321. エデンの東(1955)
《ネタバレ》 高校生か大学生の頃、三本立ての名画座で見ました。この時は字幕が読みにくいところがあったりして、全然いいとは思わなかった。 ところが今回再見したら、すばらしい映画ではないですか! いち家族を描くことによって、罪と罰、善と悪、人と人とのあるべき関係について、真理に迫るような深い考察を促されました。特に「人を許す」ことについて、いろいろと考えさせられます。人は一人では生きていけないのだ、誰かが必要なのだと痛切に感じました。もしかするとアダムやアロンは、その点勘違いしていたのかもしれません。 ジェームズ・ディーンは、役を演じるより「役になりきる」タイプなのでしょうね。おそらく本作では、演じたキャルと彼自身とがオーバーラップする部分が多かったのでしょう。その分存在感があり、非常にインパクトが強くなったと思います。それ以外のキャストもそれぞれはまり役。特にアブラとサムが記憶に残ります。 これはやはり、名画として今後も残したい作品です。時代や国を超えた普遍性があります。結局はそういうものが、人の心をつかむのでしょう。 [映画館(字幕)] 9点(2010-06-26 20:37:51) |
322. 蛇の穴
《ネタバレ》 これはけっこうよかった。記憶喪失・神経症で精神病院に入院した人妻が、退院するまでのお話。病気の原因は今日言う「トラウマ」で、それを探っていく過程がミステリー風でかなり面白かった。実際に夫の顔や結婚したことを忘れたりする症例があるのかどうか、私はまったく知りませんが。ただヒロインが、強度の強迫観念に囚われているというのは納得できました。これが話の中心ですが、精神病院の患者が増えすぎて、とても1人ひとりにきちんと対応できていないという現実も描かれています。看護師の患者に対する態度も、少々問題あり。そうした批判を含んでいるということも評価できます。しかしもっともよかったのは、なんといっても主役のオリヴィア・デ・ハヴィランド。狂気から脱しようとするヒロインの苦しみ・孤独を熱演していました。役柄上錯乱した場面も多いのですが、なかなか迫力があります。この方は『風と共に去りぬ』のメラニー役くらいしか知られていないかもしれませんが、本作や『女相続人』を見ると、かなりの演技派だとわかります。もう少し認知度が上がってもいいと思います。脇役では、担当医のレオ・ゲンがさわやかな味を出していました。知名度は低いですが、逸品です。 【追記】調べてみたら、原作は小説とはいえ、作者の実体験に基づいているようです。となると、記憶喪失になったということなのでしょう。 [CS・衛星(字幕)] 8点(2010-06-25 20:38:05)(良:2票) |
323. ジュリア
《ネタバレ》 映画のタイトルはジュリアですが、話の中心はあくまでリリアンでしょう。彼女にとってダシール・ハメット(ダッシュ)とジュリアがいかに重要な存在だったか、それがテーマのようです。だから前半の劇作家としてデビューするまでのいきさつも、リリーにとっては欠かせないものなのです。個人的には翻訳ミステリが好きなので、興味深く見ました。 後半のベルリン経由でモスクワへ行く話は相当面白いのですが、それまでと雰囲気がまったく変わってしまうので、はたしてよかったのかどうか。あまりにも面白すぎて前半とバランスがとれていないとも思えます。それにしても、本当に“小説にでも出てきそうな”展開で、ある意味使い古された陳腐な設定ですが、それをこれだけ引きつけてみせるというのは、たいしたものです。もっともこれは、主人公が実在の人物だというリアル感が、大きくプラスになっているとは思います。ジュリアが亡くなった後も、素人が地下組織の壁にはばまれるというリアルな展開で、安易なハッピーエンドよりも見ごたえがありました。レジスタンス組織の徹底した秘密主義を描くことで、戦争それ自体の恐ろしさを影のように浮かび上がらせています。 リリアン・ヘルマン自身が原作を書いているということで、リリーは多少欠点はあるものの、あまりひどい人物になっていないのが、ちょっと不満でしょうか。あと、やはり前半と後半でバランスが悪い。前半が時代と特にシンクロしていないのも、残念でした。 [CS・衛星(字幕)] 7点(2010-06-22 21:24:27) |
324. ショーシャンクの空に
