1. ユリシーズの瞳
泣きそうな気持ちで目が覚めることがある。重い夢。内容など何一つ憶えていないのに、その夢の終焉が悲しいことだけは分かる。重く長く深く辛く愛しい夢から、今しがた無理矢理引き離された、そんな喪失感と共に目が覚める。そんな夢をたまに見る。質量の大きく、密度の高い夢。この作品の背景など全然分からない。だけれど今思い返すに、そんな、長く重い夢のような作品だったような気がする。堆積する歴史。清澄な澱。静謐で肥沃な泥土。100年の孤独。この作品を思うと、ただそんなイメージが静かに湧く。 7点(2004-10-12 17:12:40) |
2. 春にして君を想う
眼前に茫洋と広がる霞む大洋。それは現実でありながら同時に、老境の心象風景のようで。私にはまだ、現実と夢との間に確固とした境界線がある。でも老境に立ち、生からの分離を目前とした者にとっては、現実と夢の境界線は、私が思うよりも無価値で無意味なものなのかも知れない。2人の老人のこれは紛れもない現実で、でも同時に1つの夢のように思えた。人生はいつか終わるし、夢もいつか醒める。その両者に、何の違いがあるのか、と。 6点(2004-10-12 05:22:55)(良:1票) |
3. ルナティック・ラブ/禁断の姉弟
この激安な邦題と“近親相姦”を前面に出したビデオパッケージに、映画会社の下卑た策略が見える。完全にエロ目当ての観客のみをターゲットにしている感があるけれど、実のところ、そんな売り方をするべき映画ではないです。どっちかというと、アート色が強い。原題の直訳は「セメントの庭」。私なら断然こっちのタイトルに食い付きます。「セメント」はその無機性から無感情と無慈悲と死を暗示し、「庭」はその有機性から家族や共同体を連想させる。砂上の楼閣ならぬ、セメントの上の共同体。絶対的なようで、どうしようもなく危なげな。歪曲した感情、腐肉、堆積した垢、無感情な絶望。漂って来るそんな臭気。とにかくその空気感は出色の出来ではないかと思う。ちなみにこの作品、アート色が比較的強めの某映画祭でもちゃっかり賞を取ってます。まあ私が云々言わなくても、【fero】さんがもう充分言って下さってます。もっと評価されるべきなのに、残念ながらタイトルで随分損している映画の1つです。 9点(2004-08-30 22:42:18)(良:1票) |
4. ベティ・サイズモア
ベティちゃんのキャラを可愛いと思える人には何の問題もない。でもあの不思議ちゃんぶりが駄目な人間にはキツい。ベティちゃんを「しっかりしろ!頼むからしっかりしてくれよ!」と泣きながら往復ビンタしたくなりました。キッツい天然ってね、付き合うのほんと辛いんですよ。泣けて来ます。でも本人は支障なく普通に生きて行けるんだよね。不思議です。それでよく生きて来れたよね…というような人はいっぱいいます。 5点(2004-06-21 14:24:59)(笑:1票) |
5. ネバーエンディング・ストーリー第2章
もうこの世にはいない人が出ている…。ジョナサン…私とそんなに年も変わらなかったのにな…。生き急ぎ過ぎました。この作品は残念ながら、“続編の甘え”で作られたもののように見受ける。ヒット作の安易な続編もの。それでも面白ければ別にいいんです。全然構わない。でもこれは面白くなかった。商業主義の匂いしかしない。ストーリーも、1ですでにネタ切れなのに無理やり突っ走っている感がある。ほうほうの体です。観てて痛々しい。そしてアトレーユも幼心の君も、残念ながら子役のレベルが落ちている(涙)。 3点(2004-06-20 20:29:45) |
6. ジターノ
やっぱりラテン系の醸し出す色気は凄い。そこはかとなく香る東洋の色気ではなく、もーうダイレクトで強烈な放出系の色気。濃い、濃い、濃い。ホアキン・コルテスの、“情熱”そのものを体現するようなパフォーマンス。素晴らしい。でもあそこまで強烈にセクシーだと、逆に引く(笑)。“ジプシーの血の掟”的な作品世界にも、どっぷり日本人の私には入って行きにくいところ。画面をまともに観られない位に強烈に極濃な作品。 5点(2004-06-20 20:23:08) |
7. 青い夢の女
最悪の事態です(笑)。私が主人公の立場ならどんなにテンパることか。まさに「青い夢の女」。ブルーにしてくれます。夢と現を彷徨うような、何とも不思議な感覚。主人公と同じ目線になり、一体何が現実で何が夢なのか、その境界線を見失って翻弄される。青みの強さが印象的な、艶めかしくも幻惑的な作品。 6点(2004-06-20 20:21:24) |
