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1.  キャスト・アウェイ 《ネタバレ》 
前半の決死のサバイバル、ケリーに会いたいの一心で耐え忍んだ努力をしっかり見せていたにもかかわらず、「覆水盆に返らず」だと悟って「次に進め」はいくら何でも骨折り損だ。もちろん世の中すべてうまくいくわけがないが、映画だけでも希望を見出したいよ、この手の作品は。 生還を知ったケリーに旦那だけでなく子供が映り込む瞬間に、常識人だった主人公の行動は決定された。 あっさり4年もワープした進展具合が、ここにきて意味が出る。1年であれば、実は彼の子供でしたというハッピーエンドが用意(しかも再会したときは、主人公はすでにほかの男性と結婚して子供もいる、という勘違い描写付き)で、お決まりのハッピーエンド。 しかし本作はそれを封じるためにも4年後の設定。こうなると、さて、この男は観客の予想を裏切ってどんな行動をとるのかに絞られるが、結局は常識人で終了。ってことは何を言いたいの?となる。 俳優人トム・ハンクスだけはやりがいはあっただろう。普通の映画ならサバイバルのみか生還の苦悩どちらかだけが、両方演じられるのだから。 さらに、生還後をそれなりに尺を使って旦那を登場させたり、ケリーと会話させたりすることで、妙な雑念もわいてくる。 ケリーはいつから歯科医と親密になったのか?恋人の担当歯科医がどのようにしてケリーと知り合い心の隙間を埋めるようになったのか?彼女は目標をいったん取りやめていたと語っているが、歯科医の妻として不満なく生活しているのは明らかだ。そう考えると、主人公をそこまで愛していなかったのでは?なんて邪推も生まれてくる。 飛行機墜落から生還した男が、だれからも必要とされなかった、という流れには感動という言葉は与えられない。 ただ、ショーシャンク~作品の系譜と似ていることを考えると、キリスト教の精神が垣間見える。それで納得するしかない。
[CS・衛星(吹替)] 6点(2021-03-30 16:49:03)
2.  Oh! ベルーシ絶対絶命 《ネタバレ》 
いつもハチャメチャなキャラで人気を博したサタデーナイトライブ出身の怪優ジョン・ベルーシ。人気が出れば必ずやってくる、まともなキャラのドラマ。彼の場合はロマンティック・コメディの本作でした。 おそらく、ファンの受けは決して良くなかったのでしょう、当時、公開されたことも気づかずビデオ屋で偶然見つけたのが鑑賞のきっかけです。内容は当時によく見られた、別な世界に暮らす彼女とともに生活するうちに…というお互いにいがみ合いながら最後はひかれあうストーリーです。こちらのレビュワーさんたちからは決して評価は得られない作品かもしれません。 でも、彼の死がなければ、もしかするとトム・ハンクスやビル・マーレイのような名優へのステップアップを果たしていた可能性を感じさせる貴重な一本です。 この作品がきっかけなのか彼の仕事への志向が変わったのかわかりませんが、彼の出演作が一気に減ったので、映画会社側が何らかの形で見限った可能性がないわけではありませんが。 面白い、面白くないとは別に、一人の俳優の通過点としてみておいてもいい作品だと思います。
[ビデオ(字幕)] 7点(2020-04-24 22:32:03)
3.  シンデレラ(2015) 《ネタバレ》 