これも『世界名画劇場』以来ですね。非常によくできたシナリオで、感心しました。とてもうまくまとまっています。ただ、無難にまとまりすぎて、これというところがない。のどごしのいいそうめんのようにおいしいけれど、もう少し引っかかるところがあった方が、強く印象に残ったのではないかと思います。傑作ですが、名作とは思えない、といったところでしょうか。 [映画館(字幕)] 8点(2010-06-03 21:09:57) |
325. ローマの休日
《ネタバレ》 個人的に劇場でしか見たくない映画 No.2 なので、ずいぶん久しぶりでした。少なくとも、オードリーが亡くなってから見たことはないはず。が、あいかわらず楽しい、そしてステキな映画です。とってもおかしいし、笑いのとり方に品がありますね。そして最後の“Rome”は、わかっていても感動で涙ぐんでしまいます。こんないい映画になったのは、脚本のよさか、監督の手腕か、オードリーの魅力か、グレゴリー・ペックが格好いいからか、ローマという街の持っているオーラから来るのか。きっとそのすべての要素に、さらになにかよくわからない「プラスアルファ」があって初めて、これだけのすばらしい作品になったのでしょう。もうほとんど奇跡です。奇跡の名作。 [映画館(字幕)] 10点(2010-06-02 20:31:45)(良:1票) |
326. 或る夜の出来事
コメディとしてはいまいち。箱入り娘のエリーは、今ならもっと天然キャラにするのでしょうが、さすがに昔だからそれほどでもない。そのためにインパクトが弱くなったかも。世間知らずなのに車の停め方は知っているというのも、なんだかなぁ。終盤すれ違い以降は、必要な手順なのでしょうが、ほとんど蛇足に思えました。早く終わってくれないかと思いながら見ていたのかもしれません。 [CS・衛星(字幕)] 6点(2010-06-01 21:09:43) |
327. 日の名残り
《ネタバレ》 まるで日本人のように(?)職務に忠実な執事。忠実すぎるゆえに他人とすれ違ってしまうさまを、静かなタッチで巧みに描いていました。微妙な心理の綾を表現した、主演の2人がおみごと。「若くして結婚した女性は後悔する」と言っていたミス・ケントンが、自身の結婚を後悔してしまうのは皮肉が効いています。 [CS・衛星(字幕)] 7点(2010-05-27 20:25:43) |
328. 聖メリーの鐘
『我が道を往く』と同じく、ビング・クロスビーのオマリー神父が活躍する映画。知名度ではあちらに劣るようですが、中身は負けていません。ボクシングのエピソードやクリスマス劇など、ユーモアもあふれていて楽しめます。特に後者のオチは最高! また、同時期に見た『追想』と同じく、イングリッド・バーグマンの魅力全開で、その素晴らしさに改めて感服しました。クロスビー主演なので、歌がもっと活躍してほしかったところです。 [CS・衛星(字幕)] 8点(2010-05-23 11:26:41) |
329. 追想(1956)
《ネタバレ》 舞台の映画化だけあって、台詞の応酬に見ごたえがありました。アンナが皇女か否かという謎で引っ張っていくのですが、当人にとっては皇女であるなしにかかわらず、「自分は何者なのか」というアイデンティティが最大の問題でした。だからそれが明らかになると、他人に頼らず、しっかりとした自我をもった一個の人間となって、愛する人と駆け落ちしちゃったわけですね。イキな結末です。どこか『マイ・フェア・レディ』と共通するものを感じさせます。この展開を納得させたイングリッド・バーグマンの芝居がすばらしい。ユル・ブリンナーの仲間2人が個性的で面白く、ユーモアもあって楽しい作でした。 [CS・衛星(字幕)] 8点(2010-05-21 19:22:13)(良:2票) |
330. 路上のソリスト