8. 黒猫・白猫
《ネタバレ》 前半ずっとだるかったので、最初の日は1時間だけ観てビデオを止めてしまった。次の日に、「あのテンションをずっと貫かれたらきついな~」と思いながら続きを再生したのだけれど、結婚式が始まった辺りから、なかなかどうして楽しい雰囲気になって来た。全編を通じて良いシーンは色々あるのだけれど、特に好きなシーンが2つある。1つは切り株の中から運命の恋人と出会うシーン。凄く可愛かった。「あ~、良かったねえ、本当に良かったねえ」とほっぺが綻んだ。2つは言うまでもなく、がちょうちゃんで体に付いたうんこを拭くシーンです。あれは笑っちゃったよ。がちょうちゃん、災難!ああ、あと白猫と黒猫のやる気のない感じの交尾も妙に印象的。何だかこの作品のテーマの隠喩であるような気もしました。 7点(2004-04-10 21:07:46) |
9. 暗い日曜日
《ネタバレ》 暗色のベルベットを撫でているような感覚を覚える作品。濃密でしっとりとした手触り。粋で洒脱で艶があり、温もりがありつつも冷ややか。エリカ・マロジャーンの匂い立つような色香にはやられてしまう。賛否両論あるラストは確かに、全編に対し妙に浮いた感じと違和感があり、ありゃりゃ~、一気に火サスっぽくなってしまったぞぇ、とは思ったものの、その粋な企みにニヤリとしてしまったのも確か。テーマ曲の「暗い日曜日」は、聞くと死にたくなる曲として有名だけれど、私はむしろ心が落ち着いてしまいました。いい感じに病み人なんで。 8点(2004-04-05 20:05:14) |
10. ゴーストワールド
頭が切れるけどひねくれていて、人と違う格好にこだわるイーニド。大勢の中に埋没したくないけど同時に世の中から浮くことや疎外されることに焦燥感を抱くイーニド。難なく世の中と折り合いを付けられる親友を蔑みながらも嫉妬するイーニド。「私は人とは違う」という優越感を持ちつつも周りから浮く自分に劣等感も感じるイーニド。自分の居場所が欲しい、かといって今更世の中と折り合いを付ける術なんて知らないイーニド。そんな彼女の強烈な自意識と動揺と葛藤の先に見えるゴーストワールド。青春の幻影。認めるのは恥ずかしいけれど、イー二ドは10代の頃の私にひどく似ている。 9点(2004-03-22 19:44:42)(良:2票) |
11. ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ
キューバ音楽によほどの興味がない限り、この作品を観続けるのはちょっと苦しいような気がする。確かにキューバの素晴らしい音楽や文化、それらを築いて来た第一人者たちのバックグラウンドが垣間見える、という意味では素晴らしいのだけれど、どうもこれは映画とは思えない。「ドキュメント/キューバ賛歌~ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブに密着~」という感じ。 4点(2004-03-22 15:45:16) |
12. 8 Mile
《ネタバレ》 洋楽にさほど興味もなくほとんど分からない私は、ラップというものが本来はあんなに汚い罵倒の言葉の羅列だとは知らなかったので軽く面食らったけれど、まあ、1つ勉強にはなった。2時間で安易にスターの階段を上るような出来合いのストーリーではなく、アメリカンドリーム前夜もしくは序章、という形でキッパリ終わるラストは良かった。主題歌の耳障りも良い。 6点(2004-03-15 12:11:54) |
13. スパイ・ゲーム(2001)
《ネタバレ》 プロットはよく練られているし、構成も見事だと思う。エンターテイメントとしての出来としてはかなり上の部類だと思うのだけれど、なんちゅーか、観終わるとほんと、残念ながらレッドフォードの老後の心配しか心に残らなかった。爽快感は感じない。ああ、やっちゃったね…的な。いや、あの部下はきっとまたいつか何かやらかすと思うよ。若さに任せて暴走して結局他人に迷惑掛けるタイプの人間は嫌い。更にしかもそれでも憎めないキャラっていうのはタチ悪い。でも最後まで観客を引っ張る力はあった。この作品に関してはその見事な構成力と、「これぞ男の映画!」的な骨太な雰囲気を買います。 6点(2004-03-15 12:04:35) |
14. ノッキン・オン・ヘブンズ・ドア