まず、ケネス・ブラナーに拍手。ディズニー映画にケネス・ブラナー?若いころは「自分」を前面に出した作品も多く、やや自己顕示旺盛な印象だったか、この作品は自身の出演はおろか、職人監督的な手腕が随所に出て素晴しい。ディズニーの誰でも知っている作品をここまで見事に映像化したのは正直驚いた。フェアリー・ゴッドマザーにかつての同棲相手だったヘレナ・ボナム=カーターを選ぶあたりは実に興味深い。彼女自身の女優「力」を信じ、彼女もそれに見合った演技で、わずかな出演にもかかわらず、この物語の最大のキーワードである「魔法」に説得力を持たせている。常に曲者を演じ続けてきたインパクトはここでも十二分に発揮されている。リリー・ジェームスも当初は継母の娘たちの一人としてオーディションを受けていたのが面白い。グレース・ケリーのような骨格と気品が実に主人公にぴったりだ。王子役も超二枚目というよりは、誠実さあふれる王様の一人息子の雰囲気が出ていて新鮮だ。ケイト・ブランシェットは、おそらくベテラン女優としては一番演じたい継母役を楽しく演じている。彼女の目つきや顔の角度、照明など、継母描写にここまで気を遣うのはケネス・ブラナーがこの大女優に敬意をはらっている証拠だ。作品のなかでも力を入れて撮っているのがわかる。新人と大女優、かつて恋愛関係もあった性格俳優と、実にバランスのいい印象だ。この作品のなかでも一番のシーンはドレスへの魔法。コレには思わず感嘆の声が出てしまった。 他のレビューにもあったが、なぜガラスの靴だけ魔法が解けなかったのか?シンデレラ最大の謎(?)かもしれないが、この映画ではその理由が少しわかった。 シンデレラの母が常に語っていたフェアリー・ゴッドマザーの存在。つまりあの魔法使いは、昔から人々の暮らし、特に善良な人々を見守ってきた存在。今回はたまたま親切にされて登場したわけではなく、彼女に幸せをもたらすために現れたのだ。つまり舞踏会に行くためだけの魔法はなく、王子の誠実さもすべてお見通しだからこそ二人を結びつけ幸せにするために魔法を使ったのだ。 シンデレラという物語はあくまでエラ本人目線で描かれてきたが、もしかすると王子の前にもフェアリー・ゴッドマザーが別な形で登場していたのかもしれない。たとえば、主人公二人は結婚のあと、あの舞踏会のことを語り合うかもしれない。そのときシンデレラは「ガラスの靴だけなぜ魔法が解けなかったのかしら?」と気づくだろう。それを脇で聞いている王子は、こっそり微笑むかもしれない。そして窓の外を観るとあのフェアリーゴッドマザーが口に人差し指を当てて「内緒にね」と王子にだけ微笑む… ヘレナ・ボナム=カーターが演じたからこそそんなことまで想像してしまう。 なかなかの名作だ。
[映画館(字幕)] 9点(2016-12-28 12:47:56)
4.  スラムドッグ$ミリオネア
この映画はなかなか考えられて作られている。警察の取調べという形をとってジャマールの過去が引き出され、過去へのシーンにつながる。それとクイズシーンの交互の展開は、クライマックスの結末にフラグを立たせているので、「ハラハラドキドキ、先が読めない展開」の物語とは一線を画す。それよりも、ジャマールがいかにつらい日常を過ごしてきたのかという最底辺の暮らしぶりを味わい、最後に一気に大逆転させ爽快感を堪能するという構図を持っている。都合よすぎという意見も目にするが、本当にあるかも?という視点で描かれている類ではないので、そう感じたらこの映画の感想はそこまでどまり。彼の過去の経験が解答させたとこのプレビューサイトのあらすじに書いてるが、過去の過酷な経験をしたからこそではなく、明らかに彼だけの経験があのときの出題に合致しているということを忘れてはならない。100ドル札の肖像を答えられても、インドの紙幣のガンジーは答えられないのがその証拠。過去の経験で頭がよかったのではなく、たまたま答えられる経験をつんだだけである。つまり、これは大金を手にする貧困の青年の物語ではなく、幼いときに出会ったレティカをどんなときでも忘れられない心優しき根っからの正直者の青年の話なのだ。徐々にうそをついていないと確信していく警察の表情がほほえましい。まさにファンタジー!各世代の配役も見事。フリーダ・ピントの美しさに目を奪われがちだが、主人公ジャマールは出会ったときからレティカのことが好きだったわけで、そのぶれない点も、主人公を応援してしまう重要なファクターだ。唯一のマイナスは、さすがに回答させたくないと思う司会者が警察に主人公を送り込ませる設定。「クイズショウ」同様、国民的スターの誕生を望まない司会者はいないのだから。
