映画のようなファンタジーの殻を被ってはいるものの、その中身は「タクシードライバー」をはじめとしたポール・シュレイダー作品と大して変わりません。社会に適合できない若者がいったんは楽しくやっていけるかもという希望を持つが、その希望はあっさりと裏切られて孤独な生活に戻っていくという、何の救いもない暗い暗い物語。世間の冷たさとヒロインの薄情さが主人公を苦しめます。特にウィノナ・ライダーV3には怒りを覚えました。見た目は綺麗だし、エドワードの前では理解者として振舞ってくれる。しかし不幸な誤解から非難を受けることとなったエドワードの弁護はしてくれません。話すことに不慣れなエドワードは自分の口から事情を説明することが出来ない。だからこそ彼を泥棒に引き込んでしまったウィノナ・ライダーV3がみんなに事情を説明してあげねばならないのに、彼女はエドワードの盾にはなってやりません。事情が明らかになると自分や彼氏の悪事がバレてしまうから。二人きりになった時にだけ「エドワードごめんね」と言って良い人になろうとする様には虫唾が走りました。無意識のうちに人を傷つけながら自分では良い人だと思っている彼女もまた、エドワードを攻撃する街の人々とは変わらないのです。それを理解したからこそ、エドワードは彼女の思いを拒絶したのでしょう。。。しかし不思議なのは、本作がクリスマス映画の名作に数えられていること。これは「クリスマスを楽しんでる奴らなんか大嫌いだ!」という、もっともクリスマスに観てはならない映画なんですけどね。この映画の美しい外面だけを観てティム・バートンの真意を理解してあげない人もまた、エドワードを持てはやした末に追放した街の人々と同じなのでしょう。「スウィーニー・トッド」に対する批判がまさにそれでした。「怖い!気持ち悪い!こんなの観に来たんじゃない!」って、ティム・バートンは昔からこうでしたよ。
[DVD(字幕)] 7点(2011-01-19 22:20:02)(良:3票)
32.  シンドラーのリスト 《ネタバレ》 
マンハントシーンにおける容赦のない暴力、収容所所長アーモン・ゲートによる無秩序な殺戮。そんな極限状態における人の死の描写は異様にリアルで、頭に銃弾を撃ち込まれた瞬間、魂が抜けたように体が崩れ落ち、死体からはどす黒い血がドバドバ流れ出すというかつて見たことないほどの衝撃的な描写となっています。これら一連の描写はいかなるホラー映画でも勝てないほどで、不謹慎な言い方ですが、完成され尽くした恐怖映像の連続には目を見張りました。また、そんな恐怖演出の中に赤いコートの少女のような情緒的なアイコンをも忍ばせるのですから、スピルバーグの監督としての技術とカンはズバ抜けています。赤いコートの少女の扱いは残酷大将スピルバーグらしいもので、普通の監督であればユダヤ人の未来の象徴としてあの少女を描き、恐らくは少女を生かしておいて、クライマックスに再登場させるという演出をするはずです。しかしスピルバーグは少女を殺してしまい、観客が忘れたタイミングでその遺体を再登場させるという、実にショッキングな演出を加えます。ショックのツボをここまで心得ているものかと感心したし、人類史上稀にみる悪事を描くにあたっては、このくらいの力量を持つスピルバーグこそが適任だったと思います。。。ただし、問題もあります。スピルバーグはシンドラーという人物を理解できなかったのか、それとも彼を描写する自信がなかったのか、主人公であるはずのシンドラーの描写がかなり雑です。安価な労働力としてユダヤ人を利用することを考え、コネと賄賂で成功を掴む事業家としての前半と、私財を投げ打ってでもユダヤ人を救おうとする後半がまるで別人。特に、ヒューマニズムに目覚める後半になるとキャラクターとしての魅力がすっかりなくなり、空気のような存在となってしまいます。この不自然さこそが、本作が「偽善的」と揶揄される原因となっています。さらに本作が不自然なのは、迫害の対象となるユダヤ人が主要キャラクターに一人もいないということ。基本的にドイツ人キャラによって物語は展開し、ユダヤ人として唯一重要なポジションを担うイザック・シュターンにしても収容所所長から目をかけられており、迫害の渦中にいる者とは言えません。この辺りの構成のアンバランスさも、本作の評価を難しくしています。前半最高、後半まぁまぁ、ラストの演説が最悪というのが私の印象です。