《ネタバレ》 絶望と諦念から始まる1つの旅。人生の終わりだからこそ始められた旅。コミカルでありながらも夢幻的。滅失に向かいながらも温かな希望がある。悲壮感のないあだ花。人生の終わりに見たいものがある人生、そして見たいものを見ながら死ねる人生はきっと、何だかんだ言って結構悪くない。私は、羨ましい。 8点(2004-02-19 21:24:29) |
15. バイオハザード(2001)
当時、有給を取って1000円デーに何となく観に行った。やっぱり1800円はちょっと払えないですね。特に何の気負いもなく何も考えずに観る分には良かったです。でもやっぱりあのシーンは「CUBE」なんですよねえ…。あちこちにパクリは感じました。新しいものは特にないですね。普通のエンターテイメント作品です。ミラ・ジョヴォビッチは素敵でした。 5点(2004-02-12 20:10:48)(良:1票) |
16. エンド・オブ・バイオレンス
テオ・アンゲロプロス監督の作品を観ている時のような感覚を憶えた(そういや、ヴィム・ヴェンダース監督、彼の「ユリシーズの瞳」を大絶賛していたな)。穿った見方、深読みをしようとすれば幾らでも出来そうな、潜在性のある作品なのだけれど、表層だけ見れば、退屈、冗長、難解という感じ。どういうアプローチで接するかで感想がかなり変わって来そう。個人的には本当に難しかったですね。さっぱりでした。私は深読みレビューを放棄する側に回りたい。ああ、難解だったよ…疲れたよ…。おいらの脳にゃ負荷が大き過ぎるよ…。 4点(2004-02-12 17:03:12) |
17. ピーター・グリーナウェイ 81/2の女たち
最初に観たグリーナウェイ作品がこれだったので、ケチが付いた。もっと他に作品があっただろうに、何でこれだったのだろう…。しかも勘でDVDを買ってしまったので(よくやるが、大概失敗はしない。これは例外)、やり切れない気持ちは尚更だ。雑誌で観た作中のシーンの写真の、豚の横で踊り狂う遊女姿の真野きりなの姿に「こ、これは…」と目を奪われた私は、思わず注文してしまった。このタイトルは、もちろんフェリーニの「81/2」から来ている。あの作品で提示された女性像に対する1つのアンチな女性像を描いているのだけれど、個人的には全編失笑の嵐だった。呆れながらも、ほうほうの体で何とか最後まで観切った。間違った日本描写も満載ですよ。日本からは真野きりなが出演しています。歌舞伎中毒の狂女の役で(笑)。この作品で唯一観るべきは、彼女の異質な美しさだけです(監督も彼女の美を絶賛している)。個人的には年に一度あるかないかのはずれ映画。いろんな人に警告したい映画。ある意味貴重。 2点(2004-02-11 14:16:48) |
18. グリンチ(2000)
基本的に毒のあるファンタジーは好きなのだけれど、コレとは肌が合いませんでした。アメリカ人にとって「グリンチ」というのは特別な存在で、幼年時代からその話を聞かされて育つという土壌があるからこそアメリカでは大ヒットしたのだろうけれど、日本人である上にこの作品で初めてその名前を知った私は、思い入れも全くないことも手伝って、さっぱりハマれなかった。美術がとにかく可愛らしく素晴らしいのは認めるところだけれど。 4点(2004-02-08 13:00:31) |
19. 17歳のカルテ
精神科勤務経験のある友人の話では、「境界性人格障害」の人は一見しただけでは正常な人との違いが分からないそうです。そして人目を引く程の美人がやたら多く、それに関してはちゃんと裏付けがあるそうです。だからこの作品で描かれる患者たちはきっとリアルなのでしょう。ところで、ウィノナの役は17歳じゃないですね。この邦題はおそらく、日本でちょうど「17歳」という年齢が取り沙汰されていたということで、大衆心理に訴える為に考えられたのでしょう。確かに効果的な邦題ですが、ちょっと安直な気もします。 6点(2004-02-06 14:13:00) |
20. エアフォース・ワン
何かに付け、アメリカ人にとって大統領ってのは特別なのだなあ、と思う。ヒーローなんでしょうね。…ハッ。内容はダイ・ハード空中密室バージョンみたいな感じで、エンターテイメント作品!という感じです。そつなく出来ていると思ったので、6点献上。ただあの馬鹿馬鹿しさには腹が立ちますが。大統領があんなに強いかよ。美化すんじゃねえよ、いい加減抜かすなよ、みたいな。 6点(2004-01-28 20:46:56)(笑:1票) |