[CS・衛星(字幕)] 9点(2016-02-21 22:11:55)
5.  イントゥ・ザ・ウッズ 《ネタバレ》 
それぞれ有名なストーリーをきれいに交錯して見せた前半は実にスムーズで心地よい。うまくいったはずなのに事態は急変、の中盤は、先の読めない面白さで「さあ、どんな奇想天外なクライマックスに導いてくれるのか」とわくわくさせられる。しかし、後半はいただけない。ブロードウェイミュージカルという確固たる原作の映画化が裏目に出た。ミュージカルのいい意味でのあいまいさ、筋が通っていなくても、楽曲と演者が素晴らしいからよしとしよう、というストーリーの雑さが、かえって映画化で目立ってしまった。巨人の女は悪いことをしていない、といった矢先に退治しようとなったり、長男王子とパン屋の妻の不義、さらにその妻の強引な夫への愛の論理、いつのまにか死んでいるジャックの母、妻の死を引きづらないパン屋、舞台ではごまかせても、映画となれば「?」となる。メリル・Sも歌声は特筆すべきもののキャラがぶれる。魔法が出なかったと思えば、最後は使えたり。死んだ牛を蘇らせることができるので、当然先に述べた妻や母もそうすると思ったのも肩透かし。プロデューサーももっとがんばって舞台原作者を説得し、映画版ラストを変えるべきだった。残念。
[映画館(字幕)] 6点(2015-03-30 03:08:10)
6.  雨に唄えば 《ネタバレ》 
何度も見てきたが、今更ながらこのタイトルが素敵だ。トーキー時代に突入する映画界の舞台裏を舞台にした本作。彼らのダンスは誰かに見せる、もしくは一緒に踊ることで成立しているが、この「雨に唄えば」は主人公一人だけだ。吹き替えを思いつきお互いの気持ちを確かめ合ったあとでキャシーと別れたあとのシーン。それは主人公にとってどれほど嬉しかったことだろう。急に流れてくるBGMは感情移入している観客にとっても全く違和感がない。心から嬉しく最高の表現に昇華した瞬間だ。さらに雨が嫌なものでない、という捉え方も素晴らしい。このシーンを作品のタイトルにするセンスは今も見習いたい。全体の雰囲気を匂わせるタイトルが多いなかで、このネーミングは秀逸だと改めて感じた。そして今更ながらもう一つ、この作品のヒール・リナ役のジーン・ヘイゲンは実際はとても美しく穏やかな声の持ち主。キャシーによって吹き替えられた声も実はジーン本人によることを後に知る。この映画を名画たらしめる要因はジーン・ケリーたち主役陣によるものと思いがちだが、同じジーンでもヘイゲンもそれと同様の功績があったと思う今日このごろ。
[CS・衛星(字幕)] 10点(2014-09-20 21:43:01)
7.  フッテージ 《ネタバレ》 
主人公がイーサン・ホークだったので、彼なら後半に事件の真相を知ってあえてそれを食い止めようとするのではと思ったのですが、単に「怖がらせておしまい」でした。逆に言えば、イーサン・ホークだから期待感を持って見続けられたわけで、プロデューサーの勝ちとも言える。でもこの手の作品ばかり出ていたらやばいぞイーサン。
[CS・衛星(字幕)] 6点(2014-04-13 09:51:29)
8.  16ブロック 《ネタバレ》 
アメリカンニューシネマの微かな香りのする作品。多種多様な映画が存在する中でこの作品はうもれてしまうかもしれないが、この香りを感じ取れればなかなかの一品だ。いつの時代にも通用する映画だが、もしかするとブルース・ウイルスゆえに固定概念が強すぎせいなのか。「ガントレット」と構図は一緒だが、「バニシング・ポイント」や「コンドル」のテイストが練りこまれている。リチャード・ドナー起用はそのためかもしれない。アクションの派手さや奇抜な演出が作品の善し悪しと思われる昨今だが、既にやり尽くしたあたりのジャンルの隙間を狙った優れた作品だと思う。
[CS・衛星(字幕)] 8点(2014-04-13 03:26:54)(良:1票)