[DVD(吹替)] 7点(2010-10-28 20:05:06)
33.  60セカンズ 《ネタバレ》 
2時間は退屈しないので最悪な映画ではないものの、ストーリー展開及び作品の方向性について「なぜそうなるの?」という疑問点が多すぎて、決して良い映画とは言えません。。。タイトルの「60セカンズ」とは、たった60秒で車を盗んでしまうという盗みのプロフェッショナルのことを指しています。そんなタイトルである以上は、主人公が華麗な技を駆使して車を盗み出すことが作品のハイライトになると思うでしょ?普通。しかし驚いたことに、この映画では60秒で車を盗むという技が一度も登場しません。このことが象徴するように、本作は「車を盗み出す」という物語の芯の扱いが非常に軽く、そのために作品全体がまとまりに欠く結果となっています。盗みの場面における緊張感のなさは異常で、泥棒達が大声で喋るわ、車をボコボコぶつけるわとやりたい放題。警察に見つかるかもということは誰も気にしていないようです。「メルセデスのキー」など物語の前半部分で張っておいた伏線が主人公達を苦しめることもなく、驚くほどスムーズに、かといってプロらしい技を披露することもなく高級車50台を盗んでしまいます。窃盗団のメンバー達の描写も軽く、ヴィニー・ジョーンズやチー・マクブライドは訳ありげに登場したものの、彼らはどんな技を持っていて、作戦の中でどんな役割を果たすのかの説明は一切なく、ヒロインであるアンジェリーナ・ジョリーすら活躍の場を与えられていません。その一方で、ライバル窃盗団との抗争とかドラッグの隠蔽とか犬のフンとか本筋とはまったく関係のない描写が異様に多くて、贅肉ばかりで骨のない映画となっています。そして最悪なのがラストで、嫌な予感はしていたものの、本当にその通りにしてしまったプロデューサーのセンスには恐れ入りました。主人公は、物語の発端を作った悪党のボスを殺してしまうのですが、こいつを殺してしまったのでは車を50台も盗んできた意味がなくなってしまいます。最初からこいつを殺していればよかったわけですから。さらに、主人公達の犯罪がすべて見逃されるという都合の良すぎるオチには唖然。作品中にケイジと刑事が心を通わせたり、お互いを認め合う描写があったのならこんな展開にも必然性が生まれるのですが、そういった描写が一切ない中で、今までケイジを必死で追いかけていた刑事が、突如心変わりして彼を許すという展開は不自然にも程があります。
[DVD(字幕)] 5点(2010-09-22 21:10:30)
34.  シャーロック・ホームズ(2009)
シャーロック・ホームズについては原作を読んだことも、映像化作品を見たこともないため、少々厳しい鑑賞でした。「多分原作に絡めたネタなんだろうなぁ」という点はいくつか見つけたものの、原作を読んでないのでその面白さは分からず。また、ホームズとアイリーンの関係についての言及もなく、ルパンと峰不二子のような二人のやりとりも楽しめませんでした。こんな感じで原作を知らない人間は置いてけぼりにされるし、かといって推理小説のファンが喜ぶタイプの作風でもない。一体どんな客層を対象にした映画なのか、その製作意図がよくわかりません。古典の新解釈であれば、定石通りエピソードゼロから始めた方がよかったように思います。内容についても中途半端で、アクションメインの作品にしては見せ場が少ないし、かといって探偵ものとしては知的な部分が少々お粗末。観客もいっしょになって推理する形になっておらず、分かったような分からないような主張をする宗教組織の陰謀をホームズが少しずつ解明する様を外野から眺めるだけでは、探偵ものの醍醐味は味わえません。ホームズが推理力や洞察力を披露する場面は多くあるものの、本筋に関わる部分やいざという危機一髪の場面でその能力を発揮していないこともマイナスで(小手先のトリックは見破っても陰謀には気付かないし、常人と同じように敵の罠にかかってしまう)、ここぞというタイミングで彼の非凡さが活かされる場面があれば作品は引き締まったと思います。本作には5人もの脚本家がクレジットされていますが、それぞれの脚本家が得意とするパートを別々に担当しているうちに(ハリウッドではよくある脚本の作り方)、映画としての統一感が欠けたことが原因でしょうか。。。と弱点の多い作品なのですが、ホームズのキャラクターの作り込みは良く、主演にロバート・ダウニーJrを得られたことも幸運で、さらに19世紀ロンドンという異色の世界を舞台にしたアクション大作としての雰囲気作りも出来ているので、シリーズ化にあたっての基礎はかなりしっかりしています。続編はかなり面白いものが出来るはずです。