《ネタバレ》 実話を元にしているためか、映像的にもドキュメンタリー・タッチの雰囲気がありました(一部除く)。昔NHKで放送していた、佐々木昭一郎のドラマのような感じです。 最初は喋りまくるナサニエルに面喰らいましたが、次第に慣れてむしろ彼の個性として認められるようになりました。昔から芸術家には奇人変人が珍しくありませんし、本人も路上生活に満足している様子。見ているうちに、路上生活も悪くないんじゃないか、なんていう気にすらなってきます。 しかしロペス記者は、常識人としてナサニエルを路上生活から救おうとする。まあ一般的にはそれが当然なのでしょうが、このケースはそれでいいのかなぁ、なんて思いながら見ていました。結果として2人の価値観がぶつかり合い、種々の相克のあと、ついにナサニエルが爆発します。結果としてこれがプラスの方に作用して、助ける者と助けられる者の関係から、対等な真の友人関係を築けたようです。結局は、そこがポイントなのでしょうか。どうも、どういう点に絞って鑑賞すればいいのか、今ひとつわかりにくかったです。ナサニエルの側から見たからでしょうか。ロペスと元妻の間も、どういうことなのかピンと来ません。もしかして、「実話だから入れました」ってことなのでしょうか。 [CS・衛星(字幕)] 6点(2010-05-17 20:53:24) |
331. チャンス(1979)
《ネタバレ》 風刺劇としてはそこそこ面白い。一番笑ったのはテレビに合わせてぐるぐる回るところでした。チャンスは着ているものもあってビジネスマンと勘違いされるのですが、それは勘違いしている方がついつい自分の経験の範疇で判断してしまうから。要するに、みんな世の中の一部しか知らないという点で、チャンスと同じなのだな~、などと思いました。最後はどう解釈すればいいのか、よくわかりません。「奇跡を起こす男」みたいな感じでしょうか。唐突にああなって説明なしで終わったので、カタルシスは感じられませんね。ただ、もう一度見てみたくなるような終わり方です。マクレーン演じるヒロインにあまり好感が持てなかったのは、ちょっとマイナス。 チャンスはテレビ大好きですが、これも当時の世相を風刺しているのでしょうね。リモコンで次々とチャンネルを変えることも含めて。21世紀のチャンスは、おそらくネットにはまっていることでしょう。 [CS・衛星(字幕)] 7点(2010-05-15 18:33:31) |
332. ペーパー・ムーン
ハートウォーミングな話なんですけど、ベタベタ・メソメソしたところがないのがいいです。2人の距離がだんだんと縮まっていったあげく、最後はああいう風になるのもいい。それもこれも、頭の回転が速くてこましゃくれたアディを演じきった、テイタム・オニールがいればこそ。彼女にとっても一期一会の作品であり、ベストの芝居になったようですね。それがよかったのか悪かったのか。なんにせよ、笑えてホロリとさせられ、最後にはニヤリとさせられる、おしゃれでステキな映画です。 [CS・衛星(字幕)] 8点(2010-04-07 19:21:34)(良:1票) |
333. マイレージ、マイライフ
《ネタバレ》 どうも今ひとつ、なにが言いたいのかよくわからないところがありました。「リストラ宣告人」の主人公が、あくまで相手と直接向かい合って仕事をすることにこだわることは、面白いと思いましたが。おそらくこの人は、人間が大好きなんでしょうね。その点がたいへんいいと思ったのですが、劇中ではなにやら批評されているようで不思議でした。いわゆる「いい人」ではないけれど、実直で誠実、クールではないけれど熱くもないという、バランス感覚のとれた人物像が魅力です。それに比べると、女性2人はちょっと……。主人公が2人に振り回されてお気の毒、という感じだったのですが、それであまり高く評価できないのかもしれません。 [映画館(字幕)] 6点(2010-04-05 19:33:00) |
334. チャップリンの独裁者
数十年ぶりに見ましたが、あいかわらずおかしい。子供の頃の『全員集合』のコントのようで、チャップリンの影響力がわかります。この笑いの要素があるからこそ最後の演説が生きてくるわけで、そこが一番うまいと感じました。とりあえず、演説がなくても満足。あくまで希望を持たせる終わり方も好きです。 [映画館(字幕)] 8点(2010-04-02 13:58:29) |
335. フレンチ・コネクション2
《ネタバレ》 「続編はできがよくない」というジンクスを破る映画として有名……なはずですが、久しぶりに見ると、前作よりかなり落ちるという印象。なぜかと考えたのですが、やはりドキュメンタリー・タッチではなく普通のドラマになってしまったことが大きいと思います。警察と組織を並行して描いていたのが、今回は完全にポパイが中心になったので、彼のキャラクターが好きかどうかで映画の評価自体が決まってきそうです。私自身はそれほどでもないので……。また、麻薬中毒にされてから立ち直るまでが冗長でした。あの婆さんはよかったと思いますが。捜査の過程がたいしてなかったような気がしますが、それは刑事ドラマとしてどうなんでしょう。こうしてみると、ポパイに頼りきった映画だという感じですね。 [CS・衛星(字幕)] 6点(2010-03-31 11:18:33) |