9.  天国から来たチャンピオン 《ネタバレ》 
かつて2本立て、3本立ての名画座にラインナップされると必ず見に行っていた作品。「幽霊紐育を歩く」をリメイクしたいビーティがカシアス・クレイ(古いね)らに主演を依頼するが断られ、おまけに監督の人選も難航。それなら自分で撮って演じるしかない、とプロからスカウトの声もかかった腕を持つアメフトに置き換えて、新米天使役のバック・ヘンリーとともに作られた奇跡の一本。音楽は数多くの名曲を繰り出してきたデイヴ・グルーシン、ソプラノサックスの軽妙でコミカルなメロディをベースに、これぞ映画音楽というようなやさしい旋律をここぞで使う完璧なスコア。コーチ、悪妻や秘書役にも名優を揃え完成度はこの当時ピカイチだ。名優が荒削りなシーンの行間を埋め、キャラを補完してくれるからだ。おそらくプロデューサーの力と、様々な困難の末に映画化にこぎつけた初監督のビーティに協力したいという俳優ばかりなのだ。それにしてもなんて優しい映画だろう。ファンズワースに入れ替わったあとの執事たちにに見せる一言や優しさなども何回も見ると泣けてくる。ラスト近く、ジャレットになりきった主人公に置いてきぼりをくうコーチに切なさは残るが、今思えば、ヒロインがジョーの何か感じてジャレットと付き合い始めるその後を考えれば、彼女はコーチにその思いを伝えるはず。きっとコーチも納得するだろう。そんなことまで思いを馳せる映画はやはり名作だ。幽霊や天使が登場するからファンタジーではなく、初対面の選手らしき人に「もしよかったらコーヒーでも」と言われただけでクオーターバックと察する出来事がファンタジーなのだ。この映画を作ってくれただけでもビーティに感謝したい。 映画好きにはたまらない1本だ。
[映画館(字幕)] 10点(2013-12-29 11:05:42)
10.  デジャヴ(2006)
やはりトニー・スコットのサスペンスは凄い。それそれが長くても数秒に満たないシーンを重ね合わせる職人芸。主観カットもあれば、超望遠レンズで狙撃手や放送映像のようなのような視点も組み合わせ、グイグイと作品に引きずりこんでいく。それゆえヒロインとの心のやり取りの切ないシーンもかえって際立つ。BGMも実に効果的だ。タイムリミットや追跡シーンは秒針を刻むごとく、ヒロインとは兄の作品「ブレードランナー」のデッガードとレイチェルに流れるような切ないメロディで実にわかりやすい。この「わかりやすい」というのはとても重要だ。これがあるから観客は戸惑うことなくもっと深い心情にまでたどり着けるのだ。タイムマシーンという荒唐無稽な発想も彼だからこそここまで仕上げられたのだ。考えれば考えるほどトニーの死は残念でならない。
[CS・衛星(字幕)] 8点(2013-12-07 13:31:11)(良:1票)
11.  ナチュラル 《ネタバレ》 
野球少年にとってサヨナラホームランは夢。しかしこの映画ほどのシチュエーションとクライマックスは想像出来まい。理想の中の理想だ。この監督、光の使い方が素晴らしい。観客席でロイの試合を見つめるアイリスにだけ夕日が当たったり、見舞いに来る病室なども美しい。しかし極めつけはもちろんクライマックスのボールがライトに当って次々とライトがショートし火花を放つシーンだ。バットボーイのはじける笑顔、アイリスの笑み、内側に傾きながら淡々とベースを回るロイの向こうにはじける火花、そして監督のメガネに映る降り注ぐ火の粉…何もかもが叙情的だ。監督の目にはロイは野球の神様が遣わせた天使の姿と映っていただろう。ロイは紆余曲折があったけれど努力したからこんな素晴らしい結果を出せた、というサクセスストーリーな描写ではない。メジャーまでの苦労話を省いたのはそのためだ。結果はどうあれ努力するのみ。それが僅かなチャンスでもあきらめない。よくあるテーマだが、それは王道であり、万国の人々共通の目標だ。それがこの映画の根幹にあるから私たちが胸を熱くするのだ。努力するものへの讃歌なのだ。ラストシーンは冒頭の伏線を含めすべてをきれいに収めるキャッチボールシーン。グレン・クローズの立ち方も美しい。そして何よりレッドフォード最大の武器である少年のような笑顔。見事としか言いようがない。最近見た「ジュリエットからの手紙」と同様、あまりにも出来すぎなストーリーにこっ恥ずかしさをわずかに感じながらも、あまりにもド真ん中の直球に感動するしかない自分をうれしく思う。