[ブルーレイ(吹替)] 5点(2010-08-15 20:26:37)(良:2票)
35.  16ブロック 《ネタバレ》 
劇中では明言されていないし、レビュワーのみなさんも指摘されていないのであえて言いますけど、エディって知的障害のある役ですよね。つまりモーズリーは、タイムリミットまでにある地点へ到着しなければならないことと、フォレス・ガンプを連れて敵から逃げねばならないことの二つのプレッシャーと戦わねばならないわけです。主人公にタイムリミットを課すアクション映画は多くありますが、その相棒が知的障害者という設定が本作の新機軸。もしこれをマーティン・ローレンスやエディ・マーフィーのような面白黒人の一種だと勘違いすると、単なる鬱陶しい相棒になってしまうわけです。。。本作のようなタイトな作品においては、職人監督リチャード・ドナーの手腕が冴え渡っています。アクションには緊張感が溢れ、ドラマも手慣れたものです。妙に感動させたり、登場人物達に立派なことを言わせたりなどせず、基本はあくまでアクション、ドラマはその合間に差し込む程度。演出は変に欲をかかず、しっかりとしたサジ加減で仕上がっている点が好印象でした。。。リチャード・ドナーのフィルモグラフィーを振り返ると、本作の出現は必然だったように思えます。70年代後半から90年代前半にかけてはハリウッドトップクラスのヒットメーカーだったものの、90年代半ばに彼の転機が訪れます。「暗殺者」「陰謀のセオリー」という気鋭の脚本家によるエッジの立った作品を、立て続けに台無しにしてしまったのです。それ以来、彼はハリウッドの第一線から離れました。自分の感覚が時代に合わなくなったことを察したのでしょう。そして、本当に久しぶりの監督作がこの「16ブロック」でした。ド派手な爆破や銃撃戦のない引き締まった70年代風アクションに、80年代に絶頂を極めたコミカルなバディムービーの要素を追加。21世紀の作品としてはかなり古臭い内容なのですが、これこそドナーの手腕を最大限に発揮できる企画でした。企画の趣旨通り、ドナーはこれに21世紀風のムダな装飾や小理屈を挟まず、贅肉のないシャープな仕上がりとしました。結末にしても、モーズリーを殺して締めるのが妥当な落とし所ですが、安易に彼を殺さず温かみのある結末とした意図的な時代錯誤ぶりも心地よかったです。人生最後の作品と決めて本作を監督したのではないか?そう思わせるほどドナーらしい作品でした。
[ブルーレイ(吹替)] 7点(2010-06-27 22:16:55)(良:2票)
36.  シャフト(2000)
サミュエルがかっこよすぎます。これまたかっこいい音楽に続いてのシャフト登場の時点で「このリメイクは成功したな」と思いました。しかし、肝心の話があまりにつまらなくて倒れそうになりました。。。オリジナルと同じ空気を出すために大作化を意図的に避けていることはわかるのですが、サミュエルの敵がアホぼんと街のチンピラでは、戦う前に勝負がついてるようなもの。クリスチャン・ベール演じるアホぼんも、ジェフリー・ライト演じるチンピラも単独では良いキャラだし、俳優もよく頑張っているのですが、シャフトの敵とするとどちらも役不足。シャフトは大した苦労もせず敵を追い詰め、あっさりと勝ってしまいます。このお手軽さ・無敵さは、もはやセガール映画の域に達しています。アクション映画なら、もうちょっと激しい攻防があるべきでしょう。せっかくシャフトが良かったのに、本作の失敗で続編が製作されなかったことは残念です。
[DVD(吹替)] 4点(2010-05-30 17:19:24)
37.  ジャスティス(2002・ブルース・ウィリス主演) 《ネタバレ》 