336. OK牧場の決斗
《ネタバレ》 『荒野の決闘』と比べると、元が同じ実話だったとは思えないほど、別の映画になっています。こちらは正統派の西部劇という感じ。ただ、複数のエピソードがつながっているので、中だるみの気があります。アープとドクの友情物語に絞ったためか、ほかのキャスト(特に女性)がかすんでしまったのは、プラスマイナスどちらにも作用したようです。最後の決闘場面は、こちらの方が見ごたえがありました。あと、主役のはずのランカスターよりカーク・ダグラスの方がかなり目立っていたのはご愛嬌。 [CS・衛星(字幕)] 6点(2010-03-28 18:56:13) |
337. ライムライト
《ネタバレ》 古さは感じさせますが、「とにかく生きろ!」という呼びかけは、生きづらいこの時代には重く響きます。そういうところに普遍性があり、今でも十分鑑賞は可能。ただ、カルヴェロへの恋愛話を入れたのは、よかったのかどうか。これはチャップリン自身の願望が出たということでしょうか。素直にネヴィルとくっついた方がよかったと思いますが。あと、ちょっと説教臭いところがありますね。それ以外はよかったです。ラストでのキートンとの競演など、みごとすぎて言葉もない。 それにしても、あれほど生きることにこだわるというのは、裏を返せば年老いてあとどれくらい生きられるかを意識した結果ではないかと思います。年老いたからこそ作れる映画。変に若作りするよりもよほどいいです。 [映画館(字幕)] 8点(2010-03-26 11:43:30) |
338. ハスラー
酒が飲めないうえギャンブルもしない私にとっては、まったく縁もゆかりも関心もない世界の話でした。ジャッキー・グリーソン演じるミネソタ・ファッツがイカしてた。 [CS・衛星(字幕)] 5点(2010-03-25 19:23:25) |
339. 扉をたたく人
《ネタバレ》 うーん、「惰性で生きていた初老の男が、前向きに生きる力を取り戻す」という点は、よく描かれていたと思います。特にそのきっかけが、異邦人やそれまで縁のなかった楽器(ジャンベ)だったというのも説得力があります。が、それと同時にアメリカでの中東移民の扱いについても取り上げています。これについては、タレクが収監された拘置所の所員がなぜか黒人ばかりだったり(実際そうなんでしょうか)、壁に自由の女神の絵が書かれていたりと、なかなか細かい配慮がうかがえます。モーナの「(ここはアメリカなのに)まるでシリアのよう」という台詞も記憶に残ります。ただ、その両方にウェイトが置かれたためか、中途半端なできという印象を受けました。タレクが不法滞在者となったのは役所からの通知を(母親が)無視したからで、本人は「何もしていないのに」と言っていましたが、何もしなかったから不法滞在になってしまったというのは深いアイロニーです。要は本人の“自己責任”なわけですから、これを以て移民政策がどうのとか、役人の態度が冷たいとか言うのは、ちょっと見当違いではないかと感じます。そのあたりがうまく処理できていれば、よかったのですが。でも、地味ですがなかなかの佳作です。 [CS・衛星(字幕)] 7点(2010-03-23 15:30:21) |
340. ベンジー
何をかくそう、初めて劇場まで見に行った洋画です。大人になってみるとツライかと思いましたが、意外にそれほどでもなかったです。まあ、お話がご都合主義なのはいただけませんが、そのあたりはやはり子供向けということでしょう。特筆すべきは演出で、低いカメラワークや犬の行動で、ベンジー君の考え・感情を的確に伝えているのはおみごと。時に人間目線も取り入れて、その切り替えがうまいと思います。クライマックスの「ストップモーション+カットバック」は、昔は感動したのですが、今回はちょっとくどいという感じでした。また、BGMがほとんど2種類のモチーフしか使っていないのは、けっこうすごいかも。 とりあえず、映画のできとはまた別に、たいへん「好きな」映画ではあります。 [DVD(字幕)] 7点(2010-03-19 13:45:42) |