[ビデオ(字幕)] 10点(2013-09-17 21:30:06)(良:1票)
12.  ドラゴン/ブルース・リー物語 《ネタバレ》 
不世出のスターだけに似てない、などは言うだけ野暮。生き急いだ彼の運命を「悪魔」に見つかった、という解釈が実に興味深い。特に息子ブランドンまでも見つかってしまったというくだりは、あまりにも切ない。映画の中では悪魔を退治したことになっているが「怒りの鉄拳」ラストシーンをねたに使った「死亡遊戯」そのままにこの世を去ったブランドの非業の死を考えれば、やはり親子とも「悪魔」から逃げ切れなかったのか、という思いを強くする。彼の作品やドキュメンタリーはいろいろ見てきたが、彼自身やブランドンの運命を俯瞰で解釈した作品は少ない。その意味だけでも意味のある作品のように思う。
[ビデオ(字幕)] 7点(2013-08-04 00:03:28)
13.  イルカと少年
実にバランスの良い映画だ。引きこもりがちな少年、学校に行かせようとする母、足を負傷した名スイマーの従兄、寂れて経営難の水族館、そして尾ひれのないイルカ。様々な人々の再生をここまで消化できている脚本は意外と少ない。これを可能にしたのは、わずかながらのカットでありながら登場する人々やひと目見てわかる演出、そして豪華過ぎるキャスティングだ。予備知識無しで見てみたらアシュレイ・ジャッド、モーガン・フリーマン、クリス・クリストファーソン気負いなく登場する。彼らは子供の心を理解するだけの包容力をすでに持ち合わせた雰囲気だから必要最低限のセリフとシーンで十分表現できてしまうのだ。そして、イルカによるヒーリングもすでに一般的にだから、違和感なく見事にテーマを描き出す。子供向きとか動物モノとかそういうこととは関係ない。完成度はすごい。監督は「アンタッチャブル」でアル・カポネの脱税容疑に目をつけ、カナダ国境で大活躍のオスカー・ウォーレス役で有名なチャールズ・マーティン・スミス。
[CS・衛星(吹替)] 8点(2012-11-18 17:58:56)
14.  スーパーマン(1978)
何度見たことだろう。サントラを何度聞いた事だろう。映画少年になりたてとしては最高の教材だった。クリストファー・リーブのそのまんまの容姿にアメリカンコミックの映画化に対する情熱を感じ、CGもない時代にピアノ線であそこまでスムーズに離陸させる技術と俳優魂に敬意を送ったものだ。話題と見所満載の映画だったが、私のお気に入りはなぜかクラーク・ケントの青年時代。実力を隠しながらアメフトの雑用係で過ごす姿、わずかな恋心を同級生に抱き交わす会話がなんとも切ない。そのあとに来る養父の「きっとお前はなにかの目的のためにその力がある。フットボールのためじゃない」というセリフも素晴らしい。そして特に好きなのは、クラークの旅立の日のシーン。網戸から見つめる養母の切なくも暖かいまなざしは、クラークからの告白を聞かずとも彼の旅たちを悟っている。そして草原に一人立つクラークの下に歩み寄る養母。音楽もジョン・ウィリアムスの真骨頂、コントラバスとチェロの低音弦楽器から徐々にバイオリンへと引き継がれるストリングスも完璧だ。アンドリュー・ワイエスの「クリスティーナの世界」を思い出す叙情豊かなシーン。単なるアメコミヒーロー映画のはずがそこに垣間見る絵画の世界、30年以上たってもこの映像が忘れられない。そしてラストのエンドテロップ直前に地球から宇宙空間に飛んできてカメラ目線でにっこりするスーパーマン。何度見ても思わず嬉しくなってしまう。数多くのアメコミヒーローの映画がある中で、このスーパーマンだけは最も心の奥にあることを実感せずにはいられない。