法廷もの、人種問題、人格者の悪役、お坊ちゃんの成長物語、兵士のプライド、脱走計画、これだけの要素を一本の映画にまとめてみせた脚本の出来はなかなかのものです。すべての要素がきちんと関連し合っていて、ラストに向けてすべてが収斂するように物語が計算されており、これだけの要素を放り込みながら闇鍋状態になっていない辺りは見事なものです。娯楽性を保ちながら硬派な題材を扱うことに長けるテリー・ジョージ、本作でも良い仕事をしています。しかし監督がこの題材を扱いきれず、散漫で何が言いたいのかよくわからない凡作になり下がっているのが残念です。収容所に到着するまでの前半部分は、よく出来た見せ場もあってなかなか面白いのですが、本筋がはじまると途端につまらなくなってしまいます。収容所に入ると「脚本通りに撮ってるだけ」という状態になってしまうのです。さらに、地味な本作を興行面で支えるために配置されたブルース・ウィリスが、マクナマラ大佐にまったく合っていないという問題もあります。脚本レベルではもっと深みと威厳があり、知性も感じさせる人物だったと推測されるのですが、彼が演じたためにそれらが失われてしまっています。同時期の「ティアーズ・オブ・ザ・サン」におけるような現場部隊の指揮官役には抜群にハマるものの、指令系統の頂点という役柄にはあまり馴染まないようです。さらに悪いことに、本作で彼に対することとなるドイツ軍のビッサー大佐がよく出来ているために、ウィリスがより浮いて感じられます。
[DVD(吹替)] 5点(2010-02-01 21:15:19)
38.  地獄の黙示録 特別完全版
本作がとっ散らかっていることは、この「特別完全版」を見ればよくわかります。映画の完全版といえば、見たことのない場面がいくつか加わる程度のものが大半なのですが、本作における復活シーンはかなりしっかりとした内容です。脚本上はそれなりの重要性があり、かつ手の込んだ撮影がされていたにも関わらずこれらの場面はオリジナルからは丸々削られていたわけで、このことから、撮影時にコッポラの中で映画の全体像が出来上がっていなかったことが推測されます。B級映画の帝王ロジャー・コーマンの下で修業したコッポラに無駄な場面(復活したフッテージはまるで本編に必要がなく、これらを切ったオリジナルの判断は正解でした)を山ほど撮らせることはなかなかの異常事態なのですが、その原因はマーロン・ブランドにありました。カーツ大佐は、神経症とジャングル生活で痩せ細ってはいるが眼光鋭く、得体の知れないカリスマ性に満ちた人物という設定であり、押し寄せる北ベトナム正規軍とカーツの軍隊の繰り広げる死闘が本来のクライマックスだったのですが、ブランドは契約違反とも言えるほどぶくぶくに太って現場に現れ、クライマックスの大アクションを撮れなくなってしまいました。オチが白紙になった状態で撮影を進めざるをえなくなったことで本作は方向性を見失い、その場のアドリブと編集で辻褄を合わせるという無茶なやり方によりなんとか完成。映画の製作過程そのものが、ウィラードの旅と同じく「混沌」に支配されていたのでした。普通なら企画が倒れるか、駄作が生まれるかのどちらかなのですが、コッポラの才能や優秀な現場スタッフの貢献、そして一周して映画のテーマと合致するという奇跡によって、本作は「映画として成立していないが、訳のわからん迫力に満ちた他に類を見ない作品」となったのでした。シナリオ通りのラストであれば映画としては面白くなったはずですが、傑作としての歴史的地位は得られなかったでしょう。禅問答で煙に巻くラストによって何か奥深いことを言っている雰囲気を作り、観客に映画を読み解く作業を与えたことも、結果的に正解でした。。。私?私は失敗作だと思います。ひとつひとつのエピソードは面白くても全体としては統一感に欠けるし、ラストもオチから逃げただけにしか見えません。しかし、失敗作ではあるが駄作と切って捨てられない魅力があるのもまた事実なのです。
[DVD(吹替)] 5点(2010-01-24 07:50:56)(良:2票)
39.  JAWS/ジョーズ
70年代のパワー、スピルバーグのパワーを思い知らされる快作でした。70年代前半といえば「ゴッドファーザー」「エクソシスト」等大人の映画が記録破りの大ヒットを続けていた時期で、本作もブロックバスターの皮を被りつつ、しっかりとした大人のドラマを中心に据えています。映像的ショックの薄れた現在の目で鑑賞すると、サメとの死闘よりもむしろ前半のドラマ部分の方が見ごたえがあり、マジメな姿勢で構築されたドラマと優秀な脚本の存在がいかに作品に貢献しているかが分かります。またスピルバーグのドラマ演出も驚異的。