[映画館(字幕)] 9点(2012-08-30 17:28:18)(良:3票)
15.  オーメン(1976)
今から20年以上前のテレビ放映。50半ばの父親が、私に付き合ってこの映画を見た。見終わって父親が「実はこの写真だが…」と私に一枚のスナップ写真を見せた。そこには笑顔の父親と、その首を横切る黒い影。大正生まれのオヤジがなんだかんだ言いながらこの映画の描写を怖がっていたことが懐かしい。それほどインパクトが強かったのだ。 もちろん公開当時も、カメラマンのクビチョンパ(これまた古い!)と、男女の怖いコーラスも後世の映画にどれほど影響を与えた事だろう。「ジョーズ」を見て海に入りたくなくなったと同様に、6月6日6時に特別な思いをもたらすほどこの映画のパワーは絶大だった。有名俳優に「ダミアン」という名前がいないのも、アメリカもなんだかんだこの作品に影響を与えられているのでは?などと勝手に想像してしまう。それほどまでにエンターテインメント性のある正統派ホラーとしてこの点数はつけたいと思う。それにしても、シリーズを通し一番怖いのはなぜかこの作品最初の乳母の首吊りシーン。どの描写よりもゾッとしてなんかしゃれになっていないような気がするほど衝撃的。今でも何度観ても心臓に悪い。
[試写会(字幕)] 9点(2012-08-30 16:33:14)
16.  サンクタム 《ネタバレ》 
大自然の畏敬の念をうたいながらも、それを味わう以前に人間の浅はかさや向こう見ずな冒険心が目に付いて最後まで心を揺さぶられなかった。 冒頭の主人公の少年が水底に落ちながら、最後に目を開けるシーン、で大筋は判明。さてさてどんな展開か、と期待して見たがお世辞にも爽快感があるとはいえないサバイバル。パニック映画の突然の悲劇ではなく、自ら危険を承知で突き進むから、それぞれに欲望がうごめき、人間関係もざらついているのがそもそもしっくり来ない。キャメロンの「アビス」は偶然別な知的生物に遭遇したりして、目先が変わるが、この作品はあくまで洞窟の難関クリアだけだ。次から次に起こる問題も「今度はこれね」という一本調子に思えてくる。主人公たちの親子のテーマが、最後に奇跡的な活躍をしなければならない息子の伏線であると同時に、冒険家としての目覚めと成長を醸したいのだろうが、彼自身にあまり魅力を感じないせいか、なぜか「どうぞご勝手に」となってしまった。映像が素晴らしいだけに「アバター」と同じ印象。 
[CS・衛星(字幕)] 5点(2012-08-22 18:04:33)(良:1票)
17.  完全なる報復 《ネタバレ》 
クリント・イーストウッドの「ザ・シークレット」を思い出した。悪役が完全に主人公の能力を上回っている。あの映画もマルコビッチが最後までイーストウッドを圧倒していた。この手の映画はある種、一見勝ち目がない悪人をどう追い詰めるか?出し抜くかが爽快感へとつながるのだが、ときどき出し抜けないまま犯人自ら死を選んで決着させてしまう作品がある。本作もその要素が強い。それほどジェラルド・バトラーの存在感が大きい。ただ、少し趣が違うのは犯人にそれなりの理由があって復讐していること。妻子を殺された上に司法取引で釈放されてしまう殺人犯そして司法関係者を復讐するのは被害者としてわずかながらも映画的には同情の余地がある。覚悟し牢獄での爆発寸前に子供の遺品を手にするカットもそれを強調している。その意味からも勧善懲悪ものではなくアメリカの司法制度の危うさを下敷きにしている点がこの映画の魅力だ。ところが、ラストはみなさんのご指摘通り「?」である。子供を優しい眼差しで見つめる主人公では何も解決していないのだ。殺人犯を野放しにした責任は家族といる時でさえ脳裏にこびりついてこそ納得できるのではないだろうか。少なくともラストシーンまではそう描いていたのだから。
[CS・衛星(字幕)] 6点(2012-03-15 01:22:20)(良:1票)
18.  アンストッパブル(2010)
トニー・スコット印の正統派アクション。現代のアクションのお手本のようなカット割とカメラワークでこの上ない緊迫感を演出している。どれほど繰り返し撮影を行っていたのだろう、わずか2、3秒(長くても5秒以内!)を丹念に積み重ねている。同じシーンを何度も何度もカメラ位置を変えて撮影し、あたかもひとつのシーンのようにつないでいる。わずか1分の描写も相当な時間と労力がかかっている。走る列車は並走する車かヘリからの撮影だが、そのカットの多さもすごい。ヘリを何機も接近&低空で飛行させているのだ。その努力があってこその映像、スピード感演出は惚れ惚れする。無駄な人物描写を極力省きすぐに事件を起こさせるストーリー展開も見事。いかに列車を止めるのかという本題に十分時間を費やせるからだ。この映画、あまりにも演出が際立っているため「この俳優じゃないと成立しなかった」がない、ある意味「俳優殺し」の映画とも言える。でもそんな映画があってもいい。
[CS・衛星(吹替)] 9点(2012-01-09 01:15:42)(良:1票)
19.  パーフェクト ストーム 《ネタバレ》 
実話で迫力シーンも随所にあり、おまけに悲劇的!であればそれなりにヒットするだろうと思って、題材選びで大間違いを犯してしまった典型的な作品。だって全員死んだのになんで凄まじさを描けるの?という根本に気づかなかったのか? 生き証人がいるからこその実話でしょ?すべて推測じゃ制作陣の妄想を見せられただけじゃん。
[DVD(字幕)] 3点(2011-10-13 14:09:35)
20.  ジュリエットからの手紙
不思議な映画の魔力を秘めている作品、それが鑑賞直後の印象。ベタで先が読める展開が「つまらない」ではなく、「だからこそ良かった」と素直に受け止められる。初見なのに「こういう映画好きなんだよなあ、もう1回見よう!」と思いながら見ている気分。まさに録画していたスポーツの勝ちゲームを見ている気分なのだ。ストーリーに翻弄されないから、映像や演技をしっかり堪能できる「余裕」や「安心感」を与えてくれるのだ。イタリアの美しい風景や50年前の恋人探しのクレアの少女のような美しさ、それを手伝うソフィのナチュラルな可愛さを感動できるのはまさにこのシンプルなストーリーのおかげなのだ。さらに感動を高めているのは、実際にヴェローナで「ジュリエットの秘書」たちによって行われている「ジュリエットレター」というなんともロマンチックなやり取りにすでに心打たれているからだ。おそらく今は亡きゲイリー・ウィニック監督やプロデューサーのエレン・バーキンもこの事実に相当ほれ込んだに違いない。それにしてもヴァネッサ・レッドグレーブが素敵過ぎる!あのブルーアイズの美しさは最近の洋画界でも特筆もの。彼女の瞳が50年をすべてあらわしているのだ。普通に考えれば、夫が亡くなって初恋探しをすることに後ろめたさを感じる可能性も無いわけではないが、彼女の立ち振る舞いと美しさはその夫としっかり愛情ある夫婦生活を送ってきた自負と威厳がある。おそらく亡くなった夫もあの世から応援しているかもしれない、とまで思えてしまう。一方ソフィも二人の男性の間で揺れ動くと思いがちであるが、すでにすれ違いはニューヨーク時代にさりげなく披露されており、別れは時間の問題であったことが伺える。ご都合主義、出来すぎと思いながらも、納得できてしまうのはそんな出演者の演技と演出によるものと感じずにはいられない。本来なら8点かもしれないが、震災以降の自分にとっては亡き監督と出演者への感謝の気持ちと、自分のメンタリティが映画によって救われるという「映画の魔力」を再認識させてくれた意味でプラス1点。
[試写会(字幕)] 9点(2011-05-17 10:00:08)(良:4票)
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