都会に疲れて田舎へ移住してきたブロディ署長が、「どうせよそ者にはわからんだろ」と言われながら孤軍奮闘するドラマを、若干25歳にして描ききっています。たった25歳で、よくも中年男のドラマを作り上げたものです。一方、クィントはスピルバーグが不得意とするタイプのキャラクターなのですが、こちらはロバート・ショーに相当お任せしている様子で、自分に出来ないことは他人に頼るという柔軟さも見られます。。。本作を見て思うのは、パニック映画にはリアクションがいかに重要であるかということです。人喰い鮫が現れた時、人々や社会はどう反応するのかを丁寧に描くことで、鮫の存在も引き立っているのです。肝心の鮫については技術的に相当な制約があり、その姿をほとんど見せないという詐欺みたいな描写が続きます。ようやく画面に登場しても作りもの丸出しなのですが、それでも本作のサメは活き活きとしています。それは、アミティの町やその住民達がこのサメの存在をしっかりと感じ、現実的なリアクションをしているからです。他方、90年代に入ってスピルバーグが関わったディザスター大作「ジュラシック・パーク」「ツイスター」「ディープ・インパクト」は技術的には本作を圧倒し、見せたいもののほとんどすべてを描写できるようになったにも関わらず、映画としては本作に劣ります。「パニック映画」の名称が90年代に入ると「ディザスター映画」と変わったのは言い当て妙で、対象に直面した人々や社会のリアクションがスッポリと抜け落ち、ただひたすら対象を描写することに集中しているからです。これはクリエイターのみの責任ではなく、難しい話を受け入れなくなった観客の責任でもあります。その意味でも、大人の映画に行列ができていた70年代は貴重な時代だったのだと思います。
[DVD(字幕)] 8点(2009-12-31 12:44:39)(良:1票)
40.  ジュラシック・パークIII
世評に逆らってひねくれた点数をつけているわけではないのですが、シリーズで一番面白かったと思います。「1」は理屈っぽい部分の掘り下げが中途半端だったし、「2」における安直な動物愛護精神は意味不明でした。だったら大仰な主張は潔く切り捨ててしまい、ついでに登場人物の数も絞り込んでコンパクトに仕上げた本作が、映画として一番まとまりが良いのです。コンパクトと言っても勢いだけで押し切る短絡的な作品というわけではなく、キャラクターや見せ場は作り込んであります。典型的な大作を得意とするデビッド・コープからドラマ畑のアレクサンダー・ペインに脚本家を変更し、情けない中年おやじ達の成長物語を横軸に持ってきたことで、前作、前々作よりもすんなりと登場人物に感情移入ができるようになっています。グラント博士の登場シーンからしてよく出来ており、エリーと幸せな家庭を築いたと思わせておいて、実は別の旦那と結婚していたサトラー家に遊びに来ていただけという導入部分は最高でした。エリーの子供からは恐竜おじちゃんと呼ばれる始末で、好きなことだけやって歳を重ねるとこうなってしまうという哀愁が漂っています。「1」の時は気鋭の古生物学者だったグラント博士も現在は冴えない中堅の学者で、研究資金も底をついているという切ない状態。そんな彼を再びサバイバルに引き込むのがウィリアム・H・メイシーですが、情けない中年をやらせると右に出る者のいないメイシーは、やっぱり本作でもハマっています。温厚なグラント博士に殴られ、妻からはギャンギャン怒鳴られ、何か言っても誰にも聞いてもらえないダメ親父ぶりをいかんなく発揮。そんな枯れかけの二人が、若かった頃のような自信とバイタリティを取り戻す物語は、定番だけどやっぱりグッとくるものがあります。。。見せ場にも工夫が見られます。「1」「2」とT-REXとラプターを見せ場の中心にしてきましたが、さすがに三度目はないと今回はスピノサウルスとプテラノドンを中心に持ってきた判断は正解でした。知名度の低いスピノサウルスには鮮烈な登場場面を準備し、他の恐竜に比べて攻撃力の弱いプテラノドンには霧に包まれた鳥かごを生かした見せ場を作ることで、T-REX、ラプターに負けない悪役ぶりを披露させています。また、笑いとスリルも絶妙なバランスで調和させており、この監督はなかなか巧いなと感心しました。
[映画館(字幕)] 8点(2009-12-31 01:49:17)
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